相撲少女 江里音

「まいったなぁ、着任早々こんな事頼まれるなんて…」
高校の教員免許も取れ、はれて教師となった坂凪亮太【さかなぎ・りょうた】は、無意識のうちに愚痴をこぼしながらとぼとぼと山道を歩いていた。
近年の教師余りの状況の中、奇跡的に出た非常勤教師募集を目にして、採用通知をもらえたのが数日前。
そして今日が初出勤日。緊張しながら訪れた校長室で言われた言葉は、なんとも想定外なものだった。
「相撲同好会の顧問か…。でも、普通の相撲部もあるのに、どうして同好会もあるんだろう?」
そう、頼まれたのはこの学園にある相撲同好会の顧問だった。
なんでも一人の生徒が立ち上げたそうで、会員もその生徒一人らしい。
この学園には普通の相撲部もあり、しかも県内でもトップクラスの強さを誇る強豪だ。
にもかかわらず、何故か作られている相撲同好会…しかもそこの顧問を頼まれるとは…
「しかも断ったら教師採用取消だっていうし…。断れないよなぁ…」
小さく溜息を付きながら、亮太は山道を登っていた。 

身長170cmそこそこで決し大きな体をしているわけではない亮太だが、
これでも高校時代は団体戦で全国制覇を果たした相撲部のキャプテンを務めていたのだ。
もっとも優勝できた一番の理由は、一つ下の学年にいた、今や兄弟大関として角界に旋風を巻き起こしている双子の活躍のおかげだったのだが。
ともかく、校長から顧問就任を告げられた時一緒に渡された一枚のメモを手に、学校の裏山にある小さな神社までの道を急いだ。
部室の無い相撲同好会は、毎日そこで練習をしているという。
「でも…本当にここでいいのかな?だいぶ山道を登ってきたけど…」
学校を出て、かなり角度のある坂道を登り続けて30分はたつ。メモによればそろそろ目的の神社が見えてくるはずなのだが…

ズズズズズ………
「ん?今の音は…」
坂の上から聞こえてきた、何か重い物を引き摺るかのような音に、亮太は首をかしげた。
「なんだろう、変な音だな…」
気にしながらも坂道を登っていく亮太の耳に、引き摺るような音はさらに大きくなって聞こえてくる。
音は気になるが、とにかく今は神社に着くことが先決だ。そのことだけを考えながら歩みを進めて、ようやく終わりが見えた坂道を登りきった。
メモ通りなら、ここに神社が見えるはずだ。
「ふぅ、ようやく登りきった………。さてと、あとは相撲同好会の生徒を…」
目的の人物を探すために、亮太は神社へと目を向けた。そしてそこで見た光景に、亮太は固まってしまった。

探していた神社がそこにはあった。
裏山の人気の無い場所にある割には綺麗で、なかなか立派な造りをした拝殿と、その奥にはこれも立派な本殿が見える。
だが亮太の目を釘付けにしたのはその神社ではなく、神社の敷地内を動く一人の女の子の姿だった。
「ん、ん、ん…」
ズズズズズズズズ………
可愛らしい声を上げながら、先ほどから気になっていた引き摺る音を発しつつ女の子が動いていく。
音の正体が分かった。
 確かに何かを引き摺るような音だとは思っていたが、その通り視線の先にいる女の子は、
スポ根漫画の登場人物がロープの先に付いたタイヤを引っ張るシーンと同じようなことをやっていた。
 が、使っている材料が全く違う。
 ロープの代わりに極太の金属チェーン。タイヤの代わりに大きな立方体の石材。その石材を巨大な鉄板の上に乗せて固定し、女の子は自分に向かって走ってくる。
その女の子の身体に、良太は目を見張った。
体操着とブルマ、そしてブルマの上になぜか黒いまわしを捲いた女の子は、全身の筋肉をとんでもないサイズにまでパンパンに盛り上げている。
だがその筋肉は、ボディービルダーのように血管が浮かび上がりまくっているような筋肉ではなく、
筋肉の上から女性らしい脂肪が薄っすらと乗った、色気のある筋肉美だ。
それは単なる筋肉質な身体ではない、セクシーでグラマラスなスーパーマッスルボディだった。
凄いのは筋肉の盛り上がりだけではない。
亮太に向かってくるその身体は、一歩一歩近づくごとに段々と大きく見えてくる。
(大きい。大きすぎる…)
 ズンズンと自分に迫ってくる女の子の、人並み外れた筋肉を身に纏うその身体は、少なくても自分より頭二つ分は背が高く、肩幅などは倍以上ありそうに見える。
亮太は、校長からメモと一緒にもらった少女の首から上だけが写った写真を取り出した。
瞳が見えないぐらい細い糸目が印象的な、おっとりとしたとても優しそうな表情で微笑んでいる少女。
肩口で切りそろえられた黒髪も艶やかで、亮太がついつい惹かれてしまった美少女だ。
間違いない、あの信じられない重量でトレーニングをしている女の子は、この写真の美少女だ。

(あの子が萩島江里音【はぎしま・えりね】か)
校長から教えられた、女の子でありながら相撲部のあるこの学園で相撲同好会を立ち上げた唯一の生徒。
 おっとりとした天使のように優しげで可愛らしい顔をしていながら、まるでヒグマのような巨体をした女子高生。
 あの女子高生に、これからマンツーマンで相撲を教えていくなんて…
 考え込む良太などまるで視界に入っていないのか、女の子はズンズンと良太に迫ってくる。
 その圧倒的な迫力に、亮太はすぐにでも逃げだしたくなった。
(ここで逃げたら、採用が取り消されるかもしれない。でも…)
良太の頭の中で、教師という職と自分の命が天秤にかけられる。確かに教師は昔から憧れていた職業だ。
 しかし命を賭けてまでなりたかったかといわれれば………
(に、逃げよう!)
考えに考えて、ようやく決心がついた。
 やっぱり命が大事だ。
 たとえこのチャンスを逃したとしても、チャンスはまた廻ってくるかもしれない。
 だが、写真から顔を上げ急いでこの神社から逃げ出そうと動き始めた良太の肩を、とてつもない力が捕まえた。
顔を上げた良太の視界にまず入ったのは、一面真っ白な光景。
 それが鼻先数cmに突き出されていた、片胸でもバスケットボールを軽く凌駕するサイズである
 江里音の豊満すぎるバストが押し上げている体操着だとわかるまでには、
 そして自分が江里音に完全に捕らえられてしまっているということに気が付くまでには、まだ少し時間が必要だった。

何tあるのかも想像つかない巨石を引っ張るという行動は、このモンスター級の筋肉を持つ美少女にとってはどうやら単なる準備運動だったらしい。
江里音が、さほど息を切らす様子も無く、目の前で自分を見下ろしている。
その細い目を見つめ返しながら、良太は用件をどう切り出したらいいものか考え続けていた…が、
「ええっと、もしかして、坂凪先生でしょうかぁ?」
先に口を開いたのは江里音の方だった。
「う、うん、そうだけど…」
「まぁ。嬉しい、では本当にこの同好会の顧問に先生が付いていただけるのですねぇ」
 おっとりとした口調で、本当嬉しそうな微笑みを浮かべながら江里音が喜んだ。
「校長先生から、全国大会で優勝した経験もある先生が見つかったから相撲同好会の顧問にさせる、って聞いた時には信じられませんでしたけどぉ…
本当に本当だったんですねぇ」
「いや、まぁその…そうなるのかな?」
江里音の見るものをとろけさせるかのような満面の笑みに、ついさっき逃げようとしていた良太は罪悪感を持ってしまう。
「でも、先生がこんな可愛らしい方だなんて…ちょっと意外でしたぁ。てっきりもっと大きい方がこられると思っていたんですけどぉ」
江里音が、まるで小さな子供と目線を合わせるかのように身体を前に倒すと、体操着の下の爆乳がブルルンっと波打った。
自分の頭よりも巨大なその胸の動きに、良太はハッと息を呑んだ。

間近で見ると、その巨体の凄まじさを改めて感じる。
以前全国大会で2m近い大男達と戦ったこともあったが、江里音の規格外の盛り上がりを見せる筋肉や爆乳と比べたら、これまで戦った相手などせいぜい子猫ぐらいにしか感じられないほどの迫力の違いがあった。
「でもでも、私よりもこんなに小さな身体で、高校生の時に主将で全国制覇されたんですからぁ…先生、とてもお強いのですねぇ」
その言葉が、良太の胸を突き刺した。彼女の声からは嘲りの感情など全く感じられない。ただただ純粋に、自分を尊敬して言ってくれているのだ。
江里音からみれば虚弱体質の小学生にしか見えないぐらい、体格差のある自分を尊敬して。
「ま、まぁ、確かに全国制覇したのは本当だけど…」
だから、精神的にはチームを引っ張る主将ではあったが、実際は周りが強かっただけで自分は試合では目立った活躍はしていない…というか、むしろチームの足を引っ張っていた程度の実力でしかなかったとは、口が裂けても言えない。
「そんな方に相撲を教えていただけるなんて…私、感激してしまいますぅ。先生、よろしくお願いしますね」
そう言って可愛らしくぺこりと頭を下げた江里音に、良太はただ引きつった笑みを返すことしかできなかった。

 「そうだ先生、校長先生から、お会いしたらこちらを渡すように言われていたんです」
 簡単な自己紹介を交わした後、江里音からごくごくありふれた封筒が差し出された。
 それだけなら亮太も不安にならなかったのだが、封筒に印された赤丸に『秘』の文字に、心の底から嫌な予感がした。
 しかし残念なことに、優しく微笑みながら自分が受け取るのを待っている江里音を見たら、無下に断ることなどできない。
 亮太は恐る恐る封筒を開けた。しかし予想に反して、中に入っていたのはA4サイズのレポート用紙が一枚だけだった。

 『1年3組 萩島江里音 身体測定結果』
 【身長】212.4cm
 【体重】197.6kg
 【スリーサイズ】B:220(Wカップ) W:82 H:133

 書かれていた数字に、亮太は目を丸くした。
 まず目を引いたのが、220cmという信じられない大きさのバストだ。
 確かにその爆乳に体操着の生地が持っていかれ、キュッと引き締まった腹筋が丸見えになっているため、とんでもないサイズだとは思っていたが、歩くたびにぶろぉぉんぶろぉんと豪快に揺れ動く胸元を見れば、確かにこの数字にも納得がいく。
 だが本当に驚くのはここからだった。

 『スポーツテスト結果』
 【50m走】:4秒23
 【1500走】:2分35秒
 【握力】:測定不能
 【背筋力】:測定不能
 【ソフトボール投げ】:測定不能

 世界記録を軽く上回る数値と、測定不能という考えられない言葉が並ぶ。
 これを信じるならば、江里音は途方も無く発達した筋肉を身に纏っているが、それは決して魅せることを重要視して鍛え上げられたボディービルダーのような筋肉ではなく、アスリートとしての筋肉だといえる。
 亮太は一度目を瞑り、頭の中で校長を呪った。
 こんな資料があったのならば、なぜ校長室で会った時に出さなかったのか。
 もし事前に江里音がこんなモンスターボディとスーパーガールのような身体能力の持ち主だとしたら、何を言われても無視して逃げ帰っていたのに。
 まぁ、だからこそ校長は逃げ出さないように、江里音に合うまでこの秘密を隠していたのだろうが。
 小さくため息をついた。
 どちらにしろ、もう逃げ出すことはできない。
 目の前で嬉しそうに、信頼した表情で自分を見下ろしている江里音を見たら、根本的に優しく人の頼みを断れない性格の亮太は期待を裏切ることができないのだ。

 覚悟を決めた。が、それでも気になることはある。
 「…あの、萩島さん」
 「はい、なんでしょうかぁ?」
 「最後の方のこれなんだけど…どういうことかな?」
 恐る恐る、亮太はレポート用紙を江里音に見せた。
 スリーサイズまで書いてあるので本人には見せずに黙っておくべきかなとも思ったが、やはり確認はしておいたほうがいいだろう。
 さて、見せられた江里音の反応だが…
 「あらあら…これは半年前の測定結果ですねぇ。…これがどうかされましたかぁ?」
 別段恥ずかしがるわけでもなく、あいかわらずのおっとり口調で答えてくる。
 「いや、ここに書かれている測定不能ってところなんだけど…」
 亮太に尋ねられると、それまで穏やかに微笑んでいた江里音の表情に変化があった。
 目は相変わらず瞳の見えないような糸目のままだが、眉尻が下がりちょっと困ったような表情になる。

 「あ…もしかして、答え難い質問だった?」
 「いえ、そういうわけではないのですがぁ…」
 可愛らしく小首を傾げながら、江里音はどうしたものかと周囲を見渡した。そして、
 ポンッ
 「あれなら分かりやすそうですねぇ♪」
 軽く手を叩くと、トコトコと境内を歩いから立ち止まり、しゃがみこんで何かを拾い上げた後、ゆっくりと戻ってきた。
 「先生、これを見ていて下さい」
 そう言って差し出された大きな手の上には、林檎サイズの石が載せられていた。
 突然差し出された石に分けが分からず、亮太は言われた通り江里音の手をジッと見つめる。
 「いいですかぁ、この石をこうして…」
 そのまま石の乗った手を、江里音はゆっくりと握っていった。
 バギッ!
 破片が飛び散る。
 まるで柔らかいトマトを握り潰すかのようにあっさりと、江里音はその石を握り潰してしまったのだ。
 目の前で行われる信じられない光景に、亮太は声一つ上げられない。
 「で、こうして…」
 ジャリッ、ジャリリッ…
 さらに掌に残っていた石の破片が、不気味な破壊音を立てながら磨り潰されていく。
 江里音の表情は相変わらず優しく微笑んでいるままで、腕にはそんなに力を入れているようには見えない。
 「うん、これぐらいでしょうかぁ。どうぞ見て下さい、先生」
 最後の言葉とともに江里音が手を開くと、そこには粉々に砕かれた石があった。
 一体どれくらいの握力があれば、握り締めるだけで石をここまで砕くことができるのだろうか?
 目を丸くして掌を見続ける亮太を、江里音は満足そうに見下ろしている。

 「これぐらいなら、そんなに力を入れなくても出来てしまうんですよぉ。ですから学校の握力計も、半分も力を入れてないのに壊れてしまって…
 背筋力計もやっぱり壊してしまったから、両方とも測定不能だったんです」
 「こ、壊して………。は、ははは…凄いね…」
 このとんでもない行為を当たり前のことのように微笑みながら語ってくる江里音を、亮太は乾いた笑顔で見つめていた。
 覚悟はさっき決めたつもりだったが、また逃げ出したくなった。
 改めて、目の前の美少女は自分の常識が全く通用しない、次元の違うパワーを持つスーパーガールであることを実感したのだ。
 「…ちなみに、ソフトボール投げが測定不能なのは、なぜ?」
 こうなったら、疑問に思ったことは最後まで確認しよう。
 そんな思いで江里音に問い掛ける。
 「あ、それは、一番初めに投げたボールがどこまで飛んでいったのか分からなくなってしまいまして…この時も加減はしていたんですけどぉ」
 困ったものですねぇ、と相変わらずのんびりと答えてきた。
 学校の校庭はそんなに広くはないが、それでも端から端まで100mぐらいの距離があり、さらに高さ20mはあるネットが備え付けられている。
 彼女の投げたボールはそのネットすらも軽々と超えて、見つからないぐらいの距離を飛んでいってしまったらしい。
 どこまで超人なんだろうか、この女子高生は。

 「あの、先生、それよりもお願いがあるのですがぁ…」
 「え?お願い?」
 「はい♪」
 次々と明らかになる事柄にもはや思考が麻痺しだしている亮太へ、江里音の逞しいムチムチの両腕が伸び、亮太の両手を優しく握りしめた。
 「せっかく顧問になっていただけたわけですから…私と相撲をとっていただけませんかぁ?」
 「………え?」
 麻痺しかけていた思考が、急速に鮮明度を帯びてくる。
 相撲を取る?彼女と?自分が?
 「実は私、毎日トレーニングばっかりで、土俵で相撲を取ったことって殆ど無いんです。女性で相撲を取る方が周りにいませんでしたから…」
 なるほど、確かに女子で相撲をする者は絶対的に少ない。
 だが、男なら中学高校に相撲をする者は多くはないにしろそこそこいるのではないだろうか?
 「それに男性の方は、『土俵は女人禁制だ!』と言われて相手をしてくれませんでしたぁ…」
 …おそらくその男達は逃げ出したのだろう。
 まぁ、目の前でこの逞しく、巨大な筋肉美少女を見たらそう思っても仕方がない。
 ましてや彼女が、石を笑顔のまま握り潰すことができるような、測定不能な超怪力の持ち主だということをを知ってしまったら…
 出来ることなら自分だって逃げ出したい。しかし、
 「先生、よろしくお願いしますぅ」
 亮太の手を握る力が強くなる。
 そして見下ろしてくる江里音の顔が、まるで救いを求める子供のような悲しげな表情へと変わる。
 その表情を見た瞬間、亮太は自分が負けたことを認めた。
 自分が、こんな困った顔で見つめてくる女の子の頼みを断れない性格だということは、亮太が一番良く分かっている。
 「あ、あぁ…」
 力無く肯定の言葉と共に頷いた瞬間、亮太の身体は嬉しさから抱き締めてきた江里音の特大のバストに深く埋められることとなった。