巨大女子相撲部

   ナナが落ち着くまで筑井は近くに    立っていることしかできなかった。    待っている間彼の頭の中では    自身が想定していた最悪の    シナリオになっているのかも    しれないと考えていた為    不安が募る一方であった。    しばらく彼女の様子を見ていると    落ち着きを取り戻したのか    顔を上げ筑井の方を一瞬だけ見る。    声をかけていいか悩んだものの    話をしなくてはいけないと思った    彼は彼女に再び声をかける。 筑井「何があったかはあえて    聞かないけど、それがいつ    どこで拾われたものかを話すよ」

筑井「6日前に槍薔薇高校で    拾われたものらしい。    もともと拾ったのは僕じゃ    ないから本当に拾われた    ものなのかは分からないけど」 筑井「そして、その日僕は    ある人物に誘拐されかけた。    そのボイスレコーダーの持ち主は    その誘拐犯の物のはず‥‥」    そこまで話し彼は言葉を詰まらせる。    涙を流した彼女の姿を見て会話の    内容を考えざるを得なかった。 筑井「・・・・・・・・」    それからしばらく静寂が続いた後    最初に聞こえてきた音は彼の足音。    とても小さな音ではあるが彼が    一歩後退りあとずさりしたその音は医務室内を    大きく響き渡る。    そんな彼の行動をナナは    不審そうに見つめていた。

筑井「ごめん!!    僕が間違ってた!!」    彼は突然、頭を地に着け    土下座をし始めた。    ナナからしてみればなぜ彼が頭を    下げているのか理解などできない。    それは筑井もまた分かっていた。    しかし、こうする以外に今どう    行動すべきなのか答えを見出す    ことができずにいた。      そして彼は続けて話し出す。     筑井「僕が捕まってさえいればきみが    泣くことはなかったんだよね‥‥。    傷つくことも‥‥だから本当にごめん」    精一杯の誠意を見せる筑井。    あの時から彼はどう行動していれば    良いか自分の中で答えを出していた。    にもかかわらず、それをやらずに    一人の人間を傷つけてしまった    事実に自責の念を感じていた。

ナナ「そんなことされると    こっちが辛いんだよ‥‥‥。    だから頭なんて下げるな‥‥」    ナナに頭を上げるよう言われた    筑井は素直に言うことを聞き    ゆっくり顔を上げる。 ナナ「兄さんと何があったかまでは    知らないけど、悪い関係じゃなさ    そうだから先に教えてあげる」 ナナ「72はもう死んだ」 筑井「ッ・・・・‥?!」    この時初めて彼女の口から    72という言葉が出てきたのと    同時に彼の死を突然言い渡された    ことにより正面を向いていた彼の    顔は再び地面へと吸い寄せられた。    今まで感じたことのないような    感情の波が彼の中で渦巻く。    悲しさや怒りとは違う    混沌としたものであった。 筑井「・・・・・・・・」

   そんな彼の様子を気にしてか    彼女は話を続ける。 ナナ「兄さんはもともと先が    長くないのは知ってた。    遅かれ早かれ別れの時は    来るんだろうと覚悟はしてた」 ナナ「あんたが誘拐されようと    されまいと兄さんが死んでた    事実が動くことはない」 ナナ「この傷にしたって任務を    失敗したから負わされたものでも    ないし、それで責任感じてるなら    勘違いも甚だしいっての」 ナナ「だから勝手に思いつめんな‥」    言い方はきついものの初めて    彼女から思いやりのある言葉が漏れた。    彼女の方がずっと傷ついているはず    なのに、それでもこちらを気遣い    慰めてくれている事実に余計に心が    苦しくなってしまっていた。

則夫「ねっむ・・・」    するとそこへ則夫が部屋に入ってきた。 則夫「な~っにしてんのよ、お二人さん‥?」    涙目になっている二人を    見て困惑する則夫。それから    なんとなく状況が飲み込めたのか    則夫はナナの元へ近づいてきた。 則夫「一応、初めましてになるかな。    昨日、怪我してるところを治療したん    だけど覚えてるわけないだろうし」 則夫「則夫って呼んでくれ。    まあ、よろしこ」 ナナ「・・・・・そう」 則夫「んっ・・・・?」    何かが目に留まった則夫はそれを    確認する為にナナに更に近づく。

則夫「ちょっと、手に持ってるもの    見せてくれないか?」    彼が興味を示していたのはナナが    手に持っていたボイスレコーダー。    それを彼が受け取り事細かに    観察をし始めた。 則夫「やっぱ春川グループのもんか。    昨日は持ってなかったはずだが」 筑井「それ・・僕が彼女に渡したんです」 則夫「なるほど‥‥。これ持ってたって    ことは、そっちのことも全く    知らないわけじゃなさそうだな。    だが、なぜこれを筑井君が    持ってたわけ?」 筑井「・・・・・・・・・。    6日前にある組織の人達が    僕を誘拐しようとした時にその    誘拐犯が落としていったものです」 則夫「なるほど、なるほど・・。    誘拐か・・・。そりゃ大変だったな」

筑井「大変だったなって・・・?    なんで驚いたり疑ったり    しないんですか・・?」 則夫「驚いてはいるよ。リアクションが    薄いだけ。そもそも、そっち方面の    話は君より俺のが詳しいし、まあ    多少驚いたってレベルでしかないが」 則夫「で、ナンバーだろきみ」    筑井と会話をした後    ナナの顔を見て則夫が尋ねた。 ナナ「そうだけど・・・」 筑井(ナンバー・・・?) 則夫「今のご時世あんな傷だらけになる    人間なんてそんないないからな。    まじの奴に会うのは初めてなんだが、    まさかこんな子がねえ‥‥。    ちょっと意外だわ」 筑井「あの則夫さん・・・」 則夫「ん?どした?」

筑井「ナンバーって言うのは    何なんですか・・・・・?    それに彼女の話を聞いてると    監督も彼らと全く関係がない    というわけじゃなさそうですし‥!」 則夫「んぅ・・・・・。    筑井くんちょっと落ち着きな。    結構やべえとこに足つっこみ    かけてるから聞かない方が    いいと思うけども‥‥‥」 則夫「部外者ってわけでもないし    きみにも知る権利はあるか、    それより今後のこと考えたら    知ってた方がいいだろうしな」    困り果てた様子で則夫は    ベッド手前にある椅子に腰かけた。 則夫「ただ、これは基本的に秘密だから    他の誰かに話さないでくれよ。    まあ俺は口が軽いから    話しちまってるけど‥‥‥。    きみら口固そうだし大丈夫だろ」

則夫「話すとは言っても俺が知ってるのは    ナンバーの成り立ちぐらいだ。    今どうなってるかは俺は知らん。    それだけでも良いって言うなら    話してやるよ、ナンバーについて」 筑井「・・・・・・・・・」ゴクッ 則夫「まずナンバーって言うのは筑井君を    誘拐しようとした組織の名前ね。    そして、そのナンバーを説明するに    あたって外せない人物がいる」 則夫「名前は久内くない とおる。    現女子相撲協会の会長だ」 筑井「女子相撲協会の会長・・?    ミドルでもないナンバーかれらが    いったいどう関係してるんですか?」 則夫「そのことを説明するとなると    少し長くなる。とりあえず腰掛けなよ」    則夫に呼ばれ筑井は昨日ナナの    治療中に待たされていた椅子に座る。

ナナ「・・・・・・・」    ナナは則夫が来てから    彼がどこの何者なのかを    ずっと考えていた。    そして、彼は会長である、    久内の過去まで知っているという    事実から協会の事情に詳しい人物    だということまでは分かった。    彼がいったい何者なのか確かめる為    彼女もまた彼の話に耳を傾ける。    彼女が視線を向けていたのを    確かめてから則夫は話を続けた。

則夫「まず奴の父。久内くない わたる。    彼が始めた事業が    ナンバーの原型になる」 筑井「事業・・?」 則夫「児童養護施設の設立    今から約60年ぐらい前の話か」 筑井「児童養護施設って言うのは・・?」 則夫「簡単に言えば孤児院みたいなもんだ。    それも無許可で運営されてた施設」 則夫「この施設ができた時代はこの国も    裕福と言えた時代じゃないから    非公認のものなんていくらでもあった」 則夫「その副産物の一つとして    生まれたのが通称エヌオー。    それがこの施設の名前ね」

則夫「エヌオーはただの児童養護施設としての    役割とはちょっと違うことをしていた」 則夫「建築・土木系の技術を幼い頃から    子供たちに教えて15になってすぐ    現場で活躍できるように    育成するような施設だったんだ」 則夫「久内 渡はもともとそっち方面の    仕事をやっていたらしくて    知識も豊富だったわけだ」 則夫「そんな彼に指導された施設の    子供達はその時代の需要を満たすには    もってこいの存在だった」 則夫「いわゆる人材派遣のような形態だな。    その手数料で一定の利益を出していた」 筑井「今のところ孤児という    要素以外はあまり関連性が    見えてきませんけど」

則夫「そうかさんでくれ。    話はあまり得意な方じゃねぇし    ゆっくり話は進めさせてもらう」 則夫「それから活動を始めて約1年が    経った頃、児童養護施設エヌオーから    合同会社エヌオーに変わる」 則夫「とは言ってもやることは    今まで通り人材派遣だ。    事業の拡大をする上で    信用をほっしていた渡は    そのために会社化したんだろう」 則夫「で、そこから更に利益が    増えていくわけだが    ここで渡は何をしたと思う?」 筑井「なにって・・?    何かすることあるんですか?」 ナナ「子供を買い始めたんでしょ」 則夫「お、さすがだね。    よく分かってんじゃん」 ナナ「だって私も同じだから」

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