竹長育枝の事情 07
「光輝お兄ちゃん、遊びに来たよ」
「ぇ、育枝ちゃん!?学校は!?」
「ズル休みしちゃった」
「そんな、おじさんとおばさんは?」
「快く許してくれました」
「ぅ、うちのお母さんは?ここにいるってことは会ったよね?」
「快く許してくれました♪」
「あの人たちは変なところで甘いんだから…」
二人の和解から一晩。吹っ切れたように育枝はもとの明るさを取り戻した。しかし、吹っ切れ過ぎたか、はたまたこれまで疎遠だったための反動か、光輝ともっと長い間一緒にいたいと思うようになったのだ。現にこうして互いの親の承諾付きで彼の部屋に訪れたのだ。当の親たちは事情を理解していたため、むしろ勧めるように休ませたのだった。
融通が利くのか、ただノリが軽いだけか、そんな親の調子に光輝は少し呆れた。光輝はいたって真面目な少年であった。
「はぁ、まあ…良いか。こっちおいでよ、育枝ちゃん」
また昨日のように育枝をベッドに座らせる。
「うん、それじゃあお邪魔しま~す」
ただ、昨日とは違って育枝は慎重になることなく座った。
ドスン、ギギギギッ!
まさにそんな音。
「うわぁ」
あまりに勢いよく座ったためにベッドは一時的に少し歪み、光輝は少し跳ねた。
「どうしたの、光輝おにいちゃん?」
「いや、何でもないよ」
昨日までとは性格が正反対かのようだ。昨日は座った際にベッドが軋む音に恥じらいを見せたのだが、コンプレックスが小さくなったことは良いことだが、打って変わり過ぎではないか、もしくは現金だなぁ、と光輝は思った。
「それより、育枝ちゃんはホントに大きな女の子になったね」
「もう、お兄ちゃんそれは言わない約束だよ」
「だってほら肩から指先まで、これだけでぼくの頭から膝までより長いよ。こんなに長いんだからバレーボールとか大活躍だろうにね」
「だって、スポーツ苦手なんだもん。力加減とかわかんないし、なにより、わたしがやっちゃうと何でもかんでも小さくなっちゃってあんまりおもしろくないんだもん」
もう現在では小学校のバスケットゴールでさえ育枝の目線の下なのだ。それに加えて育枝の大きな手でバスケットボールを持ってしまえば、ハンドボールくらいの大きさに見えてしまうのだ。
「育枝ちゃん、よく転んじゃうからね」
「それも言っちゃダメ!しょうがないじゃない、すごい勢いで身長伸びていくし、その伸びの半分以上は脚が長くなってるんだから。普通に歩いてても思った以上に早く足が地面に着いちゃったりして、バランス崩れちゃうの…」
「それもすごい悩みだよね。絶対に世界一長い脚だよね、大人のモデルも顔負けだよ。この調子だと、近い内にぼくの身長よりも長くなっちゃうかもね」
「もう、なんか今日光輝お兄ちゃんいじわるじゃない?そんなに大きい大きい言うなら、この足で踏んづけてあげましょうか?」
「いやいや、ゴメンゴメン。ただ純粋にすごいなぁって思ってるだけだよ。ほら、許して?」
育枝は冗談で言っているが、踏んだら踏んだでまた大変なことである。体の重さもさることながら、その足も48.5cmという大きさだ。靴は学校の下駄箱には当然入らない。いつも下駄箱の上に置いているのだ。ちなみに、そんな大きさの靴が置いてあるにも関わらず、育枝の自宅の玄関はまったく窮屈に感じないほど広々としている。
困ったように微笑みながら光輝は育枝に手を合わせて謝る。
「む~、なんだか笑ってるし、真剣に謝ってないでしょ?」
「そんなことないって」
ただ光輝には、どんな育枝も微笑ましく思えるだけだったのだが、
「反省してない光輝お兄ちゃんには、こうしてあげます」
光輝の態度に怒って、しかし笑みも十分に含んで、その大きな両手で光輝の両肩を掴む。
「え、ちょっ」
光輝を自分の胸へと引き寄せ、そのままベッドに横たわる。昨日同様、二人重なるように。大きさが大きさなので、男子である光輝が乗ってもあまり重く感じないのだろう。横になった育枝の肢体はもちろん大きめの光輝のベッドから大きくはみ出している。
「罰として、お兄ちゃんはずっとこのままね♪」
一層強く彼を抱きしめ、育枝は満足そうな顔である。
「罰になってるようで、あんまり罰に…なってない…か、な……」
「ん、何か言った?」
小学五年生ともなれば、異性を十分意識するものだ。動悸が速まるのを感じて、そう光輝は言うが、語尾は小さくなって育枝には届かない。
「ちょっとお昼寝したら、ごはん食べて、遊ぼうね…おにい…ちゃん……」
温もりで包まれ…、いや包んで静かに眠りに落ちていく育枝。一方、女の子の温もりに包まれて、しかもその女の子の体の上で寝かされている光輝は、到底眠れる心地はしなかったのである。