全文表示 巨大女子相撲部

藤崎「・・・・」

   3年寮に向け移動中の藤崎と冥瓦。

   彼女達のスピードであれば一瞬で    辿り着くこともできるはずだが

   藤崎は3年寮に直接向かって    いたわけではなさそうだ。

   筑井との再会を邪魔    されたくなかった彼女は

   全く別の場所に冥瓦を    連れて行き、そこから突き放す    つもりでいたようだ。

藤崎「・・・・」

   ずざざぁッ!

   山の中で、足を止めた藤崎。

   それに合わせ後ろから着いてきていた    冥瓦も足を止めた。

冥瓦「・・・・・?」

冥瓦「何もないようですが    いったい何しに・・?」

   さすがの冥瓦も藤崎の    スピードについていくには    体力を使ったようで    息を切らしていた。

藤崎「邪魔なものをここに    捨てに来た・・」

冥瓦「邪魔なもの・・?    いったいそれは?」

藤崎「貴様のことだ。力量は    測れたからもういい」

   そう言って藤崎は姿を消す。

   物音ひとつ立てずに…。

冥瓦「なっ・・・・⁉」

   冥瓦が目で追いきれないほどの    スピードにも関わらず    土煙一つ立てていない。

   同じアンダーでも段違いの    実力差があったことに    冥瓦は驚かされていた。

冥瓦「やっぱりすごい・・。    私でも全く歯が立たない    なんて・・・」

冥瓦「でも、甘い甘い・・・」

冥瓦「そう、甘いんですよ。    藤崎様の甘い匂いが    プンプン匂ってきますよ」

冥瓦「さすがにそこまでは考えて    いなかったみたいですね・・・!」

   宙に漂う匂いを鼻先に捉え    顔をぴくつかせる冥瓦。

   冥瓦はそのにおいを頼りに    藤崎が移動したと思われる    方角を確認する。

冥瓦「元来た方角とは違うな・・。    いったいどこだ?」

冥瓦「先が読めない以上、    慎重にならないと・・」

   独り言を言い残し、冥瓦も    3年寮の方角へ向かうのであった。

   監督の部屋へ戻ってきた    筑井はというと…

筑井「はぁ・・・」

   そのため息には、これから    どうなるんだろう、そして    どうしていけばいいんだという

   その二つの思いが入り    混じった物であった。

筑井(僕は監督が来るまでの間    黙って待っておくしかないか)

筑井(ナナは美穂さんたちの    元に向かっているとして・・)

筑井(そこまで上手くいけば    監督とご対面ってことになるな・・)

   藤崎が槍薔薇に帰ってきたことは    筑井を含む女子相撲部の間では    周知の事実であるものの

   藤崎本人は、筑井が72と接触し    部屋を一時的にでも抜け出たことを    知る由はない。

   あくまで自分は部屋に    ずっと閉じ込められていた。

   72の為にも藤崎に    そう思わせるように努めなければ    ならないとだけ、考えをまとめる。

筑井「あ、そういえば…」

   筑井は大事なことを    思い出し窓を見る。

筑井「これはまずいな・・」

   この部屋から脱出する際に    窓ガラスを粉々に割っていたこと    を彼は思い出したのだ。

   筑井が窓ガラスを割ったと    言えば72の存在を悟らせずに    済むだろうが、

   それだと自身の身を危ぶませる結果に    なってしまう為、どうにかして処理を    行わなくてはいけない。

   そう思った彼は、    すぐに行動に移す。

   とりあえず、部屋に散乱する    ガラス片だけでも集めなくては    いけないと考え、

   雑誌などの道具を    使い怪我をせぬよう回収    していった。

   だが、部屋の中に処分する場所が    存在しない為、回収したガラス片は    隣のベランダの隅に寄せることに    したようだ。

   割れた窓の修復は現状どうする    こともできないので、後はカーテンを    閉め見られないことだけを願う。

筑井(この部屋が高い位置にあるせいか    結構風で揺れるな・・。    そこは上手く誤魔化すしかないか)

   気になる点は多かったものの    これ以上手の施しようがないと    思った彼は、ベッドに腰を掛ける。

   ドゴゴォオーーっン!!

   ものすごい地鳴りとともに    建物全体が大きく揺れる・・。

   その揺れで筑井は理解した、    藤崎がやってきたとを・・。

   恐怖のあまり、ベッドの上に    腰掛けていた体勢を崩し、    巣篭るように掛け布団を    かぶって反射的に体を丸める。

   そして先程の衝撃から    しばらくの時間が経過する。

   しばらくと言っても    ほんの十数秒程度だろうが、    筑井からしてみればその    数十倍に感じられていただろう。

   それ程までに今の彼は    緊張状態にあった。

   そしてその間は自身の心臓の音が    聞こえるほどの静寂ぶり。

   心臓の鼓動音すら耳障りに    感じる程の静けさを彼は    味わされていた。

   空間も藤崎に怖気づいて    動けなくなっているような、    そんな緊迫とした空気が    そこら一帯を埋め尽くす。

筑井「・・・・・・・・・・・」

   殺されるだとか、危害を加えられる    ようなことはないはずにもかかわらず    彼の体の震えは止まらない。

   1分にも満たない、この待つだけの    動作すら、困難になるほど精神的に    追い詰められる状態にあった。

   そして、決して開くはずのない    入り口の開く音がする・・。

   初めて聞くその音。

   とてもドアの開く音だと    思えるものではなかった。

   重機が擦れ合うような    そんな重苦しい音である。

   布団をかぶっていた彼は、それを    目視で確認することはできない    ながらも・・、

   部屋で何が起こっているかは、    その小動物並みの感性で手に取る    ように理解することができていた。

   生存本能故の察知能力。    だが、それが研ぎ澄まされる程、    より恐怖が倍増することと    なっていた・・。

   そのせいもあってか    彼は布団から出る機会を    完全に見失う。

   流れで布団の中におさまり    続ける彼であったが、果たして    このままで大丈夫なのだろうかと    不安に感じ始める。

   その心境の変化のせいか    体の震えが徐々に強くなっていった。

藤崎「ただいまぁ・・・」

   藤崎は小声で帰ってきたことを    布団の中にいる筑井に伝える。

   その声は何よりも優しく    か細いものであった。

   驚かさないための配慮なのだろうが、    彼女の圧倒的威圧感の前じゃ    そんなちんけな配慮など何の意味も    なしていなかった・・。

藤崎「筑井くん、グッスリ    眠っちゃってる・・」

藤崎「まあ、時間も時間だし    仕方ないか・・」

   口に出して言うほどでもない    独り言を話し出す藤崎。

   その発言で起きていることが    バレているものだと、彼は    悟っていた。

   しかし、それでも体が    動くことは決してない。

   だが、この状況は彼の中で    最悪の状態ではないと考えていた。    むしろまだマシな方だと。

   仮に彼女が未知の世界の宇宙人だと    して、友好的なことも分かっている    ものだとする。

   しかし、あまりに次元が違う者の    考えを、こちらは到底理解することも    できないため、いくら友好的とは    いっても恐怖の対象となり得る。

   分からないのだ・・。

   彼女がどこからどこまで    考え、何ができるのかを。

   分からないことは    恐怖そのものなのだ。

   それに加え、筑井には彼女の理性を    爆発させかねない、情報と言う名の    着火剤を有している。

   冷静さを保てていない状態では    いつそれを表に出すか分からない。

   こちらに優位性も全くなく、    絡むメリットもないに等しい    この状況に置いて

   スルーしてもらえることが    一番いい結果なのである。

藤崎「・・・・・・・」

   その後も、しばらく無言で    立ち尽くす藤崎。

   足音もしないので、ベッドわきに    立ち尽くしていることだけは    布団の中にいても理解できていた。

   その間も震えを誤魔化すために    彼は布団の中何度か寝がえりを打つ。

藤崎「これだけ目を覚まさないなら・・」

   そう言うと藤崎はゆっくり    ゆっくり布団をめくりだす。

   その動作は、あのあまりに恐ろしい力    からは想像できない程、優しく    丁寧なものであった。

藤崎「・・・・・・・」

藤崎「・・・・・・・・ふっ」

   緊張のあまりかまぶたを    ピクつかせる筑井。

   その姿を見て起きていることに    間違いなく気付いているで    あろうが・・・、

   藤崎が、その様子を    指摘することは一切なかった。

   その後、彼女は小声で    あることを呟く。

藤崎「これなら・・」

藤崎「キスしてもバレないか」

筑井「ぶっはぁ!!!

   あまりに突拍子もない台詞に    筑井は思わず、吹き出した後    跳ね起きてしまった。

   キスされると言われ、    ノーリアクションを貫き通せる程    彼も泰然自若たいぜんじじゃくな男ではない・・。

藤崎「おはよう、筑井君」

藤崎「もう少しジッとしてれば気持ちの    いい朝をプレゼントできたのに」

筑井「最初から起きてるの    分かってたんですね。    嫌な人だ・・」

藤崎「こっちはせっかく急いできたのに、    そんな私を前にして、寝たふりしてる    人の方がよっぽど悪いと思うけど」

筑井「す、すみません・・」

藤崎「それより、1日待たせちゃって    ごめんね筑井くん・・・」

藤崎「私がいなくて辛かったでしょ?」

筑井「えぇ…まあ……それなりに…」

藤崎「特に変わったことはなかった?」

筑井「・・・・・・・・・」

筑井「・・・・いえ特に何も」

   顔を近づけ心配そうに    話しかけてくる藤崎に    色んな意味で緊張する筑井。

   彼女から漂ういい香りと    秘密を守らなくてはいけない    緊張感から余計に心が    かき乱されることとなっていた。

藤崎「ならよかった」

藤崎「だってね私が出かけた後に    侵入者が来るって連絡が入ったから    不安で仕方なかったの」

筑井「え・・・・っ」

筑井(それ、普通に言うんだ・・)

筑井(だけど、こっちの対応が    変わることはない・・。    反応に気を付けないと・・)

藤崎「だから閉会式無視して    帰ってきた」

筑井「えっ・・?いいんですか、    それ・・!?」

藤崎「いいのいいの」

藤崎「代理人たてて喋らせ    とけばいいから」

筑井「んな、無茶苦茶な・・・・」

筑井「て、それより、侵入者って    なんなんですか?!」

   遅れてではあったが、先程の    侵入者の情報を聞いて驚いたように    見せた方がそれっぽいと思い    彼は質問を行う。

   何より、得られる情報があれば    手に入れておきたいとも考えて    いたので、タイミング的にいいと    思い聞いてみたようだ。

藤崎「んぅ~・・」

藤崎「なんて言うんだろう・・」

藤崎「諜報員・・?スパイって言えば    いいのかな?来年の大会に向けて    私がいないうちに情報集めにきてたとか    そんなところ」

筑井「・・・・・・・」

   不安にさせぬよう意図して、    誘拐というワードを避けているもの    だと、筑井は推測した。

   そして、諜報員という情報から    何か情報を探りにきていることも    理解できた彼は

   それを踏まえたうえで    少し探りを入れてみることに・・。

筑井「その諜報員の狙いはいったい?    相撲部員の情報を手に入れようと    してたんでしょうか・・?」

   答えを知っている彼だからこそ    あえて、そこを外して聞いて    みたようだ。

藤崎「違う違う、筑井君のことだよ」

藤崎「今まで名前すら公開されてない    選手が”雑誌”に掲載されてたから    それを調べに来たんだと思う」

藤崎「しかもそれが、私と同体格の    選手なわけだし、気になるのも    当たり前のことだよね」

筑井「ッ・・・・」

藤崎「もともとは女子相撲部員から    守るために部屋に閉じ込めて    たんだけど」

藤崎「侵入者からも身を守れたし    一石二鳥になっちゃってた」

筑井「・・・・・・」

筑井(あの雑誌のせいで身の危険に    晒されてたというわけか・・)

筑井(なんという理不尽・・・)

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