巨大女子相撲部

72「すまねぇな・・・・、    色々迷惑かけさせちまって」 筑井「いや、謝らなくちゃいけないのは    僕の方ですよ。部屋から出して    もらったのに、また戻させる    ことになっちゃって・・」 72「ほんと無茶ばっかり‥‥。    ぐっ・・・・ッ?!」    口を手で抑え何かを吐き出す72。    初めに合った時に比べ明らかに    彼の容態は悪くなっていた。 筑井「だ、大丈夫ですか‥‥!?」 72「風邪だ、つってんだろ‥‥。    熱あるからきついだけだわ」 筑井「あまり無理しないでください・・」 72「無理させてんのによく言うぜ。    どのみち頑張んねえとあのデブ共に    半殺しにされかねないからな。    残念ながら無理はさせてもらうぜ」 筑井「・・・・・」

   藤崎がいつ部屋に到着しても    おかしくない状況の為、    筑井は早く進みたいと思っていたが    足元もおぼつかずフラフラな状態の    72の様子に何も言い出せずにいた。 72「筑井さんこそ大丈夫か?    口数減ってっけど」    気を遣って喋らずにいたのが却って    気になったのか72の方から    筑井に声をかけてきた。    その声は先ほどよりも小さい。 筑井「えっ、あぁ‥‥。そういえば    昨日から何も食べてないし    僕も結構きついかも…」 72「そうか・・俺もあんまり    弱音吐かねえ方なんだけど、    さすがに・・・今回ばかりは・・・」 筑井「良いじゃないですか、    たまには弱音ぐらい」 72「・・・・・・」

   その後しばらく、無言のまま    二人は天井裏を歩き続ける。    そんな空気に耐えかねてか    次は筑井の方から声をかけていた。 筑井「ナナさんって年いくつなんですか?」    会話の入りとして    素朴な質問から投げかけた。 72「えっ?俺の年齢‥‥?    んぅ‥。正確には分からねぇ‥‥。    聞かれたことねえし、どう答えりゃ    いいか分かんねえな‥‥」 筑井「正確には分からない・・?    ど、どういうこと・・?」 72「いろいろ事情があるって言えば    あるんだが‥‥、そうだな‥‥。    筑井さんにはあいつらから    助けてもらった恩もあるし、    俺達・・のことについて教えてやるよ」 72「これ言っとかねえと説明も    しづらいしな」

72「俺達には親がいねえんだ。    いつどこで生まれたかも分からない    所謂いわゆる、孤児ってやつ」 筑井「こ、孤児・・・・。    それほんとなの・・・・?」 72「ここで嘘ついてどうなんだよ。    信じねえならそれでもいいけどよ。    孤児ってこともあって正確には    分からないんだが記録じゃ、    17歳ってことになってる」 筑井「17歳か…僕より年下だったのね」 72「あんた、そしたら18か‥‥。    だったら敬語なんか使うなよ」 筑井「う、うん‥‥。分かった」   (僕が監督に言ったことと同じだな・・・) 72「ちなみにナナって名前は偽名だ。    本当の名前はナンバー72セブンツー。    俺が所属してる場所だとそう    呼ばれている」 筑井「セブンツー・・・。    まるで機械じゃないか」

72「ほとんど同じようなもんかもな‥。    普通なら孤児院とか親戚の家とかに    引き渡されるんだろうけど俺達の    いるとこは少し変わっててな」 72「親自身が子供を売りに来る場所、    表社会にはでない、裏の孤児施設。    誘拐なんかやってるから分かると    思うが、まともなとこじゃない」 筑井「親が売りに行くって・・・」 72「金がなかったり、あるいは単に金が    欲しかったり色々あるんだろ。    俺が売られた理由は知らない。    知る機会があっても知りたくねえが」 72「この事実は国側も認知はしてるが    それには何も口出ししてこない。    暗黙の了解って奴だな」 72「賭博禁止とか言ってんのに    綺麗ごと並べて認めてたりすんだろ。    建前だけでそんなもんばっかだしな。    まあ、それで潤うもんがあんなら    間違ってるとは思わねえけど」

72「要するに俺らは益のある人間って    国は思ってくれてるらしいな。    幼い頃から訓練を受けてるから    それなりに信用度も高い」 72「何より信用を得られる要因は    小さい頃から唯一の家族とも    言えるパートナーと呼ばれる    人間と生活を共にするんだが」 72「例えば俺が失敗した時、俺だけ・・・ に    罰が与えられるわけじゃなく、    パートナーにも罰が与えられる。    そのシステムが仕事の成功率を    高める結果に繋がっている」    僕とは乗り越えてきた苦難の数は    桁違いに違いない‥‥。この少しの    会話の中でも、よく分かる。 筑井「普通なら信じられないような    話だけど、ナナのことを見てれば    それが嘘じゃないって分かる。    で、でもそしたら・・。」 72「なに、心配すんなって。今まで俺は    ノーミス。それに今回パートナーは    大丈夫な理由がある。」

72「今話した内容はとりあえず忘れろ。    知りすぎてもろくなことねえし」    そこまで何とか言い終えた72は    また、大きな咳をして喋らなくなる。    しかし筑井はまだ彼から聞きたいことが    あった為、続けて彼に声をかけた。 筑井「今までの話聞いてると    なんで・・、なんで僕の誘拐を    辞めたのかが分からない・・」 筑井「今だって美穂さん達に内緒で    連れ出すことはできるじゃないか!    パートナーに罰がないと言っても    誘拐を辞める理由がそもそもない」    キョトンとした表情で筑井を    見つめる72。 正論でも言われて    納得しているかのようなそんな表情。    そんな彼の心の内を理解することは    今の筑井にはできなかった。 72「あんた思ったより察し悪いな。    俺はあんたに恩を売ってんだよ」 筑井「・・・・・・・・?」

72「さっき利益がどうとか言っただろ。    俺も同じさ、今任務を放棄した方が    ゆくゆく俺自身の為になる。    そう思っただけの話さ」 72「物事の過程はともかく    答えの導き出し方は基本単純だ。    利があれば人はそっちに動く。    ただそれだけのこと」 72「あんただってそうだろ?    俺をここに残すことに利を感じたから    残す決断をあいつらに伝えた。    そうじゃないのか?」 筑井「・・・・・・・・・・・。    あなたが良い人だと思ったから‥。    だから少しでもいい結果になればと    思って残してほしいと頼んだ‥」 72「・・・・・・」 筑井「でも、罪悪感に苛まれたくないから    自分にとって都合のいい選択を    貫き通したとも言えるし、その    意見を否定することはできない」

72「良い人ね・・そいつはありがたい」 72「じゃあ、恩着せがましいが    良い人のお願いを一つ    聞いてくれやしないか?」 筑井「え、えぇ・・・・?」    突然お願いを頼まれることなり    身構える筑井。そんなことも    お構いなしに彼は喋りだす。 72「じゃあ、ちょっと聞くけどよ    今パートナーいるっつったろ?    そのパートナーがやたらと    外の世界に憧れてんのよ」 72「で、そいつもそろそろ外に    出られる日が来るんだ」 72「それでさ、もしもそいつに    会う機会があったら、    相手してやってくんねえかな?    知り合いもいねえしよ」 72「外に憧れてるっていう割には    何にも知らねえ馬鹿だから、    ちょっと心配なのよ」

筑井「そ、それは構わないけど‥、    どうしてそんなこと僕に‥‥?」 72「俺みてえな奴も受け入れてくれんなら    問題ねえと思ってな・・。 あいつも    人見知りだから何かしら接点ねえと    人間関係築くの難しそうだし‥‥」 72「今あんたを戻してやってるのは    その貸しを作るためさ・・。    まあ、会うことはねえと思うけど」 筑井「分かったもし会うことがあったら    友達に頑張ってなるよ」 72「それ頑張ることかよ・・。    まあ期待してるぜ」 筑井(期待か‥。それに応えられる    自信はないけどな‥。    そんなできる人間じゃないし)    それからまた、二人は喋らなくなる。    部屋の真上まで残り僅かとなったその間    筑井はあることを思い返していた。

   何を思い返していたか‥‥‥、    それは彼が美穂に捕まっていた時に    言い放っていた言葉である。    同情した・・・・その一言が頭をよぎっていた。    監禁されていた筑井の姿を見て    72はそう言っていたのだ・・・。    そして、72のパートナーは    外に出たいという願いを持っている。    その2つの発言を踏まえると彼らが、    自由のない生活を送っているのは    容易に想像することができた。    天か地かで言えば"地"に存在する人達。    彼が筑井を同じ立場と見たのと同じ    ように筑井もまた彼のことを近い存在    だと初めから感じていたようだ。    そして筑井は72の為に    何かできないか、そう考えていた。    この感情は哀れみから来るもの    ではない。生きてきた環境は違えど    理解し得る部分はある。    同じ目線に立てたからこそ    見えてきたものが筑井にはあった。

   そして何も言い出せないまま    部屋の真上に到着する。 72「ここの真下が元いた部屋だ。    下り方は一度降りてるから    大丈夫だよな?」 筑井「うん、大丈夫‥‥」        何か自分にしてやれることはないか。    それを必死に考えたが今のあまりに弱い    筑井の力では彼に何もしてやれない。    そう結論づいたようだ‥‥。    槍薔薇に残すと言っても彼が    無事で済むはずもないだろう。    さらに、彼の仲間が助けにでも    くれば他の相撲部員を危険に    巻き込みかねない。    かといって72をそのまま返せば    責任を取らされる可能性がある。    彼はパートナーは無事だと言ったが    自分自身・・・・については何も    言っていないからだ。        そう、皆が助かる道はないのだ。    72の作戦成功を除いては…。    筑井が誘拐されれば他の皆は助かる。

   そのことは頭にあったが    そんなことを言えるはずもなかった。    彼を助けたいとは思っていても不確実な    未来のために犠牲になる覚悟など    今の彼には存在していなかった。    それに、筑井はこう思っていた。    72はそれを言わせない為にあえて    貸しを作ったのではないかと‥‥。    都合のいい解釈かもしれないが    そう思えて仕方なかった・・。    決して逃げの思考でそこに    至ったわけではない。 72「藤崎も来てるらしいし俺も一緒に    降りるのはさすがにまずい…。    それにロープも引き上げなきゃいけない。    なんで、ここで一旦お別れだ」 72「俺は元来た道を戻って、    あのクソでぶ共の元に行ってくる。    体力もそうないしな、それじゃ‥」 筑井「ちょっと待って・・・!」 72「・・・?」 筑井「・・・・・いやなんでも、またね」 72「おぅ、また」

   その後72はドアノブについて    いたロープと侵入用のロープを    回収し天井を元に戻す。    部屋についた筑井はしばらく    一息つくことなく一人立ちながら    部屋の様子を観察していた。    まだ藤崎が訪れている    形跡もなく一先ひとまずの安堵。    それから彼の今後を考え始める。 筑井(よく考えれば監督が帰ってきてるから    追加で助けが来る心配はないだろう。    今回このタイミングで来たのも    監督がいないからだろうし) 筑井(監督が彼に手を出すか出さないかは    信じるしかないのか‥‥。会ってない    態を通さないといけないから    説得することはできない‥‥) 筑井(僕の身勝手で庇う発言を    行う訳にもいかない・・。    美穂さん達の立場がなくなる・・。    何もせず傍観するのが最善なのか?    ほんとにこれでいいんだろうか‥)

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