巨大女子相撲部

   しばらくの無言が続いた後    不安げな声で美穂さんが    僕に声をかけてきた。 美穂「せ、先輩・・・。」    なにか覚悟を決めた様子で    口を開いた美穂さん。    いったいどうしたというんだろうか。 美穂「これは、誰にも話すつもりは    なかったんですけど・・・・」 美穂「さっき言ったナナを連れ去った女・・。    真西椿とこの島で会ったんです・・」 筑井「えっ・・・・・」 美穂「先輩に全く関係のないことでは    ないので、やっぱり話そうかなって。    一番ナナのこと心配してるの    先輩でしょうし・・」

筑井「て、ことは今この島に    その真西って人がいるの?」 美穂「たぶん・・まだいるかと」 筑井「たぶん?」 美穂「その時の椿は、体もボロボロでとても    動けるような状態じゃありませんでした。    なので私は監督に助けを求めに    その場を離れたのですが、その間に    どこかへ消えていたんです・・」 筑井「僕が少女を受け取ったあの時のこと?」 美穂「はい、そうです。監督は    彼女は無事だと言ってますけど、    その根拠も分からなくて・・・」 美穂「とりあえず私は監督の言うことを    信用して、彼女が無事で    あることを信じています」 筑井「そっか・・・。何度も聞くようで    悪いんだけど彼女からもナナの    ことは聞けてないんだよね」 美穂「はい・・」

美穂「それであの少女について    なんですけど・・」 筑井「少女のこと?あの子のことも    何か分かっているの・・?」 美穂「真西かのじょとの関係性とかそういうのは    全く聞けてませんが、分かることは    あります。少なくとも真西かのじょにとって    大事な存在であること、それは    間違いないと思います」 美穂「椿もボロボロの状態にあった    にもかかわらず、少女を何よりも優先して    助けてほしいと頼まれましたから」 美穂「少女がナナと関係する    人間なのかは分からないですけど    もしかしたら、何かいい情報を    聞けるかもしれません」 美穂「真西のことや、少女については    監督にも何も話していないので    このことは内密にお願いします」 筑井「分かった・・」

筑井「でも、なんで僕だけにこんな    大事なことを・・・」 美穂「先輩覚えていますか・・?    ナナと先輩が二人で私から    逃げた時のこと」 筑井「う、うん・・・・」    あの時、逃げたこと根に    持ってんのかな・・。 美穂「あの時は彼に対して    許せない気持ちはもちろんありました。    でも、彼の発言や目を見て    感じてたことがあって・・」 美穂「悪い人ではないって思ってたんです。    心の片隅では・・・・」

美穂「自分の身を犠牲にしてでも    何かを助けようとする男の    意思を私は尊重したまでです。    だから、あの時先輩だけは    見逃しました」 筑井「そうだったのか・・。それにしては、    まあまあ酷かったような・・」 美穂「いや、だってあの時は脱走された    ことに結構イライラしてましたし!    それに、脱走した挙句に    先輩までさらっているんですよ!    怒るに決まってるじゃないですか!」 美穂「冷静になった今だから分かること    なんですが私に残された少しの理性が    先輩を見逃す選択・・つまり彼の    意思を汲み取ったんだなって」 美穂「あの時は私も    深く考えていませんでしたし    そんな余裕もありませんでした」 美穂「とにかく、私は彼のことを    嫌っているわけではありません」

美穂「ちゃんと、先輩も部屋まで届けて    くれましたし。彼が無事であることを    私も望んではいます・・・」 美穂「椿達について話したのも    そんな彼を先輩が助けたいと    思っているなら少しでも協力    したいと思って」 筑井「そこまで考えてくれてたのか・・。    美穂さんって結構優しい人だね」 美穂「い、いえ、そんなこと・・」 筑井(連れ去った真西って人がボロボロに    なってたということはナナも    無事ではないんだろうな・・・) 筑井「肝試しが終わった後は    あの子のところに行ってみるよ。    もしかしたら、目を覚ましてるかも    しれないし」 美穂「て、今肝試しの途中でしたね・・。    それだったら、さっさと    終わらせちゃいましょうか」 筑井「そうだね」

   浜辺から戻ろうとして僕たちが    後ろを振り返ると、森の中に    瑠璃と二崎さんの姿が。    どうやら二人に見られていたようだ。 瑠璃「ちょっと美穂、結構いいムード    だったけど、どうだったの?」 美穂「別に何もないわよ・・!」 瑠璃「嘘つけ!」 美穂「ほ、ほんとだってば・・!!    ねっ!先輩!」 筑井「それは本当だけど・・    なんで君ら二人が・・・?」    この二人あまり仲良くない    イメージなんだけどな・・。

瑠璃「いや、私は怖いから行きたく    なかったんだけど、ひとみが    どうしても行きたいってしつこくてさぁ。    おかずくれる約束で来てやったわけ」 瑠璃「美穂がいないから    一緒に行く相手いないってことで    仕方なく私が付き合ってあげてんの」 二崎「・・・・・・・・」 筑井(二崎さん、美穂さんが心配で    つけてきたんだろうな・・) 美穂「なんでよりによってこんな奴と・・。    ひとみも、もうちょっと交流の幅    広げればいいのに・・・」 二崎「いいわよ、私は別に・・」 瑠璃「そうそう、さっきいいムードだった    美穂に私からの贈り物があるんだ!」 瑠璃「はいこれ!!」

   贈り物・・・・?    案外、いい一面もあるんだな。    ひっかきまわすことしか    興味ないのかと思ってたけど・・。 美穂「なにこれ・・?ボイスレコーダー?    こんなものまだ使ってる人いるのね」    ボイスレコーダーってまさか?! 瑠璃「しょうがないじゃん。    携帯は持ち込み禁止だし会話を    録音する道具はこれしかなかったのよ」     美穂「で、これがなんだってのよ?」 筑井「ちょ・・・まっ・・」 瑠璃「まあまあ、いいからいいから    ちょっと再生してみてよ」    そう言われ、美穂さんが    スイッチを押してしまったようだ。    圧倒的体格差の前じゃ、    奪い取ることは絶対に叶わない。

   あの時の会話のやつだ・・。    ”嘘をついても仕方ない、認めるけど”    以前、好きな人がいるか    いないかを聞かれた時のやつだ。    これで、美海との交際がないことが    美穂さんたちにもばれてしまった・・。    つか、こいつめちゃくちゃ    口軽いというか、秘密を守る気    絶対にない奴だ。    瑠璃の弱みを僕が握りでもしないと    この暴走を止められる気がしない。    このままだと、3年生たちに    襲われるのも時間の問題・・・。    そんな大事な音声を驚いた様子で    聞いている美穂さんと二崎さん。    まあ、でも最悪この二人なら、まだ・・。    そして、音声の再生が終わった。

瑠璃「せっかくさあ、美穂と先輩が    いい感じだったし、あと一歩踏み出せない    原因がこれにあるんだとしたらって    思ってつい聞かせちゃった。    ごめんね、先輩。私、偽りの愛より    友情を優先しちゃうタイプなんで」 瑠璃「なんて、健気でいい子なのかしら、私」 筑井「このやろ・・・・」 二崎「先輩、これで付き合っていないことの    証明ができてしまいましたけど    なんで美海とあんな話に・・?」 筑井「いや、あの土壇場で美海に    言われたんだけどさ、大会で優秀な    成績収めた選手は僕と寝られる    資格がもらえるとかなんとかって    言っていたらからさ・・」 筑井「それで、そのリスクを少しでも    回避するために、美海と交際してる    ことにしたんだ」 筑井「この成績収めたらって    話はそもそも本当なのかも    疑わしくはあるんだけど、    まあ、ほかの抑止にもなると思ったし」

美穂「成績収めたらって言うのは本当ですよ」 筑井「・・・・・・・・」 二崎「そのせいもあってか、    今年の女子相撲大会では    うちが優勝してます」 筑井「ひぇ・・・?!」    あの部長のことだ・・。    間違いなくやる気まんまんだろ・・。

筑井「た、頼む!このことはみんなには    内緒でお願い!」 二崎「何言ってるんですか。    いつまでも、嘘なんかつき続ける    のは許されることじゃありません」 筑井「そ、そんな・・・・」 瑠璃「まあ、待ってよ!    その3年生とも先輩には    ふか~い因果があるんだよね」 筑井「そうだよ!今部長に会いでも    したら僕は間違いなく圧死してしまう」 美穂「圧死って何か恨み買うような    ことでもやったんですか?」

瑠璃「その逆だよ。    気に入られすぎて、    性行為したらやばいってこと」 美穂「・・・・・・・」 二崎「・・・・・」クスッ 美穂「そんなことで女子相撲部    全員を混乱に陥れてたんですか・・」 筑井「そんなことって、    僕にとっては命がかかってるんだぞ!」 美穂「すみません、それもそうですよね・・。    私も部長と立ち会うときは全く    歯が立ちませんし、本気の試合って    なったら先輩じゃ命がいくつあっても    足りないでしょうね」 美穂「ひとみ、このことは先輩に    気遣って内緒にしておいてあげましょ」 二崎「それでいいわね。それじゃあ    瑠璃、そのボイスレコーダーは    先輩に渡してあげなさい」 瑠璃「えぇ・・なんでよ」

二崎「そんなものもあんたが持ってたら    先輩が可哀そうでしょ。そもそも    それ、あんたのものじゃないじゃん」 瑠璃「あれ・・、何で知ってんの?」 二崎「ナナの所持品のメーカーと    それのメーカーがどっちも    春川グループのものだったのよ」 二崎「送受信する機能がないと言っても    電子機器の持ち込み自体規制が    厳しいのに、あんたが急に    手にしてたの変に思ってたのよ」 瑠璃「確かにこれはあの日に拾った物だけど」 二崎「相撲協会に知れたら面倒だし    正式に転入が決まっていない    先輩に預かってもらうのが一番だわ」 瑠璃「んぅ・・分かったよ・・・」    瑠璃はしぶしぶボイスレコーダーを    僕の方に差し出してきたので    それを受け取った。    これで少しは安心できる。    いつも二崎さんは僕の味方に    なってくれてほんと助かるな。

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