巨大女子相撲部

藤崎「・・・・・・・・・」 雪鳴「か、かんとく・・・・。    お早いお帰りで・・・・」    雪鳴の後ろに立っていたのは    なんと、監督の藤崎美理央。        全国女子相撲大会に行っているはずの    彼女がなぜもう槍薔薇ここに戻って    来ているのか・・?3人は恐怖と共に    同じ疑問を抱いていた・・。 美海「お、おはようございます!!」 美香「おはようございます・・」 藤崎「・・・・・・。    何の距離があるって?」    挨拶を意に返さず、問答を続ける藤崎。    その姿に恐怖し怖気づく3人は、    見上げられているにもかかわらず    遥か上空から見下ろされているような    そんな錯覚すら覚えていた。        それ程までに今の彼女は凄まじい    威圧感を放っていたのである・・。

美香「あ・・・・、え、その・・・。    鳥・・・⁉見慣れない鳥が    茂みの奥の方で飛んでたんです。    そ、その話をしてたんですよ」    とっさについた嘘。    この時、美香にしては単純な思考。    筑井を今見られるのはまずい‥。    それだけが彼女の頭をよぎる。    早い話、彼が外に出ていることを藤崎が    知れば、自分も含め相撲部全員が    罰を与えられる可能性が極めて高い。        そう思い筑井の存在を悟られぬように    したようだが、美香はその発言を    したそばから後悔をしていた。    なぜなら、嘘がばれた時のリスクを    考えていなかったからである。        全てが完璧なまでの" でたらめ "。    真実にほんの少しの嘘を混じえて出し    抜いていれば、後から追及されようと    言い訳を通すこともできただろう。        だが、口にしてしまった。    徹底した虚実を・・。

   その迂闊さ・・・。    むしろ、それに気づかなければ    動揺する心を表に出すことはなかった    だろうが、不幸にも気付いてしまった。    そして、その変化を藤崎が見逃すはずも    なかったようで、美香が発言をしてから    ずっと、彼女のことを睨み続けていた。    あまりにも鋭すぎる視線を向けられ    ていた美香は、何とか平静を保つ    ために自分にこう言い聞かせる。        最後に発言をしたのは己なのだから    見られているのは当然。自然な流れだと。    そう思い、動揺の色を隠すよう努める。 藤崎「そぅ・・・・」    藤崎が俯きながら呟くと    周囲に衝撃が鳴り響く・・。    全身、もよだつような    恐怖の波が彼女達を通過する。    何が起きたのかまるで理解できず    ただ恐怖する3人。その後何か    できていたことがあるとすれば    冷や汗を流すことだけであった。

藤崎「5羽だな・・・」    そう言うとその数を分かりやすく    表現する為なのか手を上げ    藤崎は5本指を立てる。 藤崎「近くにいた鳥5羽の動きを止めた。    心配するな、殺しはしてない。    しかし、その中に珍しい鳥なんて    いないように感じられるが・・」    動きを止めるだけならまだしも、    なぜ種類まで判別できるのか・・。    3人がそれを理解することなど    到底できるはずもない。       だが、藤崎の神とも捉えられるような    驚異的な力を幾度となく目にしてきた    彼女達からすれば、その発言を    疑う余地などあるはずもなかった。 藤崎「どうした、お前達?    なぜそんなに怯えている・・?    後ろめたいことがあるから、    そんな顔をしているのか・・?」

   全てお見通しなのか否か・・。    できることならそれを知りたいと    考えるも、その確認ができないことは    火を見るよりも明らかなこと。    嘘をついているのが分かっているので    あれば、それを指摘してほしいと思う程、    彼女達は心理的に追い詰められていた。    あくまで藤崎は美海達が白状    するのを待っているのかもしれない。    槍を喉元につきつけ真実を喋りだすのを    待っているかのような所作をとる。    しかし、本当のことを喋ってしまえば    100%の確率で地獄に行くよりも    恐ろしい目にあってしまう。    それを皆分かっているこそ喋らない。    喋らないでいるのだが、この緊迫とした    空気に耐えられなくなり喋ってしまい    たいと思い込むようになっていた。    だが、そんな究極の槍に立ち向かおうと    する精神が一つだけ残っていたのである。    その不屈の精神の持ち主は美海。    全身を震わせながら彼女は口を開く。

美海「あっち・・⁉あっちに見慣れない人が    いて・・それで・・・・・・」    美海は涙を流しながら勇気を振り絞り、    誰かを見ていたと藤崎に伝える。    そんな彼女が指をさした方角は    2年生と筑井達が移動した逆の方角。    筑井から少しでも藤崎を遠ざけようと    考えてのことだろうが、美海はこの時    とてつもない過ちを犯していた。    筑井達とは逆の方向、つまり美海達が    先程まで見ていた方角とも逆なのだ。    この明らかに矛盾が生じている    奇異な行動を見た美香と雪鳴の    二人は死を悟っていた。これから    自分達の監督に殺されるものだと    覚悟を決めていたのである。        それ程までに今の藤崎のオーラは    狂気じみたものとなっていた。 藤崎「へぇ・・・・  そう・・・」    美海の発言を聞いた直後、    藤崎の体から超強大なオーラが    解き放たれる。

   オーラが解き放たれたかと思えば    急に彼女達が地面に倒れだす。    なぜ彼女達が倒れたかと言うと    それは呼吸ができなくなっていた    ためである。    息をするのも忘れるという表現が    よく使われるが、それの最上位とも    言える状態。あまりの威圧感に呼吸が    できなくなってしまっていたようだ。    ”生”を受けた時から    自然に学び会得する呼吸。    どんな単細胞だろうがそれをできぬ    ものはいない。しかし、今の彼女達は    それすら行う余裕がなかったのだ。    言うならば、第3の暴力。    拳を出すわけでもなく、非情な言葉で    心を傷つけるわけでもない。    立っているだけ・・・、    ただ感情の波が少し荒いだけなのだ。    それだけで人を死に追いやる程の    力が藤崎美理央かのじょには存在した。

   彼女達が苦しんでいると突然、爆風が    吹き荒れる。その威力は30㌧以上ある    巨体達が宙を舞うほどのものであった。    この爆発は藤崎が移動した為に起こった    もの。彼女からすれば象よりも強い    女子相撲部員ですらも舞い上がる埃と    同等のものでしかなかったようだ。    それから吹き飛ばされた彼女達は    なんとか目を開け周囲をうかがう。    木々がなびく方向から美海が指さした    方角に藤崎が移動したものだと、    3人は理解した。    なぜ藤崎が美海の示した方角に    移動をしたのか‥。それは藤崎もまた    美海と同じように通常の思考が行えず    いたのが原因である。狂と狂の組み合わ    せが、まさかの結果を生みだしていた。    そのことを3人もなんとなく    分かっていたようで、一先ひとまず    藤崎を遠ざけられたことに    安堵する様子を見せていた。

   しかし、まだ完全に落ち着いていたわけ    ではないので、それからしばらくの間、    会話が行われることはなかった。    そんな中で、涙が止まりかけていた    美海がこの場で初めて口を開く。 美海「こ、これで良かったんだよね・・」    不安げな表情で2人を見つめる美海。    そんな問いかけに彼女達は答える    こともなく黙って下を見つめる。    その時、何も言い出せずにいた美香。    恐怖心がまだ残っていたのでどう返事を    すればいいか分からないでいた反面    それとは別にあることを考えていた。        彼女が思っていたこと、それは悔しさ。    美海の肝の据わった姿を見てどこか    彼女のことを認めるとともに    負けたような気分にもなっていた。    美海に負けたくない、その意志が    彼女を駆り立たせ平常心を    取り戻すきっかけとなる。    そして、次は美香が口を開いた。

美香「えぇ・・・間違いなくこれで    良かったはず‥。良かったはずよ!」    彼女は美海に励ましとも受け取れる    言葉を送る。この良かったは咄嗟とっさに思い    ついたものではなく、ある程度の    根拠があって発せられたものであった。    美香はある一つの仮定を立て、この    時間稼ぎに大きな意味があったと    考えていたようである。        その仮定とは、藤崎が鳥の数や種類を    言い当てたのが嘘であると言うもの。    そもそも、そんな力があるのだと    すれば、すぐにでも美海の言う誰かを    探し当てることもできたはず。それが    できないにしても、まずその場で探す    動作を全く取らないのを不自然に    彼女は思っていたようだ。    おそらく、鳥の件は藤崎のハッタリ。    美香が口からでまかせを言っていると    判断した彼女は、脅して口を割らせ    ようとしていたと美香の中で結論    づいていた。

美香(私達程度なら脅せば全てを話す。    監督はそう考えていたに違いない。    だけど、そうはならなかった) 美香(あの美海の行動が功を奏したんだわ。    あそこまで脅して、まさか嘘を    つかれるなんて、さすがの監督も    予想はしてなかったんでしょうね) 美香(監督は次に出てくる言葉は必ずまこと    だという先入観に囚われていた。    だから、美海が指した方角に素直に    移動していったんだわ・・。    とてつもない運の良さね・・)    美香がそこまで考え終えると    順番を待っていたかのように    雪鳴が2人に話しかける。 雪鳴「う、うち・・・、怖くて    本当のこと言おうとしてた、ごめん」 美香「それが普通よ普通・・・。    美海が異常なんだって。」 美海「なんかその言い方ひどくない?」 美香「褒めたくないけど褒めてやってんのよ。    感謝しなさいよ・・・・」

   どんな内容であれ、あの状況下で    発言できたことは評価に値する。    それに加え、藤崎を筑井達とは    全くの別方向に移動させられたのは、    こちらの完全勝利と言ってもいい    結果であった。    これだけの成果を残して筑井の    姿が見つかっては元も子もないと    思った美香は続けて話をする。 美香「とにかく、美海のおかげで    先輩を3年寮に戻すまでの時間が    確保できたわ」 美香「さすがの監督でもくまなく捜索を    するとなれば、相応時間はかかる    はずだけど、それも大した時間に    なるとは思えない」 美香「だから美海!監督が戻って来たことを    早く先輩達に伝えてきて!    監督がもし戻ってきたら次は    私達でなんとか時間を稼ぐから」 雪鳴「こっちのことは任せて・・」

美海「う、うん分かった!朝練の準備と    監督のこと。それじゃお願いね!」    この時、美香の後ろに立っていた雪鳴は    こう疑問に思っていた。なぜあれだけ    2年生達のことを気にしていた美香自身が    筑井達のもとへ向かわないのかと。    そんな美香は美海の背中を    見ながらあることを考えていた。    それは彼女の芯の強さついて。    今まで彼女のことを小ばかにしても    友達だと言い続けてくれたり、今回の    出来事のように藤崎に脅されても    一切意思を曲げることはなかった。    そしてそれは筑井に対する恋愛感情も    また同じ、先程までの件で彼女のことを    認めてしまっていた美香はどうやら    素直行かせてやりたいと思うように    なっていたようだ。 美香「私もなんだかんだで‥」 雪鳴「えっなにか言った?」 美香「いや、なんでも‥。それより    早く準備しちゃうわよ!」

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