巨大女子相撲部

   女子相撲部員達が特訓を始め、    藤崎が島を後にした少し前のこと。    寮内から相撲部員達の姿を見終えた    筑井は医務室へ向かっていた。 筑井(昨夜はほとんど会話すること    なく終わっちゃったから結局    ナナあのこがどんな子なのか分から    ないままなんだよな・・・) 筑井(ナナ‥‥、あっ、そういや呼び名が    一緒だからややこしいな‥‥‥。    72って呼ばないとか・・・) 筑井72かれの関係者である可能性は    高いけどまだ、そう決まった    わけじゃないし、どうやって    話を切り出せばよいものか‥‥)      いろいろと頭で考えながら    医務室まで辿り着いた筑井。    緊張した面持ちで中へ入る。

   中を確認すると    昨夜と同じ場所に彼女は座っていた。    僕が入ってきた瞬間俯いていた    顔を上げこちらに睨みを利かせる。    この時、冥瓦はすでに姿を消しており    医務室にはナナ一人だけがいる状態。     筑井(則夫さん来てないのか、困ったなぁ。    いるかと思ったんだけど・・・)    こちらを常に見てはいるものの    彼女から喋りかけてくる様子はない。 筑井「お、おはよ・・」    気まずい空気に耐えかねた彼は    自分から彼女に挨拶をした。 ナナ「・・・・・・・・」 筑井(無視か・・・・)    それでもめげずに彼は声をかける。 筑井「おなか減ってない?    何か食べたい物とかある?」 ナナ「・・・別に」 筑井「そ、そう・・」

筑井(めちゃくちゃやり辛い・・!!    いったいどうすりゃいいんだ・・)    どうすればいいか分からず    困り果てた筑井は固まってしまった。    そんな様子を見かねたのか    次はナナが声をかけてきた。 ナナ「水・・、水もってこい」 筑井「・・‥…は、はぃ‥‥」   (こわい・・・)    イライラした様子で    指をリズムよく動かすナナ。    その姿を見て彼は更に緊張していた。    近くに飲み水の確保ができる場所が    ないかと思いキョロキョロと    周りを見渡し始める。    軽く見回してすぐに蛇口とコップの    存在に気付いた彼は、急いで    飲み水の準備をするべく動き出した。    筑井が水を汲んでいる間、    その様子をナナは凝視し続ける。

   そして、水を汲み終わり、    彼女の元へそれを持っていく。    おぼんの上にコップを乗せて    それを前に出し受け取るように促すが    なぜか彼女は受取ろうとしない。 筑井「ど、どうしたの・・・?」 ナナ「先に飲めよ」 筑井「えっ・・僕は別にいらないんだけど」 ナナ「変なもの入ってるかもしれないだろ。    あんたが飲まないなら私は飲まない」 筑井(警戒心強いな‥。自分から    頼んどいて嫌な態度だし‥‥)    信用を築くうえでも必要な    作業だと考えた筑井は仕方なく    彼女の指示通り水を少しだけ飲む。    もちろん、普通の水であるため    何事もなくそれを飲み終える。    大丈夫だと言うことを証明した彼は、    おぼんにコップを戻し、無言のまま    彼女の前に再度水を差し出した。

   次は抵抗する様子も見せず    コップに手を伸ばしたナナ。    手に持ったコップを見つめた後、    何を思ったのかコップを回転させ    筑井が口をつけた部分から    彼女は水を飲み始める。    そして一気に水を飲み終えた彼女は    筑井に向かってコップを握っていた    手を思いっきり前に出してきた。 ナナ「んっ・・・」 筑井(片付けろってことね・・。    それにしてもこの子は    僕とは相性が良くないようだ‥‥)    コップを受け取った筑井は    それを流し台まで持っていき    片付けの作業に入る。    その様子をナナはまた    不思議そうに眺めていた。    コップを元の場所に戻した筑井が    ナナの方を振り返ると不機嫌そうな    表情でこちらを睨みつけていた。

ナナ「あんたバカなの?」 筑井「え・・・?」 ナナ「おかわり持ってこいって    言ってんじゃん!!」 筑井「は・・?」   (言ってないでしょ・・)    多少の苛立ちを覚えつつも    我慢して彼は洗ったコップを    手に取り再びコップに水を入れる。 筑井「んっ・・・」    次はおぼんに乗せることもなく    めんどくさがる様子で    彼女にコップを差し出した。 ナナ「・・・・・・・・」    しかしそれも彼女は受け取らない。    もう分かってんだろ、お前が先に飲め。    そう彼女が伝えてきているのだと    考えた彼は、嫌がらせのつもりで    次は口をつけずに少しだけ水を飲んだ。

   コップの淵に毒があるとナナは考えて    いるのだろうと思った筑井は、あえて    口をつけずに渡そうとしたようだ。    雑な扱いを受けた仕返しと    言わんばかりに。    しかし予想を反し彼女はすぐにコップを    手に取り、次は半分だけ水を飲み干す。 ナナ「くだらな・・」    こちらの意図が読めていたのか    小ばかにした様子で呟いた。    その瞬間、恥ずかしさと    鬱陶しさを同時に感じる筑井。    穴があったら入りたい    まさにそんな心境であった。    だが、彼女の面倒を見るように    頼まれれいる以上なめられっぱなし    だといけないと思った彼は勇気を    振り絞り彼女に意見をすることに。

筑井「ちょっときみね‥‥!世話して    もらっている立場でその態度は    ないだろ。今の感じを続ける    ようなら面倒を見てあげないよ」 ナナ「別に頼んでねぇし」 筑井「水はきみが頼んだじゃないか」 ナナ「そっちが聞いたから    答えただけだろ」 筑井「・・・・・・・」グッ‥    困り果てた筑井は、聞くべきでは    ないと思いつつもある質問を    彼女に投げかけることに。 筑井「なんでそんな冷たくするの?    何か気に障ることでもした?」    自身の弱さをひけらかすことに    なり兼ねない質問であったが    この関係性が継続するよりは    ましだと思った彼はやむを得ず    聞いてみることにしたようだ。

ナナ「別に嫌ってないけど。    いつも通り喋ってるだけだし」 筑井「そ、そうなの・・?    まあそれならまだいいんだけど」 ナナ「それよりここってどこ?    知ってる情報あるだけ話せよ」 筑井「あれ、監督から何も聞いてないの?」 ナナ「監督って誰だよ」 筑井「こう言っても分からないか‥‥。    藤崎美理央さんって    言えば分かるかな?」 ナナ「あいつ監督なんだ‥。そもそも     あんたさ、あいつが私に何か    話すとでも思ってんの?」    藤崎をあいつ呼ばわりされた    ことに多少の苛立ちを覚えるも    今までの態度からそれにも    悪意はないと考え話を続ける。

筑井「どちらかと言えば寡黙な人では    あるからね。話してなくても    不思議ではないか‥」 筑井「何も聞いてないようだしここのことに    ついて話すよ。ここは三里桜島って    島で監督が所有してる島なんだ。    今は合宿で槍薔薇と孔雀ヶ原の    生徒達がここに来ている」 筑井「ここにいる間だけになるかは    分からないけど僕が面倒を    見るように頼まれたから    しばらくよろしくね」 ナナ「そぅ‥‥。言っとくけどあんたらの    世話になるつもりはないから。    今は体動かせないから世話に    なってやってるだけ」 筑井「きみが独立できるまでのこと    だろうし、それでいいけどさ‥‥」 筑井「とりあえず監督が帰って来るまでの    間は勝手な行動はしないでくれよ。    何があるか分からないんだし」

ナナ「あいつが帰って来るまで・・?    意味が分からない。あいつが    私に対して何かしてくれるわけ?」 筑井「そ、それは・・・・」    昨夜藤崎かのじょが面倒を見たくない    と言ったことを思い出した筑井は    言葉を詰まらせてしまっていた。 ナナ「恩着せがましく面倒見るとか    勝手に言ってんじゃねえぞ!    あいつに押し付けられただけで    仕方なくあんたがやってるだけだろ」 筑井「そんなことはないって‥!」 ナナ「助けたくて助けてるわけでも    ねえくせに、面倒見るとか気持ち    わりいんだよ。お前も藤崎も」 筑井「言われたから面倒見てるのは    間違いないけど、僕は嫌々    やってるわけじゃない。それは    行動で証明していくつもりだ」 ナナ「行動で証明ってせいぜい    見殺しにする結果しか見えないけど。    お前はあいつと何も変わらない」

ナナ「藤崎は一度だって私達のこと    助けようなんてしてくれなかった。    そのせいで何人、人が死んだか。    あいつもお前も信用何かできるか」    筑井に向かって怒りの表情を    見せるナナ。彼女が感情的に    なったせいか筑井もまた    今の発言に怒りを覚えていた。 筑井「一度だって助けてくれなかったって    今助けてもらってるじゃないか。    僕のことはどう思ってくれても    構わないけど、助けて貰っといて    監督のことを悪く言うな!」 ナナ「あんなゴミのこと庇ってんじゃ    ねえぞ。あんな奴死んで    然るべき存在なんだよ」 筑井「それ以上言ったら僕だって    許さないからな‥‥!!表面上で優しく    することはなかったかもしれないけど    監督は君のことを心配してたんだぞ!!」 ナナ「・・・・・・・」チッ

ナナ「うるさい!!」    持っていたコップを    筑井に向かって投げつける。      半分ほど残っていた水の    ほとんどが筑井にかかった。    割れることなく床に落ちたコップ。    それをゆっくり拾い上げ何も言うこと    なく流し台に持っていき洗い始める。    その様子をナナが    見ることはなく俯いたままの    状態で動かずにいた。    それから数分間医務室内は    筑井がコップを洗う音以外    物音ひとつすることはなかった。

   しばらくしてから心の整理がついた    のか再び筑井は彼女の前に出る。 筑井「話したくないなら話さなくて    いいけど、きみのことを    少し教えてくれないか?」 筑井「監督が助けてくれないって    言ってたけどどういうことなの?」    びちょびちょに濡れた    衣服の中、感情的になることも    なく筑井は淡々とした    口調で質問をした。 ナナ「・・・・・・・・・・・」    しかし彼女が質問に    対し回答することはない。    それを承知の上だったのか筑井は    ポケットの中を探り始める。 筑井「あんまり人に見せるべきものじゃ    ないんだろうけど、きみになら    見せた方がいいのかもしれない」

   ポケットの中からでてきたものは    昨日瑠璃から受け取った    ボイスレコーダー。    昨夜の瑠璃と二崎の会話でこの    持ち主が72だと分かった筑井は    もし、彼女が彼のパートナーだと    すればこれを見て何か反応を    示すだろうと思っていた。    だが、本心を語れば    分からないでいてほしいという    気持ちもないわけではなかった。 筑井「これに見覚えない・・?」    それ以上何も言わず彼女に    ボイスレコーダーを筑井は    しばらく見せていた。    彼女は何も言わず手を伸ばし、    ボイスレコーダーを受け取る。 ナナ「・・・・・・・・」

   何も言わず手に取ったことから    筑井はこの時、彼女が72の    パートナーであると確信した。    すると、彼女の瞳から    一粒の涙がこぼれ落ちる。    それを皮切りに号泣し始めるナナ。    表情を見せないように    そのまま腰を丸め    しばらく彼女は泣き続けた。

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