スーパーガール綾門さん③

「ほらほら、ミーニャ。猫じゃらしだよー」
 とある日の僕の部屋。
 棒の先に毛玉の付いた猫用のおもちゃを、まだ子猫ともいえる黒猫のミーニャの目の前でパタパタ振って見せる。
 ちなみにこのミーニャっていうのは、先日屋上で綾門さんと出会った時、木から降りれず困っていたところを綾門さんに救出された猫のことだ。
 あれから僕の家に連れていくと、妹がミーニャを思いっきり気に入ってしまい、結局そのままうちのペットになってしまった。
 さて、そんなミーニャは僕が操る猫じゃらしに興味津々のようで、目の前で左右に揺れる毛玉の動きに合わせて身体を動かしながら、今にも飛び掛かろうとしている。
 そしてとあるタイミングで、僕の手とミーニャの動きがピタリ止まった。
 漂う妙な緊張感。
 そして一瞬の後、僕が猫じゃらしを上に動かすと、
 「みゃぁぁぁ~~~~♪」
 ミーニャは喜んでいるかのような鳴き声を上げながら猫じゃらしに合わせて飛び上がり、そのまま僕に向かって飛んできた。
 僕は慌てて、飛び込んでくるミーニャを抱きかかえようと、猫じゃらしを手放して身構えた。が、
 ミーニャの身体は僕に当たる寸前で、その動きを止めた。
 「…綾門さん?」
 少し離れたところで、僕がミーニャと遊んでいたのを見ていた綾門さんが、膝立ちの状態で一瞬にしてその距離を詰め、飛び掛かったミーニャを空中で捕まえていた。
 「…危なかった…」
 「えっと…綾門さん、どうしたの?」
 少し驚きながら声をかけると、綾門さんの真剣な表情の可愛らしい顔が僕の方に向いた。
 「…更級君が…猛獣に襲われてたから…」
 「いや、ミーニャはまだまだ子猫だし、今のはおもいっきりじゃれつかれていただけなんだけど…」
 「「………………」」
 お互い無言のまま、見つめあってしまう。
 でも綾門さんは自分の不利を悟ったのか、少しづつ目線をそらし始めた。
 「綾門さん、もしかして僕がミーニャと遊んでたから…ヤキモチ焼いたの?」
 「あうぅ…」
 途端に赤くなる、綾門さんの顔。
 かーわーいーいー!
 無敵のスーパーガールだっていうのに、わたわたと動揺しながら恥ずかしがる姿が可愛いすぎる。
 しかも今日は学校帰りに僕の家に寄ったものだから、制服姿で地味っ娘モードの大人しい綾門さんだ。
 セクシーな姿で積極的に迫ってくれるポジティブ綾門さんもいいけれど、内気な綾門さんもやっぱり可愛すぎる。
 「…だって…せっかく学校帰りに遊びに来たのに…更級君…ミーニャちゃんと遊んでばっかり…」
 綾門さんは、両手で捕まえているミーニャを持ち上げて顔を隠しながら、小さな声で可愛く抗議してきた。
 「う…ご、ごめん。なんだか今日に限って、ミーニャが僕にかまって欲しくて近づいてくるから…いつもはもっと距離を取ってるんだけど…なんでだろう?」
 普段のミーニャは僕が遊んであげようとしても、ツーンと澄まし顔なことが多いのに…今日も僕が部屋に入った時もちょっと顔を向けただけで、すぐに視線をそらそうとしたけど、あ、そういえば綾門さんの姿見たら、かなり驚いてたな。
 それを教えてあげると、綾門さんはミーニャを自分の方に向けた。
 「…ミーニャちゃん…もしかして私が来たから…ヤキモチ焼いて更級君に…くっついてたの?」
 「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーにゃん!!」
 ちょっとジト目な綾門さんの指摘に、ミーニャはなんか身体全体を使って違うアピールをしているように見えるけど…偶然だよね?人間の言葉分かるわけないし…
 「…ミーニャちゃん…わ、私は更級君の彼女なんだから…邪魔しちゃだめ…だよ…」
 「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 ええっと『そんなの認めないわよ、この泥棒猫!』って感じなのかなぁ?ミーニャの方が猫なんだけど。
 ま、まさかね、やっぱりこんなの偶然…
 「…あまり聞き分けがないと…私だって怒る…よ?」
 そう言いながら、綾門さんはミーニャを自分の身体に寄せた。あ、これは…
 むぎゅぅぅぅぅ
 「むぅぅぅ~~~!!」
 ミーニャの小さな身体が、制服越しに綾門さんの182cmという爆乳に押し付けられる。
 ミーニャは必死にネコパンチ、ネコキックを繰り出して、自分に押し当てられた爆乳を攻撃する。
 素人の僕目線だけど、子猫にしてはなかなか素晴らしい攻撃に見える。
 しかし、ダメージを与えられているとはとても思えない。
 巨大な戦車の砲撃が直撃しても、触れたことすら感じられないと言っていた綾門さんの胸だ、ミーニャの攻撃では1mmも凹ますことすら難しいだろう。
 でも、あー…ミーニャにとっては苦しいだろうけど…ちょっと羨ましい感じもするなぁ。
 「…更級君…羨ましいとか…思った…?」
 速攻で図星なんですが?なんですか?スーパーガールにはそんな力まであるんですか?
 「…いいなーって顔…してたよ?」
 「………ちょっとだけ、思ったけど…」
 僕はあっさりと図星を指され、気恥ずかしくなりつい目線をそらしてしまう。
 「…ふふっ…更級君が望むなら…いつでもいくらでも…ギュッってしてあげる…よ…」
 優しく嬉しそうに、綾門さんはそう答えた。
 それは嬉しいけど…むぅ、やっぱりそう言われると、ちょっと恥ずかしいな…
 って、そんなことをしているうちに、綾門さんの胸元では暴れていたミーニャの動きが徐々に弱くなってきていた。
 「綾門さん、その、ミーニャは大丈夫?」
 「…ん…大丈夫…手加減は覚えたから…」
 そんな会話をしているうちに、とうとうミーニャはぐったりと力が抜けて動きが止まってしまい、それを見てようやく綾門さんはミーニャを解放した。
 「…正義は…勝つ…」
 下手するとペット虐待になるようなことをしていた綾門さんは、可愛くガッツポーズを作りながらそんなことを呟いた。
 まぁ…とりあえず争いが収まったから、よかった、かな?ミーニャにはちょっと可哀そうなことになったけど…
 綾門さんの胸に負け、目を回してぐでーとしているミーニャに、心の中で助けなかったことをとりあえず謝っておいた。
 「…ところで…更級君…」
 「ん?なに、綾門さん」
 激闘の末ミーニャを葬り去った(もちろん生きてます)綾門さんが、ずいっとその巨体で僕に近寄ってきた。
 膝立ちの状態から、両手も床に付けて四つん這いの状態で近寄ってきたため、ちょうど胡坐をかいて座っていたぼくと綾門さんの顔が、ほぼ同じ高さで向き合うことになった。
 ちなみに少し目線を下げると、学校の制服を今にも突き破らんとばかりに膨らむ爆乳が作る深い谷間が、思いっきり目に入ってくる。
 学校では、もはや収まりきらないそのセクシーすぎる巨体に、色目を使う男子達が日に日に増えている綾門さんの肉体。
 いくら恋人同士になっても、こうも間近で見てしまうと、相変わらずドキドキしてしまう。
 「…更級君は…いつもミーニャちゃんに…ああいったこと…してるの?」
 「ああいったこと?」
 「…あの…抱っこしてあげたり…喉とか顎の下をなでてあげたり…頭もなでなでしてあげたり………お、お腹までなでてたし…」
 綾門さんが、顔を真っ赤にしながら、僕がミーニャにやっていたことを指摘してきた。
 「あー………まぁ、ミーニャは猫だから…」
 実は猫じゃらしで遊ぶ前も、綾門さんが言ったようなことをミーニャにやっていた。
 普段は殆ど撫でさせてくれないミーニャが、あそこまで積極的に近寄ってきてくれたものだから…ついつい勢い余ってここぞとばかりに撫でまくってしまった。
 もしかして、可愛がり過ぎちゃって引かれちゃったかな…
 「…ずるい…です…」
 「え?」
 「…ミーニャちゃんが猫だからって…あんなに可愛がってもらえるの…ずるい…」
 「可愛がる?た、確かにそうだけど、でもほら、ミーニャは猫だから…」
 「………じゃぁ…私が猫になったら…可愛がって…くれる?」
 ………え?猫になる?
 いや、いくらスーパーガールでも、猫になるなんて無理…だよね?
 もしかしてスーパーガールには、変身能力とかあるのかな?
 「…ちょっと待ってて…」
 そう告げると、綾門さんは僕の部屋の窓を開け、
 ビュンッッ
 一瞬にしてその姿を消した。
 「………」
 僕は茫然としながら、窓から外を見つめつづけた。
 これは…これまで何度も経験している展開だ。
 スーパーガールな綾門さんは、こうなるといつも想像絶することをしでかしてくる。
 ということは、今回は本当に猫になって戻ってくるとか…
 いや、まさか…ね?
 そんな、これから綾門さんが起こすであろう、突拍子もない行動を不安に感じながら、窓から外を見ていること数分…
 ビュンッッ
 「…ただいま…」
 綾門さんが、突然目の前に現れた。
 「お、おかえり…」
 僕はその綾門さんの姿に驚きすぎて、ただただ簡単な挨拶しか返せなかった。
 首から上は、さっきまでと変わらない、地味っ娘モードの綾門さんだ。
 でもそこから下は、ついさっきまで制服姿だったものが、この暑い夏の季節に首元から膝下までがすっぽり隠れる冬用のトレンチコートに変わっていた。
 更にその横には、一目見て頑丈だとわかる、現金輸送の時にでも使われそうな感じの大型のキャリーバックが置かれている。
 「………とりあえず綾門さん、部屋に入って」
 「…うん…」
 色々聞きたいことはあったけど、ご近所の目もあるので早々に部屋の中に入ってもらい、ついでにカーテンも閉めることにした。
 これで外は大丈夫として、問題は目の前の綾門さんだけど…
 「綾門さん、どうしたのその恰好?」
 色々考えても解決しそうにないので、僕は素直に聞いてみた。
 「…更級君に可愛がってもらえる猫になれるよう…準備してきた…の…」
 猫になる準備?しかも僕に可愛がってもらえる?
 「…今から猫になるから…見てて…ね…」
 そう言って、綾門さんは自分の髪を解いた。
 地味なおさげ姿が、艶やかな黒髪が綺麗になびく日本的美少女へと変わっていく。
 更にその美しさを隠していた野暮ったい眼鏡を外すと、あっという間に絶世の美女であるスーパーガール綾門さんの姿に変わった。
 「…まだ…だよ…」
 綾門さんは続けて、トレンチコートのポケットから何かを取り出した。あ、これは…
 「ねこみみ?」
 綾門さんが取り出したのは、一部、いや、大多数の人に大人気の、あのねこみみカチューシャだった。
 しかも黒髪の綾門さんにぴったりの、黒猫バージョン。
 綾門さんはそれをスムーズに、自分の頭へと取り付けて………
 かーわーいーいー!!
 僕の目の前に、長身ねこみみ美少女スーパーガール綾門さんが爆誕した。
 あまりの可愛さと、自分好みの属性の盛り込みっぷりに、僕は驚きで声も出せない。
 そんな僕の姿をみてか、綾門さんは嬉しそうに微笑んでくれた。
 「…喜んでくれて…ありがとう。…でもまだ…だよ…」
 綾門さんは、とうとうトレンチコートに手をかけた。
 ゆっくりと、一つづつボタンを外していく。
 僕は駄目だと思いつつ、ついつい食い入るように綾門さんを見つめてしまう。
 そしてトレンチコートが全て脱がされると、隠されていた綾門さんの全体が現れた。
 ………綾門さん、セクシーすぎじゃないですか?
 いつもなら、青いチューブトップ型のビキニ姿のはずだった。
 しかし今日、綾門さんが着ていたのは、その黒髪と黒ねこみみに合わせたかのような、黒いブラとショーツだった。
 「…更級君…これみて…」
 綾門さんは、首元に付けられている物を手で触って見せた。
 チリンッと、澄んだ小さな音が部屋に響く。
 やっぱり猫を意識してか、それは黒いリボンで首に括られた鈴だった。
 「可愛いね」
 「…ふふっ…ありがとう。…あとはここも…見て…」
 そう言って綾門さんが指さしたのは、ブラの中央部分。
 そこは大きく胸元が開いていて、白く深い胸の谷間が見せつけられる。
 あ、この胸元のデザイン…
 「…猫の型になってるの…セクシー…でしょ?」
 そういえば少し前に、こんなデザインの下着が流行ってるとかネットで見た気がする。
 まさかそれを、綾門さんが着てくるなんて…
 あまりに予想外だった綾門さんの姿に、僕は黙り込んでしまう。
 「…更級君…ミーニャちゃんと違って色々と大きくて…セクシーすぎるけど…可愛がってくれるか…ニャン?」
 両手を顔の横で軽く握りこぶしを作って猫のポーズをすると、綾門さんは可愛く小首を傾げた。