全文表示 巨大女子相撲部

   時は戻り、筑井達は依然陰に隠れ、    浜辺の様子をうかがっていた。

筑井(クソッ‥何がどうなってるんだ)

筑井(それにあそこにいるのは・・)

   茂みの先にあるものを発見    した後、体を震わせる筑井。

   彼はそこにあるものを見て    強い恐れを感じていた。

   彼が目にした現場に    あったもの、それは‥。

   先程、美穂と会話を    していた女二人とその隣に    傷だらけになって倒れている    彼女の姿であった。

   体中、あざと傷だらけになっており、    すでに意識はなくなっている状態。

   そんな彼女の隣に何食わぬ顔で    座っている二人の様子に狂気に    近いものを彼は感じていた。

 葵「やっぱこんなもんか」

 葵「藤崎が差し出すぐらいだから    もうちっと、すごいのかと    思ってたのにね」

 李「・・・・・・・・」

 李「もう一人・・いる・・」

   李の発言を聞いた瞬間緊張が走る。

   それ以降、筑井はつばを飲み込む    ことすら、あやぶまれる程に狼狽うろたえ    る様子を見せていた。

   今ここで捕まってしまえば、    自分達も美穂と同様に    やられてしまうかもしれない‥。

   本能的にその考えが脳裏をよぎる。

   その影響か彼の体は無意識の内に震えが    していき、気付いた時には、この場から    体が勝手に遠ざかろうとしていた。

   だが、恐れからこの場を離れる行為    だけは絶対にやってはいけないと    思ったのか、何とかその場に    踏みとどまる努力する。

   しかし、不思議なことに彼女達が    さっきの一言を最後に動き出すどころか    喋りだすこともなぜかなかった‥。

   そんな怯える筑井の様子を見かねてか    則夫が小声で彼に声をかける。

筑井「き、聞こえますよ‥。則夫さん」

則夫「理由は分からんが向こうは    こっちに関心を抱いていない」

則夫「ここにいる限りは大丈夫だ。    心配するな」

則夫「それより、きみは孔雀の蒼雲    あたりを呼んできてくれないか?」

則夫「まずは永嶋さんを助けなくちゃ    ならないからな」

筑井「・・・・・・・・・・」

筑井「はい・・・・」

   小声で会話をしていたものの    その返事は、今までの会話よりも    更に弱々しいものとなっていた。

   彼の本心として、その"はい"という    返事は何より愚かしいものだと    考えていたからだ。

筑井(なんで僕は、はいって答えてるんだ‥。    則夫さんはどうするんだよ‥‥‥)

筑井(まさかじゃないけど、奴らの前に    出るつもりではないよな‥?)

   則夫かれは怯える自分の姿を    見てこの場から遠ざけ、    させようとしている・・。

   筑井は今の発言を    聞きそう考えていた。

   だが、昨夜の美穂との会話で    彼は美穂の助けになりたいという    思いを募らせていた為、

   ここから逃げ出したくないと    いう考えに至っていたようだ。

   しかし、あくまで助けを    呼びに行くのが、この状況に    おける最善の策。

   それは本人も分かっていたが、    則夫に心配されたあげく、

   この場から逃げる    ような形で移動することに強い    抵抗感を示していたのだ。

   助けになるつもりが、    結局自分は助けを呼ぶこと    しかできないのかと、

   悔しさで胸が    いっぱいになっていた。

筑井「則夫さんはどうするんですか‥?」

   どう返事がくるか大方の予想は    できていたが、ここで聞かないわけ    にはいかないと思い質問をする。

則夫「別に大したことはしないさ。    永嶋さんから気をらさせる為に、    あいつらと少し会話をしてくるだけだ」

則夫「まあ色々気になる    こともないわけじゃ    ないからな」

筑井「・・・・・。」

筑井「それ‥、その‥、僕が行きます‥!」

筑井「則夫さんが助けを呼んできて    ください。人に任せっきりなんて‥」

則夫「ん・・・っ。    いや、きみ分かっとらんだろ」

則夫「仮にも俺は足を怪我してんだぜ。    それに元から筑井くんの方が    足は速いはずだ」

則夫「できるだけ助けは早いに    越したことはないから、    君がこっちに残る必要はない」

則夫「何より、医者が怪我人前にして    どっか行くわけにはいかんだろ」

筑井「・・・・・・・・・」

   涙目になっていた筑井の様子を    見た則夫は彼の肩を軽く叩く。

則夫「早く行ってこい。    こう見えても口には    ちょっと自信があるんだ。    心配することはないさ」

   則夫は筑井に一言を送った後、    肩に乗せていた手を離し    茂みの陰から浜辺へと移動    していった‥。

則夫「よっ」

 葵「んっ・・?」

 葵「次から次に人来るね。    ここじゃない方が良かったっぽい」

 李「・・・・・・・・」

   彼が前に出る姿を    茂みの奥から見届ける筑井。

   則夫の心配はしていたものの    助けを呼ぶように頼まれた以上

   それを成さなければならないと    考え、筑井は女子相撲部寮へと    向かって走り出した。

   自身の無力感にさいなまれながらも    彼は来た道を戻り続ける。

筑井(くそっ‥!)

筑井(結局また逃げてるだけだ。    僕が何も言わずに前に出てれば、    良かったじゃないか‥!)

筑井(それに震えが止まってきている。    それも離れれば離れる程に‥)

筑井(自分が前に出なくて良かったって    きっと思ってるんだ‥)

筑井(そして美穂さんみたいに    ならなくて良かったとも‥)

筑井(そう体が本音を語っている‥!)

筑井(どこまで屑なんだ僕は‥!)

   苦悶の表情を浮かべながら    筑井は森の中をひたすら走り続ける。

   本当にこれでいいのかと    自問自答を重ねるが、

   いくら考えても人に助けを    求める以外の答えが    出てくることはなかった‥。

   走っていた途中何かの根に    引っかかり思いっきり倒れこむ。

   その後、すぐに立ち上がるわけでも    なく数秒間うつ伏せになる状態が    続く。

   それから彼は何とか顔を上げ    再び走り出す為に体を起こした。

   立ち上がってから、    則夫のことを心配してか    一瞬だけ後ろを振り向く。

   そしてすぐに正面を向きなおし、    最初の一歩踏み出そうとした、    そんなタイミングで‥。

   ズドゴォンッ!!

   頭上を巨大な影が覆ったかと思えば、    次は極大の柱が地面に突き刺さり    大きな揺れを起こしたのだ。

   その凄まじい衝撃に体は宙に投げ    出されバランスを崩してしまい、    又しても地面に叩きつけられる    こととなった。

   何が過ぎ去ったのか気になり    その影の正体を見定めるべく    再び後ろを振り返る。

   しかしあまりの勢いと夜の暗さも    相まり、それが誰なのか確認    するまでには至らなかった‥。

筑井(大きさは蒼雲‥‥。いや、違う‥。    もっと上だったはず。てことは‥    もしかして‥)

   巨大な影の正体が何者で    あるか直感的に理解した彼は    それからその後を追いかけ始める。

 葵「おっちゃん誰?    おっちゃん何しに来たの?」

則夫「俺は医者をやっているものだ」

則夫「別に特別なことをやりに    きたわけでもないが」

則夫「お前達の隣に倒れている嬢ちゃんが    ボロボロになってんのが気になって    様子を見に来たってところだ」

則夫(こいつら結合双生児のミドルか。    この雰囲気から察するに偶然の産物    ってわけではなさそうだな‥)

 葵「ふぅ~ん、おっちゃんお医者さんか。    なんで人を助けようと思うの?」

 葵「やっぱお金の為?    でも、こいつ助けたところで    お金にならなくない・・?」

 葵「だったら助ける意味なくない?」

則夫「まあ金の為ってのはあるけど、    君らみたいな人たちを助けたいから、    この職業に就いた」

則夫「今は医者ってより、    研究職って感じではあるが」

 葵「助けたい・・?なんで・・?」

 葵「人を助けて何がいいの?」

則夫「感謝されたい、    それじゃダメか」

 葵「ダメじゃないよ」

 葵「でも、私には分かんない。    感謝されたら嬉しいの?」

則夫「あぁ、嬉しいさ」

 葵「おっちゃん変わってるね」

則夫「変わってる奴に変わってるって    言われてもな・・」

 葵「私が変わってる・・?」

 葵「変わってるってどういうこと?」

則夫「他と比較して違うって    ことじゃないか」

 葵「私から見たらおっちゃんは変わってる」

 葵「おっちゃんから見たら私は変わってる」

 葵「私達は違うってこと?何かが?」

則夫「あぁ、そうさ。    価値観が違うってことだ。」

則夫「でも、俺はそういう人達とも    分かり合えればいいなと思ってるよ」

 葵「水と油は交わらないよね?」

 葵「どちらかが変わらない内は    分かり合うことはないじゃん?」

 葵「それってさー・・。    私達に変われって言ってるの?」

則夫「そうとは言ってない。    俺が受け入れることだってある」

則夫「それにお互いが違っても    一緒になれることだってあるさ」

則夫「俺達は水と油じゃないんだから」

 葵「・・・・・・・・・」

 葵「んっ・・・・・・・・・」

 葵「ふぅ~~んぅ‥。    まあいいやそんなこと」

 葵「それより美穂こいつ、    助けたいんだっけ‥?」

 葵「でも、こっちは喧嘩ふっかけ    られてんだよね。    それで正直イライラなわけ」

 葵「何もしないって言うなら別に    こっちも何もしないけどさ」

 葵「助けるって言うんなら    話は変わるんじゃない?」

則夫「・・・・・・」

則夫「そいつが迷惑をかけた    ことは謝ろう。だが、見ても    分かる通り危ない状態だ」

則夫「医者の立場として    放ってはおけん」

則夫「怪我の状態だけでも    見させてくれないか?」

 葵「・・・・・・・・。」

 葵「させると思う、そんなこと?」

 葵「ッ!?」

   葵と李が不機嫌な表情を見せ    始める中、突如彼らは大きな影に    包み込まれることとなる。

   筑井が先ほど見た人物が    この浜辺に到着したようだ。

 葵「んんぅ~~~・・・?」

 葵「どっかで見たことある・・。    どっかは忘れたけど知ってる」

 李「やっと出てきた‥もう一人‥」

則夫「おいおい、表に    出てくんなって言われて    なかったか」

   則夫が後ろを振り向き    遥か頭上にあるその人物の    顔を見て話しかける。

未來「今は非常時ですから」

   なんとそこに現れたのは    槍薔薇の現部長かつ、大将の    大内田おおうちだ 未來みらい

   筑井達かれらのピンチに    颯爽さっそうと姿を現した。

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