竹長育枝の事情 12
最近なんだか育枝ちゃんの機嫌が良い。中学二年生にぼくたちが進級してから二ヵ月ほど過ぎた。明らかに進級した直後と態度、そして雰囲気が違う。それは彼女と親しい友達の中でも噂されていることだった。
単刀直入に聞いてみることにした。
「育枝ちゃん、良いことでもあった?最近っていうか、ここずっと上機嫌だけど」
遥か上空にある彼女の顔に尋ねる。かなり見上げる形になるが、ぼく自身の方も最近違和感を感じている。ここ最近育枝ちゃんと話すときに(育枝ちゃんを見上げるときに)少し首に負担がかかるようになってきたというか、今までの角度と少し違ってきたように思うようになった。二年生になって勉強量も増えたり忙しくなって肩が凝ってるのだろう。疲れているのかもしれない。
ぼくの質問に育枝ちゃんは可愛らしくにやにやした。
「あ、分かっちゃう?うふふ、さっすが光輝お兄ちゃん、よく見抜いたね」
彼女はきっと自分の振りまく上機嫌オーラを知らない。たとえそれがわずかなものだとしても、いつも一緒にいるぼくが見逃すはずない。そういう自信はある。
「知りたいの?お兄ちゃん、知りたいの?もう、えっちなんだから」
「えっちって…言いたくないならもう聞かないよ」
ぼくは“えっち”という言葉になんだかむっとした。すぐにこれも思春期ゆえかと自分を諌めはしたけれど。
「もう、いじけないでよ。ちゃんと教えてあげるから」
ちょっとぼくは嘆息した。でも、育枝ちゃんのことをもっと知りたいと思う自分の性を抑えられるはずもない。ぼくは静かに耳を傾けた。
「実は………ブラがBカップにサイズアップしました!!」
育枝ちゃんは内股になって喜々として胸の前で少女みたいに両手をグーにした。
その情報はぼくには少し驚きだった。
「へぇ、確か一年生の終わりにはAAカップで余裕が…」
「なんでそのこと知ってるのよ、お兄ちゃん!?」
顔を赤くして怒鳴る育枝ちゃん。いつだったか翔子さんがなぜか嬉しそうにぼくにそう教えてくれたのだ。翔子さんの行動はたまに理解しかねるときがある。
「まぁとにかく、もうそのころのわたしじゃないの。2カップも上がったんだもん。もう子供じゃないの」
そう言って胸を張る育枝ちゃん。確かに二か月ほど前まではその胸はまるで板のようだった…。
「板って言わないで!!」
「ぼく何も言ってないよね!?」
心の声を聞かれた!?そんなバカな…。
いろんな意味で驚かされる。とにかく、育枝ちゃんが嬉しいと感じているならぼくも自然と嬉しくなってくる。
ただ、ふと考えてみる。こうやって会話していたら、雰囲気なんていたって普通の女子中学生そのものだけど、目を開けてみればそこには常識を超えた異常なる肢体、いや、巨体。学年でもトップクラスの身長のぼくだって、視線は彼女の股下(股間)にあたる。それくらいの超長身に超早熟に成長した彼女だ。そんな彼女が今また成長を見せた。ここ二年間まったくと言ってよいほど成長の様子を見せなかった彼女が。これはもしかすると……。
「光輝お兄ちゃん?」
「いや、何でもないよ。それにしても良かったね、育枝ちゃん」
そんな考えを打ち消して、ぼくはまた彼女との会話に戻る。この成長が、一般に見るごく普通のものだと信じることにした。