お嬢様の話

高遠夕菜(たかとお・ゆうな)は、ほぼ完璧なお嬢様である。
成績優秀、スポーツ万能、ファッションモデルに選ばれてもおかしくないほど美しく整った顔に加え、ほわんとおっとりとした性格で誰にでも優しい。ついでに家は、名前を聞けば誰もが知ってる国内有数の名家である。
そんな、一昔前の漫画に出てきそうなお嬢様要素を全て兼ね揃えたような彼女だが、 実はちょっと普通のお嬢様と違うところがある。

巨大なのだ、なにもかも。
身長221cm、体重273kg。
プロレスラーや力士でもまずお目にかかれないその大きな身体は、 幼い頃から毎日欠かさず行っているハードなトレーニングによって殆ど脂肪が付いておらず、 圧倒的な筋肉によって幾重にも盛り上がっている。
丸太のような腕や足はもちろん、ズドンと突き出した爆乳さえも鍛え抜かれた柔軟な筋肉で出来ており、そのサイズたるや世界大会で活躍するような男性ボディービルダーさえも、横に並ぶとまるで子供に見えてしまうほどだ。
そんなわけで、普通なら男性からの誘いが引く手数多なはずのお嬢様なのに、 彼女はその巨大さが災いして今まで一度も男性と付き合ったことが無かった。
それどころか、家族以外の男性と殆ど口を利くことも無い。相手が怖がって話しかけてこないのである。

まぁ、正確に言えば一度だけ、積極的に男性から話し掛けられたことがあった。
中学生の頃、ちょっと良いかなと思っていた同級生からだ。話し掛けられただけでなく、数日後には一気に告白までされた。
ただ、実はそれは男子生徒達の仕掛けたたちの悪い悪戯だったため、彼女の心に深い傷を与えただけで終わってしまったのだが。
それ以来、彼女は一生トレーニングをしていこうと決意したのである。
また騙されるかもしれない男性と付き合おうとするよりも、自分を裏切らずに努力が目に見えて結果に現われていく
トレーニングを続けることの方が気楽なのだ。
トレーニングを続けることで、筋肉だけでなく筋力も日に日に増していくのが分かる。
その自らの成長を実感できる快感と比べれば、彼氏が出来ないことぐらい全く気にならな…
「でも少しだけ、カップルの方達を見ると男の方とお付き合いしたいと思うこともあります…」
………まぁ、彼女はそんな、16歳のお年頃な高校一年生なのである。
[newpage]
そんな彼女に、最近頻繁に話しかけてくる男性がいた。
 「高遠さん、こんにちは」
 「あ、酒見さん♪」
 放課後、自分の家の系列会社であるとあるトレーニングジムにて。
 爆発的な筋肉で覆われたムチムチの身体を特注のノースリーブのレオタードで包み、
 夕菜が自分専用に特別に造られたトレーニングルームに向かっていると、一人の男性から声を掛けられた。
 目の前にいた男は、酒見涼児(さかみ・りょうじ)。
 最近このジムで知り合った、夕菜とは違う学校に通う高校一年生である。 
 身長は160cmそこそこで、ちょっと細身のその身体はスポーツなどとは縁遠そうにみえる。
 実際、一ヶ月前にこのジムでトレーニングを始めるまで、本格的に運動らしい運動をしたことは無かった。
 「酒見さんもこれからトレーニングですか?」
 「あ、うん、丁度今来たところで…」
 身長差が60cmもあるため、涼児はグッと首を曲げて上を向けなければならない。
 そんな涼児を見て、夕菜は微笑むと目線を合わせるべく片膝を折った。
 夕菜の顔が目の前に下りてくる。それと同時に少し視線を下げると、その体同様圧倒的な存在感を誇る夕菜の爆乳と、その爆乳が生み出す深い深い胸の谷間が涼児の目に入った。
 みるみるうちに涼児の顔が赤くなっていく。それを見て、夕菜は不思議そうに小首を傾げた。
 「どうしました?酒見さん?」
 「あ、いえ、その………む、胸の谷間が見えてます…」
 「え?」
 顔を背けつつ、消え入りそうなほどの小さな声で涼児が答えたのを聞いて、夕菜は自分の胸元を見た。
 夕菜はもちろん胸も巨大だ。215cmという途方も無い大きさで、ブラのサイズもZカップでは足りないその胸は、まるでスイカを二つくっ付けたかのようにレオタードを盛り上げている。
 普通の人間なら十分の一もこなせないであろう程のハードトレーニングを連日行うことによって作り上げられた夕菜のその胸は、発達した大胸筋でできている。力を込めずにリラックスした状態では程よい弾力を誇り、
 一度力を込めれば他の身体の部位同様全てを破壊しつくす筋肉の塊と化す。
 どうやら涼児はそんな自分の胸を見て、真っ赤になってあさっての方向を向いているようだ。
 (酒見さんたら…言われなければ私が気付かなかったのに。正直な方ですね…)
 そんな涼児を見て、夕菜はクスリと微笑んだ。
 涼児は数少ない、自分をちゃんとした異性として扱ってくれる男性だった。
 他の男性達は、自分をまるで恐ろしい怪物でも見るかのように接してきた。
 まぁ、これだけの筋肉で包まれた巨大な身体である、無理も無いかもしれない。
 それなのに、涼児は初めて会った時から自分に対して、一人の普通の女性として接してくれていた。
 そんな涼児の態度が、夕菜にはたまらなく嬉しいものだった。
 (もしかして…酒見さんは私のこと怖くないのかしら?)
 そんな考えが夕菜の頭に浮かぶ。
 もしかしたら…この人なら…自分を受け入れてくれるかもしれない…
 諦めかけていた恋人が出来るかもしれない。そんな想いが夕菜を突き動かした。
 「あの、酒見さん…」
 「え?」
 頬をうっすらと赤く染めながら、夕菜はじっと涼児を見つめる。
 「私の身体…どう思いますか?」

 「た、高遠さんの、身体?」
 「はい…」
 恥ずかしそうに答えると、夕菜は方膝を付いた状態から立ち上がった。
 可愛らしい顔と一緒に、突き出されていた爆乳が一気に高い位置に移動する。
 「十年間、ずっとトレーニングしてきた身体です…」
 夕菜は両腕を上げていき、そしてゆっくりと曲げていく。ボディービルでダブルバイセップスと呼ばれるポーズだ。
 屈み気味だった姿勢を伸ばしたことで、ただでさえ大きい胸はレオタードを破るかのような勢いで突き出され、
 太い腕はさらに筋量を増して凶悪なほどに盛り上がっていく。
 「腕と胸の筋肉には、少し自信あるんですよ。あ、あんまり自慢できることじゃないですけど…」
 少し寂しそうな苦笑を浮かべながら、小さな声で夕菜が話す。
 涼児は、目の前にそびえ立つ筋肉で覆われたその巨体に圧倒された。
 彼女がその太い腕に力を入れて抱きしめるだけで、いくら抵抗しても自分の身体は簡単に抱き潰されてしまうだろう。
 それどころか、今このまま彼女が倒れこんでくるだけで、巨大すぎる爆乳に圧殺されてしまうかもしれない。
 人間離れしたモンスターボディーに、涼児はボーっと口を開けたまま、ただただ夕菜の顔を見上げていた。
 これは呆れているためか、それとも恐怖に感覚が麻痺してしまっているのか。夕菜は判断できない。だが、
 (やっぱり、普通の女の子のように見てもらえませんよね…)
 涼児の反応に、表情には出さないが胸の中に悲しみが溢れ出す。
 今まで何度も経験してきたこととはいえ、人に否定されるということには何時までも慣れることは出来ない。
 「すみません、やっぱりこんな身体、怖いだけですよね。変なこと聞いてしまって…ごめんなさい」
 そう言って夕菜はポーズを解くと、涼児の視線から避けるように目を逸らし、逃げるようにトレーニングルームへ向けて歩き始めた。もう二度と、男性と付き合おうなんて思わないと誓いながら。しかし、
 「待って!」
 「え?」
 突然、涼児は夕菜のお尻に飛びついた。
 涼児としては全力で、それこそ倒すぐらいの勢いでタックルをしたつもりだったのだが、
 夕菜の方はキョトンとした表情で抱きついている涼児のことを見下ろしていた。
 彼女にとっては、涼児のタックルは小さな子供がじゃれついてきたぐらいにしか感じていなかった。
 もっとも、たとえ現役の力士が本気でぶつかってきても、彼女は同じように微動だにしなかっただろうが。
 それでも夕菜が止まってくれたことを確認すると、涼児は手を離して夕菜の正面に回った。
 見上げると、夕菜は先程と変わらず驚いた表情のまま自分を見下ろしている。
 その目をじっと見返してから、涼児は口を開いた。
 「返事が遅れちゃってごめんね。目の前で高遠さんの身体を見れたから、つい見惚れちゃって」
 耳まで真っ赤にしながら、夕菜を見続ける。そして自分の内にある勇気を総動員して、涼児は言葉を続けた。
 「僕は高遠さんの身体のこと…いや、身体だけじゃなくて高遠さん自身が…好きだよ」
 「ほ、本当ですか!?」
 涼児に負けず劣らず、夕菜の顔は真っ赤に染まっていく。
 「うん、だって僕がこのジムに入会したのは、君がここに入っていくのを見たからで…。
 その、僕は君みたいな大きくて逞しい女性が好みなんだ。逞しければ逞しいほど…」
 突然の告白に、夕菜はまじまじと涼児を見詰め続けるしかなかった。

 「高遠さん?」
 立ち尽くす夕菜の姿に不安を感じて、涼児は下から覗き込むように夕菜の顔を見上げた。
 もしかして嫌われたかな?
 涼児がそんなことを考えていると、突然自分の五倍はありそうな夕菜の太い腕が首と膝に伸ばされ、軽々と身体を抱き上げた。
 俗に言う、お姫様抱っこの体勢だ。
 抱き上げられたことによりあれだけあった身長差が無くなり、目線がほぼ同じ位置になる。
 「嬉しいです、酒見さん」
 持ち上げた涼児を、夕菜は澄んだ瞳を涙で潤ませながら見つめる。
 「こんな私の体を、好きだと言っていただけるなんて…」
 夕菜は首に回していた手を涼児の後頭部に添えると、今度はゆっくり胸元に抱き寄せる。
 ムギュゥ
 レオタード越しに押し当てられた爆乳に、涼児の顔は楽々と挟み込まれてしまう。
 夕菜はまるで赤ん坊をあやすかのように、優しげな微笑を浮かべながら涼児を抱き続けた。
 一瞬、窒息させられるのかという恐怖から涼児は抵抗をしたが、すぐに力を抜いて夕菜にされるがままになった。
 柔軟な筋肉で出来た夕菜の胸は適度な弾力を持って涼児の顔を完全に包み込んだが、頭を抑えるその手付きは優しくて、恐怖どころかなんだか心が安らいでくる。
 その姿勢のままどれくらい時間がたっただろうか、さすがに息が苦しくなってきたので、涼児は右手で夕菜の胸を叩いた。
 夕菜はすぐに腕の力を緩めて、涼児の顔を胸から開放する。
 「いかがですか、私の身体は?酒見さんの御期待に応えられたでしょうか?」
 涼児は一度深呼吸してから顔を上げると、まるで飼い主に褒められるのを待つ子犬のように、期待に満ちた表情を浮かべている夕菜と目が合った。
 「うん、最高だよ高遠さん!」
 「よかったぁ♪」
 夕菜はぱっと満面の笑みを浮かべて、もう一度ギュッと涼児の頭をその巨大な胸に押し当てた。そして耳元で、小さく囁いた。
 「それでは、次はトレーニングルームで私がどれだけ強いかお見せしますね」
 え?っと驚いた表情で顔を上げた涼児に夕菜は天使の笑顔で微笑んで、涼児を軽々と抱えたまま自分専用のトレーニングルームへと向かった。

 「うわー…」
 夕菜に連れて来られた、ジムの地下にある専用トレーニングルームを見て、涼児が漏らした第一声は溜息交じりのこんな言葉だった。
 普通の学校の体育館並の広さに、一際巨大なトレーニングマシンやバーベルが置かれている。
 それだけではない。普通のジムにはまずない、巨大な石の塊やドラム缶並みの太さの鉄柱、砲丸投げの砲丸などといった物までがなぜか壁際に置かれていたりする。
 「着きましたよ、酒見さん」
 そんなトレーニングジムの様子に呆然としている涼児に、夕菜は優しく微笑むと、
 ゆっくりと涼児を備え付けの椅子に座らせた。
 「た、高遠さん、これからなにをするんですか?さっき強さを見せてくれるって言ったけど…」
 いきなりトレーニングルームに連れて来られまだ落ち着かない涼児は、動揺しながらも座ったまま夕菜を見上げる。
 「はい、さっき私の身体を見ていただきましたから…今度はこの身体にどれくらいの力が秘めているか、お見せしますね」
 夕菜が身体を前に倒して、鍛え抜かれた腕を目の前で盛り上げてみせた。
 みっしりと筋肉の詰まった腕が一気に盛り上がっていく。
 気のせいだろうか、さっき盛り上げた時よりも一回り太くなっているような…
 「実は今、自分でも怖いぐらい体中に力がみなぎっているんです。
 こんな抑えきれないぐらい力が溢れてくることなんて、これまで一度も無かったんですけど…
 きっと、酒見さんがこんな私の身体を好きだって言ってくれたからですね…」
 そう言うと、夕菜はその凶悪な爆裂筋肉ボディーとのギャップが激しすぎる可愛らしい顔を、恥ずかしそうに薄っすらと赤く染めた。
 「そ、それじゃ始めますね。まずは…」
 恥ずかしさからか逃げるように夕菜が向かった先には、ジム内で異彩を放つ巨石があった。
 まるで夕菜の筋肉のようにゴツゴツとした巨石。直径5m近くある不恰好な球形の石の前で、夕菜は足を止めた。
 もしかして持ち上げるつもりなんだろうか?いくら人並み外れた筋肉の持ち主である夕菜とはいえ、一体どれだけの重さがあるかも分からないあの石を持ち上げられるわけが…
 「ん…」
 しかし目の前で起きた出来事に、涼児の思考が停止した。
 夕菜が腰を落とし巨石に両手をかけて力を込めると、
 ただでさえ盛り上がっていた身体中の筋肉がバンッと爆発的に膨れ上がったのだ。そして、
 「よいしょ…っと…」
 可愛らしい掛け声とともに、自分なら1mmたりとて動かせないであろうその巨石を、彼女は軽々と抱え上げてしまった。
 「…うん、いつもならこの10tの石はもっと重く感じるんですけど…今日は凄く軽く感じます」
 これまでと変わらない愛らしい笑顔を浮かべながら、踊るように軽快に涼児の方へ振り向いた。
 その動き、表情からは、10tもの巨石を持っているという苦しさは微塵も感じられない。
 両腕で挟みこむように持ち上げた巨石を爆乳の前で抱えながら、夕菜はゆっくりと涼児の前まで歩いてくる。
 そんな、自分の想像を超えた怪力を発揮している夕菜を、涼児はただただ唖然と見上げ続けるしかなかった。
 「もう、酒見さんったら………驚かれるのはまだ早いですよ」
 固まっている涼児を見下ろす夕菜の顔に、これまでになかった悪戯っぽい笑みが浮かぶ。
 それに合わせて、巨石からピシピシピシ…といった音が聞こえ出した。夕菜が腕に込めた力を強めたのだ。
 そして次の瞬間、
 「本番はこれからなんですから、ね?」
 ボガガガガガァ!
 さらに込められた力によって、巨石は粉々に抱き砕かれてしまった。

 夕菜によって砕かれた巨石が、破片となってパラパラと涼児の目の前に降り注ぐ。
 身体つきからして、とんでもない怪力を秘めていることはある程度予想していた。
 けれどまさか、10tもある石を軽々と持ち上げ、さらに抱き潰す程とは思わなかった。
 しかも笑顔を浮かべたままでだ。
 「えっと…抱き潰しちゃいました」
 当の夕菜は、まるで悪戯がばれた子供のように、微笑みながら小さく舌を出した。
 男なら誰もが骨抜きにされそうな、かわいらしい笑顔。
 涼児にとってはまさに理想の、誰よりも可愛くて、誰よりも強く、逞しい女性。
 そんな彼女が目の前で、自分のためだけにこんなパフォーマンスをしてくれることに、
 涼児は嬉しくてただただじっと夕菜を見つめ続けるしかなかった。
 一方夕菜も、涼児のその視線に喜んでいた。
 これまで色々な人から向けられてきた、恐怖の対象として自分を見ている視線ではなく、純粋に好意のこもった目で自分を見つめてくれている視線を。
 「それじゃ、次にいきますね」
 そう言って夕菜は離れていくと、壁際に置かれていた砲丸を持って戻ってきた。
 一体何をするんだろうか?そんな表情を浮かべる涼児の前に、夕菜は膝を曲げて身を屈め、砲丸を持った手を差し出した。
 「今度はこれを壊そうと思うんですが…涼児さんはどこがよろしいですか?」
 夕菜は可愛らしく、コクンと小首を傾げた。
 「ど、どこって?」
 「ですから私のこの身体の…腕の力瘤ですり潰したり、太腿で挟み潰したり、それともこのまま手で握り潰したり…
 酒見さんの好きな所で、この砲丸を壊してみせますわ」
 涼児は目の前に突き出された砲丸と、夕菜の身体を交互に見た。
 夕菜の言うとおり、先程巨石を簡単に抱き潰した、はちきれんばかりのその圧倒的な筋肉ならば、鉄の塊である砲丸を潰すことさえも簡単なことなのかもしれない。
 「どこでもよろしいですよ…」
 耳元で囁かれた夕菜の甘い声に、涼児は顔を赤らめてゴクリと唾を飲んだ。
 「ほ、本当にどこでもいいんですか?」
 「はい」
 「それじゃ、あの………夕菜さんの、む、胸で………」
 涼児の視線は、身を屈めたことで目の前に来ていた夕菜の巨大な胸に向けられていた。

 涼児のお願いを聞いた瞬間、夕菜は一度キョトンとした表情を浮かべた。
 「胸で、ですか?」
 そう言いながら、自分の胸元を見下ろした。
 自然と、その巨体の中でも一際周囲の目を引く巨大な双球が作り出す深い谷間が目に入る。
 「だ、駄目ですか?」
 「いえ、その…胸の鍛え方には自信がありますけど、今まで鉄球を潰したことはなかったものですから………
 出来ますでしょうか?」
 夕菜は眉をひそめ、ちょっと困ったような表情で涼児を見下ろしている。
 うん、可愛い。夕菜の整った顔には、そんな悩ましげな表情にさえ人を惹きつける可愛さがある。
 しかしお願いをした涼児からすれば、夕菜にそんな困った表情をさせるのはなんとも忍びない。
 「えっと…それじゃやっぱりそのまま手で握り潰して…」
 「いいえ、それはいけませんわ、酒見さん」
 涼児の言葉を、おっとりとした夕菜の声が遮った。
 「え?」
 「やってみる前から諦めてはいけません。それに、酒見さんに見たいって言っていただけたんですから…私、頑張っちゃいます」
 そう言ってうんっと小さく頷くと、夕菜は両膝をついて視線を涼児に合わせた。
 そして手にしている鉄球を涼児に手渡すと、身体を少し前傾させた。
 「ですから…酒見さん、どうぞ」
 「え?」
 身体を少し倒したことで、涼児はレオタードを押し上げる夕菜の人並み外れた巨大な胸を、上から覗き込むような状態になった。
 「高遠さん!?」
 顔を真っ赤にして、涼児は慌てふためいた。上質の白磁のように白い爆乳が、思いっきり目に入る。
 しかもそれはたまたま見えているという状況ではなく、夕菜自らがわざわざ覗きやすいようにしてくれているのだ。
 そしてその姿勢で、鉄球を自分に渡してくるということは…
 「もしかして…」
「はい。その…酒見さんの手でこの胸に…」
 頬を薄っすらと赤く染めつつ、少し恥ずかしそうに、消え入りそうな小さな声でそう答えると、
 夕菜はその鍛え抜かれた身体を涼児にすり寄せた。それにあわせて、巨大すぎる胸もまた涼児の目の前にと突き出される。
 「で、で、でも…」
 ジッと夕菜の胸を見つめる。大きく、そして逞しい双球はレオタードの中でみっちりとくっついており、
 鉄球を挟むためには左右に広げて隙間を作らなければならない。
 それはつまり、夕菜の胸を手で触らなければならないというわけで…
 はたして本当に触ってもいいものか、悩んで立ち尽くす涼児に、夕菜は天使の様に優しく微笑んだ。
「そんなに緊張しないで下さい。私は酒見さんになら触られても…いえ、酒見さんに、触ってもらいたいんですから」
 夕菜の右手が鉄球を持った涼児の手を掴む。そしておもむろに、大きく開いた胸元にその手を引き入れた。

 思っていたよりも柔らかい。
 それが涼児の素直な感想だった。
 抵抗することなど出来るはずが無い、夕菜の人外の怪力によって無理やり触れることになったその胸は、
 程よい弾力で鉄球とそれを握っている涼児の手を受け入れた。
 「酒見さん、痛くありませんか?」
 「う、うん。その…柔らかいです」
 恥ずかしさから夕菜の顔を直視出来ず、涼児はつい俯いたまま答えた。
 「ふふ、力を込めたらもっと硬くなりますわ。でも、今力を込めたら酒見さんの手が大変なことになってしまいますから」
 笑顔のまま発せられたその言葉に、涼児は「あっ」と小さく声をだした。
 つい先程、自分の目の前で起きた光景を思い出したのだ。
 夕菜が筋肉で盛り上がるその両腕で巨石を抱きしめて、粉々に破壊してしまった姿を。
 しかもその時彼女は、まるで慈愛溢れる女神かのように笑顔を浮かべたまま、軽々と抱き潰してしまったのだ。
 自然と身体が強張る。
 もし今夕菜が胸に力を込めたら、鉄球と共に挟まれている自分の右手は…
 あの巨石のように、粉々に骨を砕かれてしまうだろう。
 いくら自分が必死に抵抗したとしても、夕菜のパワーにかなうわけがない。
 10tの岩を軽々と持ち上げ抱き潰すと彼女と、ただの貧弱な少年でしかない自分との力の差は、
 それこそ巨象と蟻ぐらいあるのだから。しかし、
 「そんなに緊張しないで下さい、酒見さん。大好きなあなたに危害を加えるなんてこと、絶対しませんから」
 ゆっくりと伸びてきた夕菜の両手が優しく涼児の頬に添えられ、顔を上げさせた。
 目の前に夕菜の魅力的な笑顔が現れる。そして自分を見つめる、少し潤んだ優しい瞳。
 その瞳に涼児は射抜かれた。
 自分を信頼し、心の底から大事に想ってくれていることが伝わってくる。
 ここまで自分を信頼してくれている彼女を、どうして疑う必要があるだろうか。
 涼児は肩の力を抜いて微笑むと、ゆっくりと夕菜の胸元から右手を引き抜いた。
 それにより鉄球だけが深い胸の谷間に残された。挟み込まれた鉄球の分だけ胸は横に広がり、レオタードを引き伸ばしている。
 ただ、夕菜もほんの少しだけ力を加えているのか、約7キロある鉄球は手を使わなくても爆乳から落ちることもなく固定されている。
 ともかく、これで準備は整った。
 「…高遠さん、僕に見せて下さい。あなたの身体がどれだけ凄いのか。その胸で鉄球をおもいっきり抱き潰してください!」
 「はい!酒見さんのご期待に添えるように、私頑張ります!」
 おっとりとしながらも元気のいい声で、夕菜が答えた。そして、それまでの優しさの溢れる笑顔を真剣な眼差しに変えると、
 「えいっ!」
 ベキッ、メリメリメリメリメリ………
 掛け声と同時に夕菜の胸元から聞いた事の無い破壊音が流れ、
 そして鉄球の分広がっていた胸の谷間がみるみるうちに狭まっていく。
 驚いた。ムキムキの腕で両側から押さえ込んだりもせず、純粋に胸の力だけで狭まっていくのだ。
 そして最後には、音が止むと同時に、胸の谷間は元の状態と殆ど変わらないぐらいにまで閉じてしまった。
 「た、高遠さん?」
 夕菜のその凶悪な筋肉バストなら、鉄球だって潰してくれる。それは期待というか当然のこととして想像していた。
 が、ものの数秒で、恐ろしいほどあっさりと元の状態になってしまった胸元を見て、涼児は驚愕した。
 夕菜は逞しい筋肉で覆われた腕を自分の胸元に伸ばした。
 「思っていたよりも、簡単でした」
 にっこりと笑顔を浮かべゆっくりと引き戻された夕菜のその手には、紙のようにペラペラとなった、
 ほんの数秒前まで鉄球だった物が握られていた。

 「ふふっ、酒見さん。どうやら私の胸は、自分が思っている以上に鍛えられてしまっているみたいです。鉄球がとっても柔らかく感じましたもの」
 優しく微笑みながら、夕菜はたった今鉄球を完膚なきまでに押し潰した巨大な筋肉バストを、手を使わずにゆさゆさと壮大に揺らした。
 涼児はポカンと、まるで筋肉の女神のような夕菜に見惚れていた。
 誰もが振り返るような美しい顔に、10tの岩を軽々と持ち上げまるで砂山を崩すかのように易々と抱き潰す信じられないパワーと、それを生み出す規格外の筋肉ボディ。
 しかもそんなにも圧倒的な存在でありながら、夕菜は自分の無茶なお願いに笑顔で応えてくれるぐらい優しくて、心底自分を好いてくれている。
 ギュッ
 気が付けば涼児は、夕菜の厚く逞しい腹筋に全力で抱きついていた。
 「さ、酒見さん!?」
 突然の涼児の行動に、夕菜は驚きの表情を浮かべ慌てた。
 しかし慌てたりはしたが、涼児を突き放したりはせず、立ったままの状態で涼児のさせたいようにさせた。
 涼児は夕菜の腹筋に頬をあて、擦り付ける。
 まるで赤ちゃんがお気に入りのぬいぐるみを全力で愛するかのように、力一杯抱きつきながら。
 「酒見さんったら…ふふっ、意外と甘えん坊さんなんですね」
 驚きの表情を笑顔に戻して、夕菜は涼児を見下ろしていた。
 その目に浮かぶのは、愛おしくて仕方がないという暖かな感情。
 自分の凶悪ともいえるぐらいに盛り上がった筋肉で覆われた身体を恐れず、
 それどころか身を持って愛していることを表現してくれる涼児を、夕菜は優しく優しく見下ろしていた。
 それから五分程過ぎて、涼児はギリギリ手の回っていた夕菜のウエストからゆっくりと手を離すと、一歩だけ下がり、顔を上げた。
 自分を微笑みながら見下ろしている夕菜と目が合う。
 「高遠さん」
 「は、はい」
 真剣な眼差しで名前を呼ばれ、夕菜はついつい反射的に答えた。
 「まだハッキリと言ってなかったから…聞いてください」
 自分を見る涼児の眼を見て、夕菜の顔から笑みが消え、真剣なものへと変わる。
 これから涼児が発するだろう言葉が、本当に大事なものなのだろうと感じたからだ。
 「高遠さん、僕はあなたが…あなたの全てが好きです。
 これからずっと、あなたのことを全力で愛していきますから…だから、僕の恋人になってください!」
 真っ直ぐに見つめられながらぶつけられたその言葉に、夕菜の心臓が大きく脈打った。
 頭の中までが熱を持っていくのが自分でも分かる。これまで感じたことが無いぐらいの興奮が、体中を駆け巡る。
 その爆発しそうな感情を、夕菜はどうにか押さえ込んだ。そして、
 「はい、喜んで…」
 頬を真っ赤に染めながら、一言だけ答えた。本当に短い一言だったが、それは夕菜の全ての喜びの感情を込めた言葉だった。
 「ははっ、よかった…」
 涼児の顔に、力の抜けたような、安堵の笑みが浮かんだ。
 「もし断られたら、どうしようって思っていたんですよ」
 「そ、そんなこと、絶対ありません!」
 「え?」
 思いの他強い言葉が夕菜から返ってきた。
 そしてその言葉に合わせて、夕菜の逞しい極太の両腕が涼児の両脇に差し込まれると、重さなど感じないとばかりに軽々と涼児の身体を持ち上げた。
 「私が酒見さんから告白されて、断るわけがありませんわ。
 だって私も…酒見さんのこと、好きで好きで好きでたまらないんですから…」
 夕菜は涼児の身体を、その巨大なバストに挟み込んだ。
 もちろん涼児を挟み潰さないように殆ど力を込めてはいないが、これだけで涼児の細い身体はガッチリと固定される。
 さらに自由になった両手で目の前の高さにまで来ていた涼児の顔を正面に向けると、二人の視線は絡み合った。
 「高遠さん…」
 「酒見さん…」
 そして二人はゆっくりと、優しく唇を重ねた。いつまでも、時が過ぎるのを忘れるようにいつまでも…

 これが、高遠夕菜というちょっと変わったお嬢様に恋人が出来た、そんな記念日のお話である。