巨大女子相撲部

   ナナの為にご飯を取りに行って    いた筑井は医務室へ戻るべく    廊下を歩いていた。        この一般寮内には定住している    人間が数人おり、その人達の食事を    提供する為に食堂が存在している。    そこから彼は余ったおにぎりと    たくあんだけを貰い彼女の元へ    戻っていたようだ。

   戻ってきた彼がドアを開け中を    確認すると、変わらず彼女は    ベッドの上に座っていた。 筑井(ふぅ・・よかった・・。    逃げ出されでもしてるかと    思って少し不安だった・・)    ナナの隣に立った彼は    おぼんの上にある、2皿ある内の    1つを自分が取ったのち、それから    おぼんごと彼女に渡す。    おぼんを受け取った彼女は    不思議そうにその上にある物を    見つめていた。 ナナ「‥‥‥。なにこれ‥?    米がこんなにまとまってるの    初めて見たんだけど‥‥。    それにこの黄色いの何」 筑井「おにぎりとたくあんって    言うんだけど、初めて見るの?」 ナナ「ふ~ん・・‥。    おにぎりってえらく物騒な    名前してんのね」

筑井「あっいや‥、鬼を斬るんじゃ    なくて握るだからね。それと、    今持ってるのは、たくあんだよ」 ナナ「どっちでもいいっての。鬱陶しいわ」    それから、中々食べ始めようと    しないので彼は続けて声をかける。 筑井「僕がまた毒見してあげようか?」    そう言うと、彼女は慌てた    様子でおぼんを手で隠す。 ナナ「なんで、あんたに食わせ    なくちゃならないのよ!」 筑井「ご、ごめん・・・。    それだったら一緒に食べようよ。    僕の分も貰ってるからさ」 ナナ「気持ちわりいな‥。    私が食い終わるまで食うな」 筑井「分かったよ‥。けどさ、    普通に僕だって傷つくよ‥。    もうちょっと優しくしてくれよ」

   彼の悲痛な意見も完全に無視。    彼女は勢いよくご飯を食べ始める。    かなりお腹が空いていたのだろう。    一瞬にして皿の上から食べ物は    姿を消してしまった。 筑井(すげえ食べっぷりだな‥。    まあ、彼女も食べ終わったこと    だしお腹いてるから    僕も食べようかな・・)    筑井が食べ始めようとした時、    彼は鋭い視線を感じる。    ナナの様子を見ると恐ろしい    目つきでこちらを睨みつけていた。    それが意味するものを理解する    ことができた彼は、彼女の機嫌を    損ねぬようすぐに対応する。 筑井「食べる・・?」    恐ろしくなった筑井は    皿の上にあるおにぎりを    ナナに向けて差し出した。

   体を動かすことができない彼女の    位置からでは、手を伸ばしても    受け取ることが困難な距離が    開いていた。    こちらに早く近づけ。    と、言わんばかりに目を細め、    眉間にしわを寄せ筑井を威圧する。    渋々、彼はベッドわきに    身を近づけた。    その瞬間、目にも止まらぬ早さで    彼女の腕がおにぎりに伸びる。    筑井からおにぎりを強奪した彼女は    勢いよくまた、それを食べ始めた。 筑井(これじゃまるで動物だな・・)    そう思いながら彼女が    食べる様子を少し落ち込み    ながら、見物し続ける。

ナナ「ふぅー・・・・・」 筑井「おいしかった?」 ナナ「全く」 筑井「そういう風には見えなかったけど」 ナナ「次はもうちょっとうまいもん    持ってこいや」 筑井「が、頑張るよ」 ナナ「それよりあんたさ・・」 筑井「ん・・・?」    唐突に話を振られることとなり、    若干ではあるが緊張が走る。

ナナ「あんたっていったい何者なのよ・・?    取り柄も何もなさそうなのに    何で誘拐のターゲットになってた    のかが理解できないんだけど」 筑井「僕も詳しくは知らないんだけど    ターゲットになってたのは    僕みたいなのが女子相撲部に    入部してたからじゃないの‥?」 ナナ「女子相撲部・・・・?    あのミドルが見世物になってるやつ?    つかあんた、アンダーでもないし    そもそも女子でもないでしょ?    なんで女子相撲部にいんのよ」 筑井「女子相撲部に入った理由を話すと    長くなるから割愛するけど、    別に大した理由はないよ。    ほんと成り行きだから・・・」 筑井「それより聞いてて気になったん    だけど、なんで僕がアンダー    じゃないって知ってるの・・?」    誘拐の件や刀祢に勘違いされていた    ことを思い返した彼は、彼女がなぜ    その事実を知っているのかが    気になったようだ。

ナナ「どう見てもって言うのはあるけど、    真西さんから話を聞いてるから」 筑井「・・・・・・・」   (真西さんか、よく名前が出るな。    72を連れ去って、そしてナナを    ここへ連れてきたミドルだったはず‥)    ナナの言う真西さんと美穂の言った    真西 椿が同一人物であることを、    彼はすぐに察する。    しかし、完璧に状況を把握    しきれていない為、美穂から聞いた    情報は彼女に伝えない方が良いと    判断し、ここでは何も話さない    ことにしたようだ。    その後も彼女が話を続けていたので    集中してそちらに耳を傾ける。 ナナ「あんたさ‥。    成り行きとか言ってるけど    あの藤崎美理央が在籍を認めてる    事実がある以上何もないなんて    ことは絶対にないでしょ」 ナナ「何か隠してることがあんだろ」

筑井「ほんとに特別な理由はないんだ!    強いて理由を上げるとすれば    ストレスのはけ口。たぶんそれが、    僕の唯一の役割!」 ナナ「フーン・・・‥‥」 筑井(さすがに部員達や監督のことを    ありのまま伝えるわけにはいかない。    こう言うしかないよな・・・) 筑井「と、とにかく今までの話を    聞いて安心したよ・・!」 ナナ「は・・?何言ってんの・・?」 筑井「だって、僕がアンダーじゃないって    君が知ってるってことは、    もちろんその事実は協会側も    知ってるってことだろ・・?」 筑井「てことは、誘拐される心配は、    もうないはずだよね・・?」 ナナ「いや、それはないと思う。    そもそも今回の任務は本来    アンダーとか関係ないし」 筑井「へっ・・・?」

筑井「僕がアンダーの可能性が    あるから調べに来たのかと    思ってたけどそうじゃないの・・?」 ナナ「あんた、全然分かってないわね。    いくら訓練積んでようがアンダー相手    じゃ、誘拐何か成功するわけがない。    藤崎を見ればそれぐらい分かんだろ」 筑井「まあ、確かに‥」 ナナ「依頼者はあんたがアンダーじゃない    ことを知っていたから誘拐の依頼を    出してきたに決まってる」 ナナ「ただ、協会はミドル施設に身を置く    一般体系の人間がいたという事実を    依頼を受けて初めて知ったらしいから、    あんたのことをアンダーだと    考えてても何らおかしくない」 ナナ「兄さんの初めての任務失敗が    あんたの誘拐だったから、    その疑いは強まってるかもね」 筑井「そ、そうなのか‥‥。依頼者がいて    その人が再度依頼すれば、また誘拐    される危険がある。そういうことか」

ナナ「うん。依頼が無ければ誘拐は    ないんじゃない。協会側が    アンダーだと思っていたとしても、    それが誘拐に直結することはない」     筑井「教えてくれてありがと‥。    でもなんでそんな依頼が‥?」 ナナ「んなこと私が知るか」 筑井「そうだよね‥。ごめん‥。    ちなみに、さっき真西さんって人に    僕がアンダーじゃないって聞いたって    言ってただろ?だったら、    協会も僕がアンダーじゃないって    聞いてるんじゃないのか?」 ナナ「兄さんが情報元で、知ってるのは    真西さんと極剛力山 殺、そしてもう    1人はおそらくだけど13イーサンの3人だけ。    それ以外には話してないだろう    から、たぶんそれはない」 筑井「彼らがどういった人物かは知らない    けど誘拐から時間も経ってるし、    今言った彼らの内誰かが、もう    話していてもおかしくないんじゃ?」

ナナ「真西さんは私と一緒に協会を裏切った    からそれはない。残りの二人に    関しても話してる可能性は低い」     ナナ「極剛力山 殺は戦闘を誰よりも好む    いかれたミドル。あんたがアンダー    じゃないと他が知れば、出場できなく    なると考えるはずだから公言はしない」 筑井「でも、僕がアンダーじゃないって    聞いているんだろ・・?わざわざ    そんなことする意味があるとは・・」 筑井「戦闘が好きって言うならアンダーの    僕と戦いたいと思ってたはずだろ?    アンダーじゃない僕に関心を    持ち続けるとは思えないけど・・」 ナナ「仮にあいつがアンダーでないことを    信じていたとしても、関心を    失うようなことは絶対にない」 ナナ「さっきも言ったけど藤崎美理央が    部員として認めている事実がある以上、    殺も間違いなく注目はしているはず」 ナナ「あいつにとって藤崎美理央つまり    アンダーはかなり特別な存在だから」

筑井「なるほどな・・・・。    雑誌で彼女の名前だけは    知っていたけど、そういう    人物だったのか・・・」 筑井「でも、気になるんだけど    その殺って人はただの相撲部員だろ?    なぜ、協会の人間やナンバーでない    彼女が僕の情報を教えられてるんだ?」 ナナ「それは兄さんが話したからに    決まってるでしょ」 筑井「でも、なんでわざわざ彼女に    話す必要が・・・・」 ナナ「・・・・・・・・・」    その問いに対し彼女は    神妙な面持ちになり話し始める。 ナナ「あいつを止められる人間が誰も    いないから。兄さんは殺される    ために、奴に情報を話した」 筑井「こ、殺されるためって意味が分か    らない・・。どういうこと・・・?」

ナナ「ナンバーがパートナー制って    知ってんの?」 筑井「うん‥、きみの兄さんから聞いてる」 ナナ「それなら話が早い」 ナナ「体を壊して仕事ができなくなった時    そのナンバーは協会側の完全監理の元    保護されることになってるんだけど」 ナナ「そうなってしまえば、片割れは    実質人質を取られた状態になる。    人体実験だろうが確実に死ぬような    仕事でも、パートナーのことを    思って聞き入れるしかなくなる」 ナナ「兄さんはそうなることを恐れて    自分から死ぬことを選んだ」 ナナ「もし、即死を実現できる権力を    持った人物を探すとなれば    極剛力山 殺ただ一人しかいない」 筑井「極剛力山 殺っていったい    何者なの・・?普通の女子相撲部員    ではないのは確かだけど・・」 ナナ「・・・・・・・あいつは・・」

ナナ「女子相撲協会会長 久内 徹の娘」 筑井「会長の娘・・・・?」 ナナ「大きさも他のミドルと桁違いだし    会長の娘ってこともあって    好き放題やってんのよ・・」 ナナ「私達に人権はないから何人も何人も    あいつの娯楽で殺されてる」 ナナ「藤崎美理央レベルなら    力で押さえつけることもできるん    だろうけど、さっきのおっさんの    話を聞いた限りそれができないのも    分かったわけだし・・」 ナナ「協会側であいつの暴挙を    止められる奴は誰もいない」 筑井「それで、きみの兄さんは    その状況を逆に利用したわけか」 ナナ「うん・・・・」 筑井「・・・・・・・」

筑井「こういうことを聞くのもあれだけど、    そんな状況だと何て言えばいいかな。    精神が病んで逃げ出す子や    自害する子も多いんじゃ・・」 筑井「そんないつ、誰が死んでも    おかしくない状態が続く組織が    まともに成り立つとは思えない」 ナナ「辛くなったら逃避、自殺・・。    当たり前の発想なんだろうけど、    私達はそんなこと考えない」 ナナ「極限状態で生きてる間は逃避する    余裕がそもそもないのよ」 ナナ「あんたみたいな、もやしが私生活で    病むことがあるのかもしれないけど    精神病になれるだけ幸せな証拠」 ナナ「はっきり言って、そんなもんに    なれる環境があるだけ、こっちから    してみれば羨ましくすらある」 ナナ「私達はパートナーの為に    仕事をこなし生きなければならない。    自分が駄目になったら全部終わんだよ」 筑井「・・・・・・・」

ナナ「仮に自殺をやろうにも徹底した    監視体制もあるから、やるに    しても難しいでしょうけどね」 ナナ「もし、それができたとしても失敗して    辛うじて生き残るようなことがあれば、    さっき言った通り協会の操り人形に    なるだけ、やるにしてもリスクはある」 ナナ「けど、こんな状況下でも全部が    全部悪いわけじゃない。ナンバー皆、    仕事やスキルに誇りを持ってるし    仕事自体も楽しいものだと思ってる」 ナナ「頑張りさえすれば地獄から這い    上がれるんだから悲観的になってる    奴はほとんどいない。ある意味これも    幸せの形の一つなのかもしれないわね」 筑井「そうなんだ・・・」    あまりに想像を超える世界の話を聞いた    彼は、言葉を詰まらせ軽い相槌を打つ    ことしかできなかった。 ナナ「ちなみにその這い上がった一人に    さっき言った13イーサンってのがいる。    ナンバーには階級制度があるんだけど、    そいつは上級クラス」

ナナ「その13イーサンってのは上級クラスの    中でもかなり協会に気に入られてて    行動制限がほぼないに等しい」 ナナ「総合的な能力で言えば    めちゃくちゃ優秀な奴」 ナナ「ナンバーとの交流が深くて    兄さんとも仲良くしてたのは    知ってる」 ナナ「兄さんが極剛力山 殺の前に立つ    少し前に13イーサンが表れて真西さんに    兄さんのことを伝えて姿を    消したらしい」 ナナ「あいつのことだから、    もしかしたら兄さんが死ぬまでの    段取りにも関与してってことも    あるかもしれないって真西さんは    言ってたかな‥」

ナナ「とにかく謎が多い奴であいつしか    知らない秘密もめちゃくちゃある    と思う。必要以上の情報は協会側に    教えるような奴じゃないからたぶん    伝えていない可能性が高い」 筑井「そうなのか・・。    僕の正体が協会に知れてないと    言った理由は分かったよ」 ナナ「こんなことあんたに話したところで、    何の意味もないんだろうけど、    まあ暇つぶし程度にはなったわ」    そう言って彼女は僕とは    反対方向を向き横になり始める。 ナナ「もう話はいいでしょ。    まだ体力が回復しきって    ないから、また寝るわ    話しかけんじゃねえぞ‥」

   それから彼女は何も喋らなくなる。    本格的に眠りに入るようだ。    昨晩から寝てなさそうだし    ご飯も食べて眠くなったのだろう。 筑井「はぁ・・・・」   (興味本位で話を聞いてしまったけど    彼女の言う通り僕が何かできる    次元の話じゃないな‥。    話したところでって言われるのも    仕方のないことだ‥) 筑井(それでも、せめてナナぐらいは    不幸な目に合わせないように    しないとだよな・・・。    72かれが最後に僕に任せてくれたんだ。    その期待は裏切れない・・)    そう思いながら筑井は    彼女が寝静まる姿を見届け、    自身のご飯をもう一度受け取りに    部屋を出るのであった。

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