巨大女子相撲部

   筑井が1年生達の元に辿り着いた頃、    医務室に残っていた藤崎はナナと    会話をしていた。 藤崎「お前も起きたばかりで眠れないだろ。    私も暇でな相手してくれないか」 ナナ「・・・・・べつにいいけど」    筑井が消えてから藤崎の雰囲気が    変わり少々怯えているようだ。 藤崎「お前、ナンバーの出だろ」 ナナ「・・・!?」 藤崎「言っておくが私の前で    嘘が通用すると思うなよ」 藤崎「初めからその可能性が高いと    考えてはいたが、ここでの    会話で確証が得られた」 ナナ「・・・・・・・・・。    全部お見通しってわけ」 藤崎「お前に名前が無いことは    知っている。だからこっちで    決めさせてもらったわけだが」

藤崎「最初に名無しナナシと言ったのも    お前の反応を見る為だ。    分かりやすく反応してくれた    おかげですぐに理解できた」 藤崎「仮に反応がなくても私の目・・・を    誤魔化すことはできんがな」 藤崎「彼を部屋から出したのもお前が    ナンバーだと分かったから    少し話をしたくてな」 ナナ「・・・・・・・・」 ナナ「あんたが私と話したいこと何て    あるわけ・・?ナンバーには    興味ないのかと思ってたけど」 藤崎「興味がないのは間違いないが    今のナンバーのトップが誰か    聞いておきたくてな」 藤崎「久内の奴は最近ナンバーに顔を    出してはいないんだろ。別の誰かが    上に立っているようだが誰だ?」 ナナ「副会長のくせにほんと    何も知らないのね・・・」

ナナ「今のトップは実質、極剛力山 殺。    会長の娘だからトップ扱いになってる    けどやってることと言えばナンバーを    おもちゃにして遊んでるだけ」 ナナ「仕事の振り分けは協会側が    前と同じようにやってるけど    久内はもう全くと言っていいほど    ナンバーには関わってない」 ナナ「久内の指導方針も大概だったけど    今に比べれば遥かにマシだった」 藤崎「極剛力山…、例の奴か。それにしても    久内が娘を甘やかしているとはな。    あいつにも人間らしい一面が    あるとは思わなかった」 ナナ「協会職員のほとんども殺の機嫌を    損ねないようするのがやっと」 ナナ「今の協会であいつを止めれる人間が    いるとすればあんたぐらいしかいない」 藤崎「そうか、別にどうでもいいがな」 ナナ「・・・・・・・・・」チッ 藤崎「それより久内は今何してる?」

ナナ「最近、久内の奴は政界との癒着も    以前よりしてるし賭博規制も    緩くなってきてるから、    そっちに注力してるらしい」 藤崎「ガキのくせに少しは知ってるんだな」 ナナ「ガキじゃないっての・・。    それに知ってて聞いたのかよ。    まあ、この話は兄さんから    聞いただけで、あまり詳しくは    知らないけど・・・」 藤崎「商業的な側面に限ればの話だが    奴は昔から凝り固まった思考ではなく、    常に流動的。時代に合ったものの    考え方ができる奴だったからな」 藤崎「ナンバーを切り捨てる方向に    向かっていてもおかしくはない」 ナナ「あんた悠長なこと言ってるけど    そのうちミドルも切るぞあいつなら」 藤崎「ナンバーは知らんがそっちは    近いうちに圧をかけるつもりだ」 ナナ「ほんと嫌いだわ、お前・・」

藤崎「ドブ臭い小娘一人に    嫌われようがどうでもいい」 ナナ「お前が何にもしないからドブに    浸かりっぱなしだったんだよ。    くそ野郎」 藤崎「それで自力でここまで這い上がって    来たわけかよくやったもんだな」 ナナ「ここに這い上がって来るまでに    兄さんが犠牲になってんだよ。    そんなんで喜んでると思ってんのか」 藤崎「・・・・・・・・」 藤崎「だったらその兄に感謝することだな。    今こうやって私に保護されている    事実があるのも兄の死がなければ    成しえなかったことだろうからな」 ナナ「人の気も知らないで、ふざけたこと    言ってんじゃねえぞ!!」 ナナ「なんで、お前みたいなやつが    生きながらえて兄さんが    死ななくちゃならなかったんだ!!    お前が死ねばよかったのに!!」

藤崎「それは私も同感だ。現世に生まれ    落ちていい命でないのは確かだからな。    死ねというのは最もな意見だ」 藤崎「言いたいことはそれだけか?    今日は特別に許してやる。    貴様の罵詈雑言ばりぞうごん、気が済むまで    吐き出して構わないぞ。    それで暇も潰せそうだしな」 ナナ「・・・・・・・・・」 ナナ「あんたには何言っても響かない    みたいね・・・・。もういいわよ。    ただでさえ今体力ないってのに、    これ以上大声出せるか・・」 藤崎「あまりに惨めだな。何もなせぬまま    ただ引き下がることしか許されぬ    醜き小娘の姿は・・・」 藤崎「こんな私でもそんな姿を見れば    何も感じないと言うことはない。    だからお前に一つ良い事を    教えてやろう」

藤崎「最近知人にある物を    貰ったんだがなんだと思う?」 ナナ「なんなのよ急に・・・。    知らないっての・・」 藤崎「答えは携帯と言うものだ。    一応貰った物だからな所持だけは    している。ほとんど触れることは    ないがな」 ナナ「携帯ってたしか・・。    遠くの人と喋れたりする道具だっけ。    自慢話なら聞く気しないんだけど」 藤崎「こちらもお前の意見を聞く気はない」 藤崎「話を続けるぞ、その携帯と言う    ものには連絡先を登録できるのだが、    私はその知人ともう一人の    人間しか登録していない」 ナナ「だから、それがなんなんだよ!」 藤崎「今回筑井細奈の誘拐依頼を    出したのはその知人だ」 ナナ「は?!」

藤崎「一々反応しているところを見るに    お前優秀な方ではなかったようだな」 藤崎「お前が誘拐の任を請け合った結果    そのせいでお前の兄が死んだもの    かと思っていたが」 藤崎「今の事実を知らない様子を    見てもお前が任務を任された    わけではないのは分かった」 ナナ「だ、誰なのよそいつ・・!    答えろ・・・・!!」 ナナ「兄さんは直接、頼まれたって    言ってたし久内の奴とも    面識があるって聞いてる」 ナナ「それに、あんたに携帯を渡せるような    人物何て相当限られてくるはず    いったい何者なのよ、そいつ!!」 藤崎「お前も知っている人物だ。    知らないと言うことはまずない。    そいつの名は・・・」

   藤崎がその人物の名を    言いかけたところで、医務室内を    異様なオーラが包み込む。    それを感じ取った藤崎は    話を中断し窓の方に目をやる。    藤崎の視線と同じ方向に自然と    ナナの首も動いたがカーテンに    遮られその存在を視界に入れる    ことはできなかった。 冥瓦「うっ‥‥‥…」    この異様なオーラの原因は冥瓦。    彼女は目を覚まし、    苦しむ様子を見せていた。     ナナ(なに、この感じ・・・)    カーテン越しで直接姿が見えない    ながらも確かにその奥にいる    禍々しい者の存在を感じ取るナナ。 藤崎「相変わらず間の悪い奴だ」    しばらくうめき声をあげていたが    その次は魂が抜けたかのように    微動だにしなくなる。

   その不審な動きを藤崎は    目を細めながら観察する。    しばらく睨みを利かせた後    ちゅうに浮いていた体を地に着け    冥瓦かのじょと向き合う形をとった。    そして、先ほど筑井の源の滞留を    読み取った時のように瞳を赤く    光らせ冥瓦を凝視し始める。 藤崎「ナナ・・・」 ナナ「・・・・・・・・・」    藤崎のことを嫌ってはいたが    ただならぬ気配を感じ取っていた    彼女は素直に藤崎の言葉に耳を貸す。 藤崎「少し部屋を抜ける。    その間ここで待ってろ。    抜け出せば命はないと思え」 ナナ「・・・・・・」

   ナナが頷く一瞬前かあるいは    その瞬間、藤崎と冥瓦は医務室    から姿を消していた。    冥瓦が起きてからずっとナナは    瞬きの一つもしていない。    にもかかわらず、彼女達の動きを    捉えることはできていなかった。    二人が姿を消してから数秒経過するも、    彼女達がはなっていた異様なオーラは    まるでまだその場にいるかのように    医務室内を漂い続けていた。    その雰囲気が徐々に和らぎ    緊張感から解放されるかと思った頃    遅れて体に震えが起き始める。    震えることすら彼女の体は    躊躇ためらっていたようだ。    その寒気とも思える震えを抑える為に    彼女は布団をかぶり再び床に就く。

   そして移動した藤崎たちは、    昼間、女子相撲部員達が    遊んでいた浜辺に移動していた。    昼間のバカンスといった雰囲気と    打って変わり夜の静けさと、    藤崎と冥瓦かのじょたちが加わることにより    浜辺は緊迫とした空気になっていた。     藤崎「喋れるか」 冥瓦「うっ・・・・うグッ・・」 藤崎「・・・・・・・・」 冥瓦「・‥‥…がっ・・?!⁉」 藤崎「ストレスを与え続けていれば    こうなることは予想できていた。    いや、予想とは少し違うが    それも問題の範疇はんちゅうではない」 藤崎「今から行うのは入学試験だ。    手を抜くようなら来年の    入学は認めんぞ」

冥瓦「・・・・・・・・・」 藤崎「こんなことを話してもお前の    耳には届かんか。今のお前は獣と    何も変わらないからな」    藤崎がその場に立ち止まり冥瓦に    声をかけていると冥瓦の体から    蛍のような光の粒子が飛び出す。 藤崎(何もかもが奇妙な奴だ・・。    源で光を生成するなど、アンダー    ミドル共に前例はない) 藤崎(新しい形質と言っても性質は    そこまで複雑なものじゃないな。    ミドルから一段階戻った・・・・・。    そう解釈すべきか)    藤崎が様子を観察している間に    悶え苦しんでいた冥瓦は徐々に    落ち着きを取り戻し始めていた。    光の粒子の放出も収まりその粒子が    浜辺一帯をフワフワと漂い始める。    そして、特別苦しむ様子もなく    冥瓦がゆっくり起き上がり    藤崎に声をかけてきた。

冥瓦「話は聞こえている。    人を獣呼ばわりしてんじゃねえぞ」    源の密度が増したせいなのか    髪の毛は藤崎と似て白髪となり    先端まで硬質化していた。 藤崎「少々驚いたな。まさか力を操れ    ているとは思わなかったぞ」 冥瓦「この状態は僅かな時間しか保てない。    昔に比べれば、長い時間自我を    保てるようになってはいるが    操れてると言えたものじゃない」 冥瓦「意識がぶっ飛んだら    破壊の限りを尽くすことになる。    そうならないように自ら    気を失う訓練を行ってきたが…」 冥瓦「あんたの前ならわざわざ    それをしなくても良さそうだ」

   彼女がそう発言した瞬間、    目にも止まらぬ速さで藤崎の    目の前に移動していた。    そのスピードは今までとは    比較になるようなものではない。    彼女が発した声よりも先に今の    位置に移動してきたのではないかと    錯覚するほどのものであった。    しかし藤崎はそんな彼女の    行動を見ても一切ひるむ様子を    見せなかった。 藤崎「速さは合格だ。今の人格の方が    どうやら物分かりがいいようだな」    瞳を赤く光らせ冥瓦を見上げる。 藤崎「すでに自我は保てていないな。    今の状態が力の臨界点りんかいてんか。それが    どれほどのものか見せてもらおう」    次に動いたのは藤崎。    彼女は1mほど浮かび上がり    冥瓦の胸元付近で静止する。

   腕試しと言わんばかりにまず    デコピンを2回行った。    直接当てはしないが以前よりも    強い2発を彼女にぶつける。    前に軽い1発を喰らった時は    数m後退していたものの    今の2発を喰らっても冥瓦の体は    多少揺らぐだけで元の場所から    移動することはなかった。    その様子を見てどことなく    嬉し気な様子の藤崎。    デコピンをした後    冥瓦の出方を伺うかのように    何もしないまま空中で停止する。 藤崎「受けも悪くない。    合格でいいだろう」

   余裕な口調で分析を続ける藤崎を    前に、理性の無い冥瓦が苛立ちを    覚えたのかは定かではないが    攻撃をする為に突如、彼女の背後に    回り、殴る構えをとった。    あまりの移動スピードにコンマ数秒    遅れで、砂埃が舞い上がる。    その殺意とも受け取れるような    攻撃の挙動にすら藤崎は    表情一つ変える様子はなかった。    隙だらけの彼女に向かって拳が    振り下ろされるも、風で髪の毛が    なびくだけでダメージは0。    むしろ殴った冥瓦が反動で    跳ね返される始末。 藤崎「攻めは不合格だな・・。    相撲で殴るバカがいるか」        その後も攻撃をやめる様子はなく、    拳が血だらけになりながらも    彼女は藤崎を殴り続けた。

藤崎「これ以上やっても何も    出て来なさそうだな・・」    呆れたのか、それとも    哀愁に近い感情でも湧いたのか    瞳を細め彼女の姿を見つめる藤崎。    高速で周囲を移動し続ける    冥瓦の背後に一瞬で回り    後頭部を軽く人差し指で触れる。    すると彼女は意識を失い    その場に倒れこんだ。

藤崎「とりあえず仮合格だ。    力だけなら十分なレベルだろう。    だが、それをコントロール    できなければ入学は認めない」 藤崎「お師匠様ならお前の力の    使い方を教えられるが、    自分自身に打ち勝てなければ    お前は一生負け犬のままだ。    せいぜい鍛錬に慎むことだな」    うつ伏せの状態で倒れている    冥瓦を宙に浮かせ二人は    浜辺から姿を消した。    そして何事もなかったかのように    夜が明け次の朝を迎える。

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