全文表示 巨大女子相撲部

筑井「ハァ・・ハァ・・」

   医務室前を離れ、集合場所の    広場に到着した筑井。

   すでにそこで待っていた瑠璃が    そんな彼の姿をイライラした様子で    見下ろしていた。

瑠璃「ちょっと遅くないですか?」

瑠璃「30分後に集合って話ですよね?」

瑠璃「まあ、せいぜい10分程度の遅刻    だから優しい私は許しますけど」

筑井「ごめんごめん」

筑井(てことは、まだ40分ぐらい    しか経ってないのか‥‥。    かなり濃い時間だったな‥)

筑井「あれ・・?」

筑井「そういえば美香は?    彼女はまだ来てないの?」

瑠璃「あの子もまだ戻ってきてませんよ」

瑠璃「浜辺まで距離ありますし、    帰るのが遅くなっても仕方ないん    じゃないですか」

筑井「それもそうか・・。    しばらく待つしかなさそうだね」

   それから待つこと約5分。

   美香は慌てた様子で手を振りながら    二人の元まで向かって来た。

美香「ごめんなさい遅くなっちゃって」

瑠璃「ほんと遅いってば、時間は    ちゃんと守ってくれないと・・」

美香「すみません・・」

瑠璃「先輩から美穂のことはもう    聞いたから話すけど、一応    見つかりはしたらしいよ」

瑠璃「怪我はしてるみたいだけど、大した    ことはないから心配いらないって」

美香「えっ‥あぁ‥。そうなんですか」

瑠璃「大したことはないと言っても    しばらく、この島に残ることに    なるらしいけどね」

瑠璃「とりあえず、ひとみも部屋に    戻ってるらしいしもう解散しましょ。    私眠くて眠くて・・・」

   瑠璃が取り仕切った後、特に    何か3人の間で会話があるわけでも    なく各々が広場から離れて行った。

   美香と瑠璃が寮へと向かい、    筑井はナナのいる医務室へ    一人足を運ばせる。

   彼女達と一緒にいる間は平然を    装っていたが、暗い廊下を    歩く彼の顔は浮かばれるもの    とは言えなかった。

筑井(あれぐらいの反応で終わって    くれて助かった・・)

筑井(何とか美穂さんのことを    隠し通すことはできたな・・)

筑井(それにしても、これから槍薔薇は    どうなるんだろうか?監督もいつ帰って    くるか分からないし美穂さんまで‥‥)

筑井(この2人がいない状態で    ナナのことまであるんだ‥。    いったいどうすれば‥)

   ナナを槍薔薇で保護することに    なってはいるが、藤崎がいない今    美穂のような被害者がまた    出てくる可能性がある・・。

   それだけは避けなければならないと    考えていた彼は、彼女をかくまう別の手段が    ないか自分なりに模索していた。

   俯きながら廊下を歩き、    医務室前に到着しようとした時、

   床に何かが倒れて    いるの発見する・・。

   目を凝らしてそれを見てみると    そこにはナナが倒れていたのだ。

   " 彼女は脱走を図ろうとしていた "

   瞬間的にそう思った彼は急いで    彼女の元へと駆け寄る。

筑井「お、おい!何してんだ・・!?」

   心配・・、と言うよりも    今の彼は先程までのこともあり、

   身勝手なナナの行動に    いつになく苛立ちを覚えていた。

筑井「何勝手ことやってんだよ!」

ナナ「・・・・・・・・・」

   筑井が声をかけた後、彼女は    ゆっくり体を起こし始める。

   その時の彼女の目を見てみるも    その瞳は無感情そのもの。

   倒れていたにもかかわらず、    なぜかひどく落ち着いた印象を    受けるものであった。

   それを見て冷静さを    保てていないのは、    自分の方だと思った彼は

   何とか気持ちに    整理を付ける。

筑井「大丈夫・・?」

   先程までとは違い穏やかな    調子で語り掛ける。

   だが、いかりだろうと優しさ    だろうと、今の彼女からすれば    どちらも関心を抱きる要素には    成り得なかった。

筑井「動きたい気持ちは分かるけど、    まだ体調も万全じゃないんだろ?    まだ、ゆっくりしとけよ」

   筑井が喋っている際中には    すでに彼女は立ち上がり、    移動しようとしていた。

   行き先はどうやら医務室内。

   ナナが戻る意思を見せてくれた    ことに安心した彼もまた、一緒に    立ち上がり医務室内に入ろうとする。

   すると、ナナが一度振り返り    筑井の顔を見てきた。

筑井「ッ・・・!?」

   突然、腹に蹴りを加えられ    彼は膝から崩れ落ちる。

筑井「んっ・・・ぐっ・・・」

筑井「何すんだよいきなり・・・」

   何とか声をしぼり出し、今の行動の    意図を問いただそうとする。

   しかし、その問いに対してすら    答えが返ってくることはなかった。

   それから彼女は、フラフラの状態で    ドアまで歩き、力尽きたかのように    その場に座り込む。

   彼女の一連の不可解な行動・・。

   それに対し疑問も抱けば、    困惑もする・・。

   だが、そんなことよりも筑井は    ナナに対していきどおりを    感じ続けていた。

   不都合な事実の連続が    そうさせていたのだろう。

   だが、それをここで    ぶつけたとしても状況は    むしろ悪化するだけ。

   そう思った彼は、    何とかその感情を抑える。

ナナ「・・・・・・・・・」

ナナ「・・・・・グスッ・・」

   すると彼女から鼻をすする    ような音が聞こえてきた。

   今までナナの情緒がどのような    状態にあるのか分からなかったが、    その一音のおかげで、筑井は彼女の    感情を読み取ることができた。

ナナ「・・・・・・・・・」

ナナ「どうして・・・・・。    どうして一人にするの・・」

筑井「・・・・・・・・ッ?」

   筑井がさも存在しないかの    ように小声で喋りだす・・。

   こんな状態の人間を未だかつて    見たことのない彼からすれば

   この状況でどうすれば良いかなど    分かるはずもなかった。

   その後はひたすらの傍観。

   隣からその姿を見守る    ことしかできずにいた。

ナナ「兄さん・・どこに行ったの・・。    何で私を置いていくの・・」

ナナ「真西さん、私は捨てられたの・・?    じゃまなの・・?ねえ教えてよ・・」

筑井「っ・・・・・・・・」

   そう呟いた後、彼女はドアを    思いっきり殴りつけ、静寂しきって    いた寮内に大きな音を響き渡らせる。

ナナ「ふざけんな・・!!

ナナ「全員勝手に    死にやがって!!

ナナ「私を一人にして    何がしたいんだよ!

ナナ「なんで皆離れていくの・・」

   再び弱々しい声を出したかと    思えば、次は何も喋らなくなる。

   この状態は筑井もまずいと感じて    いたのだろう。恐る恐るではあったが    彼はナナとの距離を徐々に縮めていた。

   何をしようかなど考えてはいない。

   とにかく、ただ近づくだけ。    それだけしかできることはなかった。

   そんな彼の変化に    気付いたのかナナは顔を    上げ筑井と目を合わせる。

   その顔は軽く緩んでおり    気味の悪い笑みを    浮かべていた。

ナナ「なぁ・・?」

ナナ「私が邪魔なんだろ・・」

筑井「・・・・・・・」

ナナ「だったら殺してよ。    早く殺せよ・・」

筑井「・・・・・・・・」

筑井「お前、何言ってんのか    分かってんのか・・・?」

ナナ「うん、分かってる・・」

ナナ「抵抗しないからさっさと首絞めろよ」

ナナ「それとも刺し殺すか・・?」

筑井「ッ・・・・・・・・・・」

ナナ「早くしろや!!    薄鈍うすのろが!!」

   不快な程の大声でナナは    怒声を上げた。

   その後、彼女の方から    筑井に迫ってくる。

   この威圧的な行動の連続。

   普段の筑井なら    怖気づいていたことだろう。

   だが、今の彼がひるむことはなかった。

   むしろその逆‥。

   ナナの顔目掛け、    右の手のひらを振りぬく。

   人に対して決して手を上げて    こなかった筑井だが、この時ばかりは    躊躇ためらう様子を一切見せなかった。

   理性も何も関係なく、ただ体が    勝手に動いてしまっていた。

   顔を背けた彼女の表情は    険しいものに戻り、鬼のような    目つきで彼を睨みつける。

   しかし、それは筑井も同じで    彼女が手を出そうとしてくる    一瞬前に胸倉を掴みだす。

   筑井に胸倉を掴まれた後    彼女もそれをやり返すかのように    同様の体勢をとり怒りを見せる。

ナナ「何の真似だ、てめぇ・・・」

ナナ「ふざてんのか、    この野郎!!」

筑井「それはこっちの台詞せりふだ!!」

筑井「お前こそふざけんのは大概にしろよ!    72の気持ちを踏みにじるつもりか!」

筑井「お前を死なすために72は    犠牲になったんじゃないんだろ!」

筑井「彼の犠牲を無駄にするような真似は    何があろうと絶対許さないからな!」

ナナ「望んでないんだよ・・・」

ナナ「そんな形で生き残ることなんて、    こっちは望んでいないんだよ!!」

筑井「言い訳並べて逃げてる    だけじゃないか!」

筑井「今朝、僕のことをもやしって    言ってくれてたよな・・」

筑井「でも、今のお前はそれ以下だ!    お前の方が僕よりよっぽど    情けねえぞ!」

   彼がそう言うとナナは    掴んでいた手を振りほどき、    筑井を無理矢理突き放す。

   それでも彼は前に出ることを    辞めようとはしなかった。

筑井「グっ・・・!?」

   執拗に近づく筑井に更に    腹を立てたのか、ナナは    彼の顔面を殴り飛ばした。

   その勢いで受け身も取れず    頭から勢いよく地面に倒れる。

筑井「って・・・・・・」

   さすがの彼も、今の一撃を    喰らった直後に起き上がることは    できずにいたが、

   その目は屈する意思を    見せる様子は一切なかった。

ナナ「ハァ・・・ハァ・・・。

ナナ「うっせえんだよ、ゴミのくせに」

ナナ「こっちのこと何にも知らねえ    のに分かったようなこと    言ってんじゃねえぞ!!」

ナナ「大事な人も、希望も全部失った」

ナナ「もう私の手には何も残って    ないんだよ!!」

ナナ「何もないまま、苦しみだけ    背負って歩き続けろって言うのか!」

ナナ「そんな先に何があるって    言うんだよ!」

ナナ「苦しませる為に私を生かす    つもりか、てめぇは!!」

筑井「・・・・・・・・・・」

筑井「お前何言ってんだよ・・」

   意識は朦朧もうろうとしていたが、    彼の目つきは今までになく    鋭さを増すものとなっていた。

   震える体に喝を入れ、    何とか腰を上げ立ち上がる。

筑井「まだ、僕がいるだろ!」

筑井「何もないなんて言わせねえぞ!」

筑井「苦しみだって一緒に背負ってやるし    幸せだって絶対見つけさせる!」

筑井「72セブンツーが命を懸けて僕に任せたんだ!」

筑井「だったらそれぐらいやってやる!    やらなくちゃいけないんだ!」

ナナ「・・・・・・・・・」

ナナ「・・・・・・・・・」

   彼がそこまで言い終えると    廊下は再び沈黙に包まれる。

   ナナはそれから筑井に目を    合わせることもなく、扉の方を    向いてそのまま動かずにいた。

   彼女の目はまだ警戒していることを    物語るような険悪なもので、

   筑井との距離を感じさせる    ようなものに変わりはなかった。

   それから少し冷静さを    取り戻した彼は改めて    ナナに向かって話しかける。

筑井「・・・・・・・・」

筑井「・・・・ごめん」

筑井「勢いで調子のいいこと    ばかり言っちゃって・・」

筑井「さっきまでの意見は僕の    気持ちを素直に伝えたまでだ」

筑井「だけど、最終的に選ぶ    のはナナ、きみだ」

筑井「いくら72の思いとは    言っても強制する権利は    僕にない」

筑井「これ以上は何も言わないよ。」

筑井「一人でどこかに行くと言うのなら    勝手にしてくれ・・」

   そこまで言い終えた筑井は    それ以後、ナナと目線を    合わせることはなかった。

   返事がくることはないかも    しれないが、体勢を変えぬまま    彼女が喋りだすのを待つ。

ナナ「・・・・・・・・・・」

   それからしばらくの時の間    二人が動くことはなかった。

ナナ「・・・・・・・・・・」

ナナ「フゥ・・・・・・・・・・」

   どれだけの時が    経ったのだろうか・・。

   ナナがやっとのことで    口を開く。

ナナ「できんのあんたに・・」

筑井「えっ・・・・・」

ナナ「見せてくれんのかって    聞いてんだよ。幸せってやつ」

筑井「!?・・」

筑井「・・・・・・ッ」

筑井「ん、んぅ・・・・たぶん」

ナナ「なんだそりゃ・・・」

ナナ「さっきは絶対とか    抜かしてたくせに」

ナナ「それじゃ期待はできないっての」

ナナ「だけど、まあもう    少しだけ付き合ってやる」

ナナ「あくまで仕方なくね・・」

ナナ「どっか行ったら行ったで、    あんたうるさそうだし」

筑井「え、あっあ・・そう・・」

筑井「それよりナナって・・」

筑井「結構すぐ正気に戻るんだね」

ナナ「黙れ、殺すぞ!!

筑井「ヒぃ‥!?

   それからナナは少し不貞腐ふてくされた    様子で医務室に入っていく。

   そして、遅れて筑井も医務室の    扉を開くのであった。

NEXT