??「ただいま戻りました・・」
??「椿か・・・・・・。
No.72はどうした?
奴は一緒じゃないのか・・?」
椿と呼ばれたその女の正体。
それは、72をここまで
連れてきた女の名であった。
本名
真西「72は現在意識を失っております。 口の聞ける状態ではありません」 真西「槍薔薇からの奪還直後、 まだ、少し意識はありましたが すでに朦朧としていたので あまり、情報は聞き出せていません」 ??「それは構わん。 聞いてる限る奴でも任務を 失敗したようだな・・。 そうなれば細奈は・・・・・」 真西「はい、アンダーの可能性が高いかと。 72本人に聞くまでは断定 できませんが、奴の様子を 見るに、ほぼ間違いないかと」 ??「そうか・・・・」 ??「フッ・・・・・・」
??「お前はどう思う・・・・?」
真西「・・・・・・・・・・・」
??「
??「久々に血が
そんな才の持ち主は
この世界において一人しかいない・・。
名を極剛力山 殺。
彼女が10歳に届くか届かないか程の
年の頃にはすでに、
殺「
殺「奴は出る・・。絶対にな・・」
真西「・・・・・・・・・・・・」
殺「奴の存在が明確となった今
これ以上の情報はもういらん」
殺「戦闘は対等な条件下にあってこそ
最大の面白みを発揮する。
その一点を重視するならば
分を得る行為は愚と同じこと」
殺「今後、
13「さすが殺さん・・・。
ばれてないと思ったんだけど」
すると物陰から一人の男が現れる。
真西「
年に一度だけ行われる 夏の全国女子相撲大会。 彼女達にとって最も重要な大会である。 その大会の方式として個人戦は行って おらず、団体のトーナメント戦のみ。 1校あたりの出場選手は5人 先に3人勝利した高校が勝ち上がる。 この大会でどれだけ勝ち上が れるかが、プロ入りの可能性に 大きく関わってくる。 そのシステムの関係上 一人だけが強くても勝ち進む ことは難しい・・・・。 5人の質が問われる形式。 極剛力山 殺に関しては確実に1勝を もぎ取れる、キーマン的存在。 真西が彼女のことを敬うのも 自身の将来に大きく影響する ことが要因の一つであった。
13「まあ、2人の声が耳に入っちゃった
もんで、つい気になってね・・」
13「俺は一応止めたから・・」 真西(・・・・・・・・・) 何事もなかったかのように 彼は表情を緩め 殺の顔を見上げる。 13「殺さん、じゃあ会長に 伝えてくるんで、私は失礼します」 そう呟いたのち 再び闇の中へ消えていった。 殺「・・・・・・・・・・」 殺「いるな・・もう一人・・・」 殺「その様子から察するに・・・」
殺「気を失っていたのも あながち嘘でもなさそうだな」 殺「No.72」 真西「っ!?」 真西(抜け道を使ったか・・? だが、今の奴が登れるはずは・・) 殺「何用でここへ来た?」 72「・・・・・・・・」 72「どうしてもあんたに伝えとかなきゃ なんねえことがあってよ・・」 殺「細奈のことは、すでに聞き終えた 今以上の一報はいらん。 もし、話すようなら・・・・・・」 72「知ってる・・・」 真西「・・・・・・・・・」
72「知ってるけど話す・・」
殺「・・・・・・・・」
殺「人の申し出を理解できんのも
いつ以来か・・。なんだ
72「筑井細奈はアンダーじゃねえ」 真西「ッ!?」 72「あいつは普通の人間よりも、 むしろ弱えよ・・・、あんたの 期待してるような奴じゃない」 殺「・・・・・・・・・」 殺「・・・・・」 殺「フッ・・そうか・・・・」 天は暗く表情は見えないながらも、 彼女が怒りを覚えているのは 誰の目からも明らかだった。 真西「72ッ!?お前何を考えている。 適当なことを抜かすな!! 殺様・・・!今奴が申したことは 全てでたらめで・・・・」 殺「嘘だろうと、真だろうと 述べた事実に変わりはない・・」
殺「それに・・
72「俺、もう駄目なんだわ。
体が限界に来ている・・」
72「こことここだ・・・」
72は自身の頭と肺に
親指を当てた。
72「もうほとんど死にかけてる。
親に捨てられたのも、きっと
これが原因なんだろうな・・」
72「休み貰った程度で治るもんじゃねえ。
自分の体のことは自分が
良く分かってる・・・」
72「
真西「だからって、死に急ぐことはない。
74がそれを望んだと言うのか・・?
少しでも長生きしてやるのが、
あいつの為になるんじゃないのか?」
殺に聞こえぬよう、彼女もまた
小声で72に語り掛ける。
だが、怒りを浮かべているはずの
殺に何も変化がない・・。
彼らの様子を黙って見つめる
だけであった・・・・。
72「・・・・・・・・・」
72「俺はお前が思ってるほど
強い人間じゃない・・・・」
72「
真西の視界が一瞬が暗黒に染まる。 気付いた時には、地に伏せていた。 殺によって蹴り飛ばされていたのだ。 本人も気づかぬほどの一瞬のうちに。 殺「もう、いいだろう・・・ それ以上喋っても」 殺「結果は変わらん・・・・」 72「・・・・・・・・・」 72は知っていた 殺が好んでいるものを。 それは死に際の人間の言葉。 大統領が世界に向けて発信する スピーチや、偉人達の名言なんかよりも、 もっと価値があり、もっと重いものだと 殺は思っていた。 そのことを知っていたからこそ 会話を止めにこないことは予め 分かっていた。
死にに来たと言えば、興ざめし 殺しを行わないかもしれない。 だから、その旨は直接言わなかった。 死ぬ時は即死・・・。 延命を行われればその間 自身を利用し74に何をする かが、分からない。 彼は寝たきりの状態で協会側に 利用されるぐらいなら、すぐに殺され た方がマシだと思い殺の前に立った。 ここまでが全て彼の計画の内。 その計画はずっと前から着々と 進められていたのだ。 ナンバー制度の穴・・。 それを理解していたからこそ 彼は自らの死を受け入れたのだ。
片方が死ねば一時的に もう片方は自由になる。 ナンバー達が任務中に逃走を行わ ないのも、パートナーがいるから。 自分が抜け出せば、最愛の人が 苦しみ、そして恨まれる。 パートナー共々抜け出そうと 考えるナンバーも当然いるが、 抜け出すにも問題は山のようにある。 巨大な監獄内から抜け出せず、 抜け出せても巨人達に囚われる。 仮にそれらを超えたとしても 彼らには行き場所もなければ 外がどうなってるのかも 何も知らない。 抗うのは危険しか伴わない。 最低限の生活ができてる今、無理に 逆らおうとする者はいなかった。
だが、72はその問題を
全てクリアしていたのだ。
槍薔薇という行先も作ってやった。
脱走の仕方も教えた。
そして、これが終われば
枷もなくなる・・・。
元々二人で脱出することも
頭にないわけじゃなかったが、
自身が病で倒れる姿を
見られたくなかった彼は
彼女に一人で出て行かせると
前々から考えていた。
外に出てまで自分に囚われて
欲しくないと思っていたのだ。
残りの余命が少なく潜入術を
心得ていた72だからこそ
できた唯一の救出プラン。
全ては
殺「72よ・・・・・。
殺「最後に・・・・」 殺「最後に残す言葉はあるか・・?」 72「!?」 彼の中では先ほど真西との 会話が最後だと思っていた。 なぜなら、会話していたにも 拘わらずその間待っていたのだから。 だが、その会話は彼女の耳 には届いていなかっただろう・・。 だとすれば、こうなることも 予想はしえたことであるが、 彼の予定にこの展開はなかった。 ここに来て初めて心が揺らぐ72。 でも、ここまでくればやる ことは変わらない。 変えられない・・・。 72「最後・・・? 考えもしてなかったそんなこと・・」
真西「や、やめろ・・・・!!」 動かぬ体で制止を促す真西。 それが彼に対してなのか 殺に対してなのか、それは 分からない・・・・。 72「わりぃ真西・・・・。 約束らしいからな・・・」 72「・・・・・・・・・・」 72(約束・・・・・・) 彼の中で一つ心に 浮かんだことが・・・・。 それは懺悔の念である。 こういった時に出る考えとは 思いの外あっけないものなんだな と、彼は不思議に思っていた。 こんなことを最後に言いたいなんて 何を考えているんだと・・。 でも、それを言わずには いられなかった。
72「・・・・・・・」
72「こんなこと話すのも
誰も得しねえとは思うんだけど
一つだけ言いたいことがある・・」
その台詞の後、
彼は一瞬黙り込む・・・・。
発言を言い終えれば訪れる
避けられぬ死の運命。
本心は、まだ生きたいと願っている。
そんな彼が、自身のタイミングで
死する行為。 その恐怖は想像しうる
ものではないだろう・・・。
だが、彼は唾を飲み込む程度の
時経て、すぐに口を開く。
72「ちょっと前によ・・、いつも
みてえに
72「ハンバーガーって言うらしい。
実物は俺も見たことねぇ・・」
72「ゴミん中に入ってんのは
くしゃくしゃにまとめられた紙屑」
72「誰もそんな紙屑なんて
拾っても食えねぇから
普通は取らねぇけど・・」
72「
72「おいしい、つって舐めてんのよ・・。
中にあるドロドロしたもん・・。
それが
72「・・・・・・・・・ッ!?」 俺今・・何言おうと・・? ・・・・・・・。 もしかして、今から言おうと してることって・・・・? 俺の一番望んでたこと・・? じゃなきゃ、こんなこと・・。 知らなかった・・・・。 夢なんてもん、ないかと 思ってたけど・・あったんだな。 俺にも・・・・・・
・・・・・・・・・・。 駄目だ・・・・。 そんなこと考えだしたら・・、 死にたくなくなる・・・。 無性にあいつに会いたくなる・・。 会いたい・・・・。 もう一度でいいから・・。 後悔がないように生きたつもり だったのに、後悔しかねぇ・・ でも、決めたから・・ 逃げねえ・・・・・ 74・・・・・。 そして72は最後の 一言を喋りだす。
72「一度でいいからに・・・
殺「・・・・・・・・・・」
殺「つまらん・・・・・」
殺「最後に言うことが・・ハンバーガー?
72程の男なら、もっとマシなことを
言うと期待してたんだがな・・」
真西「ッ・・・・・・・」
72は今、殺の足の裏にいる。
兄は妹のために無事死ねたのだ。
殺「つまらなくはあったが、
72よ・・」
聞こえるはずもない
相手に向かい語り続ける殺。
殺「
殺「おい・・・」
後ろに向け誰かを呼び出す殺。
奥は暗くその先を見ることは
できないが、その奥から
人の声がした。
??「また勝手にナンバーを殺しやがって。
奴らのストックも無限じゃないんだ。
しかも、72程の男を・・」
殺「分かっておる・・・。
だが、約束は約束だからな」
殺「ナンバーを4人連れてこい」
??「また殺す気だろ・・?」
殺「そうではない、さっさとしろ・・、
彼が呼びに行ってから
言葉を発する者は誰もいなかった。
しばらくすると、先ほどの彼が
ナンバー4人を連れてきたようだ。
もちろんその中には74の姿も・・。
真西「くっ・・・・・・」
殺の足の裏にはまだ
72がいる・・・・・・。
そのことを真西だけが知っている。
74にその事実を
知られぬよう彼女は必死に74の
元へ向かおうとしていた。
もし、潰されて死んだ事実を知れば
彼女の精神は崩壊してしまう。
それだけは避けねばと
何とか体を動かそうとしていた。
殺「
殺「挽き肉を挟み調理したもの。
ハンバーガーとか言ったか・・」
殺「
殺「74よ・・・・・。
72が最後に願っとったぞ。
彼女の足元に膝立ちし 72の血肉を舐め始めたのだ・・・。 表情一つ変えずに・・・・・。 その姿は皮肉にも、大好きな ケチャップを舐めとる姿を 連想させた・・・・。 そんな姿を呆然と眺める真西。 一人足裏を舐め続ける74の姿に 体の震えが止まらなかった。
真西「いい加減にしろよ・・・・!!」
震える体を何とか起こし 殺の足元へと全力で 走り出す真西・・・・。 真西「うおおおおおぉ!!」 真西は号泣しながら彼らの元へ向かう。 その姿を殺は黙って見つめていた。 しかし、74は反応を 見せる様子もなくただ舐め続ける。 そして、真西は殺の足元に いた74を掴み入り口から 外へ出て行った・・・・。 真西「くそっ・・・くそっ・・・・!!!」 真西「お前の兄貴はほんとに嫌な奴だ・! 私の考え全部分かってやがる・・」 そして真西は彼らの前から 姿を消すのであった・・・。
そして残されたナンバー達。怯えていた
彼らであったが、真西の姿に影響を
受けてか、冷静さを見せ始めていた。
そして一人のナンバーが前に立つ。
87「あ、あんたは血も涙もないのか・・?
あんなもの見て何が楽しいんだ・・?」
震える声で彼は殺に聞いた。
自然と後ろ二人も前に出ていた。
彼らもまた怒りは同じであった。
殺「言われてみれば・・・・、
血も涙も流したことないな・・。