巨大女子相撲部

   筑井達が医務室で話を終えた頃、    女子相撲部員達は各々のメニューに    合わせたトレーニングを開始していた。    槍薔薇の1年生達は基礎体力を    つけるためのトレーニング、    2年生達はそれぞれのグループで    試合に近い形式で稽古を行う。

瑠璃「ふぅー‥ッ。疲れた」    ひと試合終えた瑠璃が    美穂の隣に腰を掛ける。 美穂「最近調子いいわね」 瑠璃「勝率も上がってきたし、案外    相撲の道も向いてるのかも、私」 美穂「それは良かったじゃん」 瑠璃「なんか素っ気そっけなくない」 美穂「いつもこんなもんでしょ」 瑠璃「まあ、そうだけどさぁ・・」    美穂の素っ気ない態度を気に    しつつも彼女は話を続ける。 瑠璃「それにしても何で、合同練習なのに    孔雀と試合させてくれないんだろ?」 瑠璃「いつものメンバーでやるのとは、    緊張感も違うしそっちの方が    お互いの為になるはずなのに」

二崎「花園監督の意向でしょ」 瑠璃「それが具体的に分からないって    言ってるんじゃん。知られたくない    情報とかあったりするわけ?」 二崎「その可能性もあるけど、もしそう    なら合同で練習何かしないでしょ」 瑠璃「それもそうか‥」 二崎「平均的な力は槍薔薇やりばらの方が上だと    判断してるから試合をさせたく    ないんでしょうね」 二崎「全国大会の1年前とは言っても負け    越すようなことがあれば不安を    煽る結果になりかねないし」 瑠璃「そう言われれば納得かな‥。    負けたから次は負けないように    頑張ろうッ!ってほど、やる気の    ある子はそういないもんね」 瑠璃「結局のところ私達、半強制的に    やらされてるようなもんだし。    モチベーションを如何に維持    させるかが大事ではあるか」

瑠璃「まあ、美穂と刀祢って子は    やる気まんまんって感じだけど」    美穂を横目に見ながら    煽る調子で声をかける。 美穂「・・・・・・・・・」    瑠璃の発言に対し美穂が    反応を見せる様子はない‥。    俯いたままボンヤリとしていた。 美穂「・・・・・・・」ハァ    そして、彼女は小さな    ため息をつく。    その様子を心配してか、次は    美穂の顔を見て彼女は話しかけた。 瑠璃「なんか様子変じゃない?    体調でも崩したの?」 美穂「そんなんじゃないけど‥、    まあ、いろいろとね」

瑠璃「もしかして、昨晩のあれ    まだ気にしてんの?」 美穂「えぇ、そうよ‥」 瑠璃「それなら大丈夫だって!!    もう監督いないんだし    心配することないよ」 美穂「え‥、あぁ・・そっち・・」 瑠璃「そっちって他に何かあんの?」 美穂「別に大したことじゃないから」 瑠璃「どうせ、美穂のことだから食べ過ぎで    トイレでもまた詰まらせたんでしょ」 美穂「いつも詰まらせてるみたいな    言い方しないでくれる!」 瑠璃「ほんと冗談通じないんだから。    でも、今ので元気出たでしょ」 美穂「元気出させるにしても、もうちょっと    別のやり方あるんじゃないの‥」 二崎「・・・・・・・・」

   そんな3人の様子を遠目で    見ている人物がいた。    それは孔雀の監督である花園。 花園(あの3人は、槍薔薇2年でも    上位に入るグループ。その中でも    二崎さんと永嶋さんは選抜入りは    ほぼ間違いないと言われとったはず) 花園(こんな機会もそうないやろうし    少し話でもしてた方が    ええやろうな‥)    孔雀の部員に指示し終えた    花園は3人の元へと近づく。

花園「永嶋さんに二崎さんに宝峯ほうみねさん。    突然すまんな。こっちの作業    もう済んだから少し付きうて    くれたら嬉しんやけど」 二崎「・・・・・・・」 美穂「もちろん喜んで。まさか    そちらから声をかけていただける    とは思っていませんでした」 二崎(名前覚えられてるあたりマーク    されてるってところかしら・・) 花園「その言いぐさやと、何か私に話したい    ことでもあったように聞こえるな」 美穂「そういうわけでは‥」 花園「何か聞きたいことあったら気兼ねなく    聞いてくれて構わんよ。答えられる    範囲でしか答えんけどな」 花園「その代わりこっちも聞きたいことが    あるんよ。言えんのやったらそれは    もちろん喋らんでええ」

花園「こんなこと言うても喋りづらいか。    軽くこっちから質問させてもらうわ。    あんたらから見て今の孔雀はどう    見える?客観的な意見が欲しくてな」 美穂「どうって‥、私は良い感じ    じゃないかなって思いますけど‥」 花園「良いって何が?」 美穂「何かと言われると難しいですが、    今年のスタメンと比べて個々の選手の    癖がだいぶあるので、相性によって    優劣がすごく変わる印象です」 美穂「一点特化した選手が揃っている。    というのが、私の見解ですかね。    だからこそチームとしてのバランスが    ある意味とれているとも思ってます」 花園「よう見とるわ、永嶋さんは。    私がやってきたこと見透かされとる    ようでちょっと怖かったで‥」 花園「シンプルな相撲の実力って話なら    今年のスタメンのが個々の力は    あると言い切ってもええやろうけど」

花園「こん子らはそれぞれの個性にあった    育て方を行って来たから永嶋さんの言う    ことは当っとるわ。チームとしての力は    今年よりぐんッと上がるやろうな」 花園「それにプロ入りも視野に入れるなら    オールマイティの器用貧乏より、    そういった選手のが求められとるし、    今の形で損になることはないやろ」 二崎「去年までは今までのデータを    元に作成された訓練内容で指導    されていたと聞いていましたが    方針をだいぶ変えられたようですね」 花園「よう知っとるな‥。藤崎さんは調べ物    とかせんイメージやったけどこっちの    分析もしっかりされとったわけか」 花園「まあ、それもこれも蒼雲がおった    からって言うのが大きいんやけどな。    いくら同じ量努力しても勝てへん    存在おったら、やる気おきんやろ?」 花園「周りと比べだしたらそれこそ    挫折する子が多くなってまうからな。    だから個を重視するスタイルに    なったというわけや」

美穂「努力しても勝てないですか・・。    それについて私からも質問をさせて    もらいます。1年間鍛えたとしても    私達では蒼雲を倒せない‥。そう言って    いるように聞こえなくはないですが、    花園監督はどう考えられてますか?」 花園「まあ、無理やろう。    性格はあれやけど才能は天下一品。    何もせんと圧倒的にあの子は強い。    本音を言えばそんなあの子を誰かに    倒してほしいと思っとるんやけどね」 花園「個を重視しているとは言っても    蒼雲には絶対に勝てん。そう考え    てる子も事実多い。やけど、    その考えじゃ大会もまず勝てんわ。    全員が一番目指すぐらいやないと」 花園「希望を持たせる意味でも    蒼雲の敗北を私は求めとる。    それに蒼雲本人も負けた方が    やる気出るかもしれんしな」 美穂「悔しいからあまり言いたくはない    ですが、花園監督が言われた通り    今の私じゃ蒼雲は倒せません‥」

美穂「花園監督は槍薔薇の誰かに    蒼雲を倒してもらうことを    期待してるのかもしれませんが    現状だとそれは難しいかと」 花園「こっちは勝てん言うとんのに、    あんたはまだ、今の私じゃって    言うんやな。その向上心嫌いやないで。    せっかくやから、そんな美穂さんに    良い事教えといたるわ」 花園「来年の全国大会、蒼雲は"中堅"で出す。    それは今後も変わることはない。    もし、戦いたいんやったら中堅で    あんたも出ることやな」 二崎(出場順番を教えるなんて    こっちにとってはかなりの    アドバンテージになるけど・・。    それだけ負けない自信が    あるってことね・・・) 美穂「中堅ってことは3番目ですか?    彼女の実力なら大将で出場する    ものかと思っていましたけど」

花園「あの子の性格じゃ大将やらせれんやろ。    何より全国大会で重要なんは    大将よりも中堅、どう考えても、    一番強い子そこにもってくるわ」 二崎「それは私も同感です」 美穂「私は先鋒が大事だと    思いますけどね・・」 花園「先鋒も流れを作る意味合いや    先に1勝取れる重みを考えれば    重要なのには変わりないな。    どこがええかは人によるか」    彼女達の言う先鋒や中堅は    全国大会における順番を表すもの。    1番手を「先鋒」「次鋒」、    「中堅」、「副将」、「大将」    となる。    全国大会ではそれらの呼称の元    各高校から5名が選出され試合を行う。

   勝敗の決め方は先に「3勝」した    高校の勝ちというシンプルなもの。    3試合目まで全勝していれば    その時点で勝利となる。    3勝していないにしても、どちらかの    高校が勝ち星まで後一つになる    重要な局面の為、中堅が一番    重要視される結果となっている。    何より4試合目5試合目は    3連勝すれば試合すら行われない為、    確実に出場する1~3試合目に    実力のある選手を出す高校が    ほとんどである。    こういったルールになったのには    理由があり、それはできるだけ    早く終わらせるため。    ミドルの活動区域外で試合が    行われるのが一つと、それに    合わせた交通規制も行われるため    速やかに進行が行えるよう    今の形式になったという。

   ちなみに出場順は全国大会の    1か月前から誰がどの順番で出場    するか確認が可能である。    公開後または、試合中における交代も    審判員や協会が認めない限り行なう    ことは許可されていない。なので、    対戦カードが変更されることは    ごく稀なことであった。    基本的に情報が解禁されてから    対戦相手の分析を行うものなのだが、    1年近く前に蒼雲が中堅で出場    するという情報を得られたのは    槍薔薇にとってかなり大きな事。    出場順の1人が割れれば他がどう    なるか予想も立てられ、しかも    その1人が蒼雲なのも3勝を築く上    では非常に有利に働く情報である。    ここで順番をばらしたのは    確固たる自信があってのことだと    花園の話を聞いていた3人は    理解していたようだ。

花園「まだ聞きたいことあるんやったら    教えたるよ、ええで気使わんで」 二崎(完全になめられてる‥‥。    未來さんがいない槍薔薇ならどうにか    なると思ってるんでしょうね‥)    こちらが有利になる情報を    小出ししていることを挑発だと    捉えていた二崎は多少ではあるが    花園に対し、嫌悪感を抱いていた。    すると、美穂が花園に    真剣な眼差しを向け声をかける。 美穂「いえ、花園監督。    質問はもう結構です。その代わり    お願いしたいことがあるのですが    聞いていただけないでしょうか?」 花園「なんや?」 美穂「今から刀祢と試合をさせて    ください。お願いします」 花園「えらい急やな。どうしたん」

美穂「大会の話をしてたらやる気が出てきた    もので。それに刀祢も試合をしたがって    ましたよね?丁度いいじゃないですか」 二崎「・・・・・・・・」    槍薔薇に誇りをもっている美穂だから    こそ、舐められた態度に怒りを    覚え今の自分達の実力を見せつけようと    考えているのではないか‥?    二崎は彼女の姿を見てそう感じる一方    その行動に違和感を感じていた。    美穂かのじょは人に見せつける為に勝てる    相手と勝負をするような性格ではない。    今まで一緒に過ごしてきたからこその    不信の念‥。もしかしたら数多の重圧に    よって精神が安定していないのかもしれ    ないと思い心配する様子を見せていた。 花園「そういうことやったらええよ。    止める理由は何もないわ」    あっさりと交渉は成立し    二人の試合が行われることに。

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