モンスタースラッガー
「しっかし、いくら育成扱いで取る予定の選手だからって…独立リーグから連れてくるのは無茶すぎだろう…」
男はため息をつきながら、指定されていた空港のゲート付近で、これから現れる相手を待っていた。
男の名は根田隆介(こんだ・りゅうすけ)、35歳。
職業はプロ野球野球選手である、今やギリギリの立場だが。
というのも、隆介は試合中に、相手の選手と接触プレーを起こしてしまい、大怪我を負ってしまった。
その怪我から復帰した選手も少なく、それほど大した実績も残していなかった隆介は、球団から解雇を言い渡されることを覚悟していた。
しかし球団は、貴重な中継ぎ左腕だった隆介を解雇せず、復帰まで育成選手として残る道を与えてくれたのだ。
それは一度は野球選手としての死を覚悟した隆介にとって、奇跡のような幸福であり、また地獄のようなリハビリの開始を意味していた。
1年間、それこそ死ぬ物狂いで、隆介はリハビリに耐えた。
そしてようやく、試合に出れるレベルへと回復することが出来たのだ。
そんな苦難の道を歩んできた隆介だが、頼まれると嫌とは言えない、人のいい男だった。
今日も顔見知りの球団関係者に、空港へと迎えに行くはずだったがどうしても外せない急用が入ったため、代わりに迎えに行ってくれと頼みこまれ、渋々それを承諾してしまった。
(まさか英語が喋れるってだけで、こんな仕事させられるとはなぁ…参ったな本当…)
たまたま英語に興味があったため、身に着けていたスキルだが、それがこんな形になって使われることになるとは。
隆介は諦めて、球団関係者から受け取った、スカウトから送られてきたという、これから会う選手の資料に目を移す。
選手名はクリス・ビートン。
ポジションは外野手。
身長210cm、体重160kg。
バッティングは長打力はあるが確実性は低く、足もとにかく遅い。
守備は強肩で肩は強いが、ボール処理などはとにかく下手。
独立リーグのプレイヤーで、まだ2年目の19歳。
(独立リーグでの19歳って、身体はできてないだろうし相当レベル低いんじゃないか?せめてAAAレベルの選手とかとれないのか?)
独立リーグといえば、日本の2軍、いや、3軍かそれ以下のレベルかもしれない。
しかも19歳で球団から出されるということは、元いた球団から見捨てられた可能性が高い。
そんな選手の迎えに、自分が指名されるとは…球団もやはりピークも過ぎ、さらに故障明けの自分にはもう期待してないのではないか、そんなことが脳裏によぎってしまう。
「ま、考えてても仕方ないか。しっかし遅いな、こんだけでかければ一目でわかるだろうに…」
隆介は苦笑いを浮かべながら、周囲を見渡した。
球団関係者がよっぽど焦っていたのか、資料はもらったものの写真の様な外見が分かる物を受け取っていなかったのだ。
しかしまぁ、いくら外国人の多いゲートとはいえ、そんな2mを超える化物級の身体をしている男がそうそういるはずがない。
しばらく探していれば見つかるだろう、そう隆介が考えていると…
『あ、あなたがリュウスケさんですか?』
聞き覚えの無い声の英語で名前を呼ばれ、隆介は慌てて声のした方向へと目を向けた。
ん?今やけに甲高い、というか明らかに若い女性の声じゃなかったか?
一瞬隆介は疑問に思ったが、考える暇はなかった。
『うわぁぁぁぁぁん!!会えて良かったですぅぅぅぅぅぅぅ!!』
むぎゅぅぅぅ
桁違いに巨大な二つの膨らみが隆介の顔、どころか頭全体を包み込む。
そして逞しい腕で、身体がバラバラになるかのようなパワーで抱きしめられた。
「む~~む~~~~~!!」
あまりに突然の出来事に、隆介は大人気も無くじたばたとその場で足を動かし、腕も振りほどこうと力を込める。
『あ…す、すみません、大丈夫ですか!?』
そんな隆介の動きに、気付いた相手は慌てて両腕を開き隆介を解放した。
そしてようやく目の前で、隆介は相手を見上げることが出来た。
(こりゃ大変なことになったな…)
隆介は、自分が大きな勘違いをしていたことにようやく気が付いた。
自分が迎えに来たこの巨大な外国人は…実は女だったということに。
隆介の運転する車は、選手寮のある2軍の練習所へと向かっていた。
今日はこのままクリスを選手寮に送り届け、数日後にテストを行う予定となっている。
『…で、落ち着いたか?』
『は、はい、すみませんでした。初めて日本に来て、心細かったものでつい…』
隆介の言葉に、ようやく落ち着きを取り戻したクリスは小さな声で恥ずかしそうに答えた。
『んじゃ、一応確認しておくけど、お前が今度うちの球団のテストを受ける、クリス・バートンで間違いないんだな』
『は、はい。よろしくおねがいします!』
相変わらず緊張しているクリスを見て、隆介はまたもやため息をついてしまった。
(やっぱり間違いないのか…しっかしまさか女で、しかもこんな身体をした奴だったとはな…)
つい先程、これまで経験したことがないぐらいの強烈なハグから解放された後に改めてクリスの身体を見て、隆介は驚きを隠せなかった。
クリスの姿は、カジュアルシャツにショートパンツという、いたってラフな格好だった。
背中まで伸びる金髪は美しく、顔はハイスクールの生徒と言われても通じそうなぐらいあどけないが美少女といっても差し支えないレベル。
野球選手としては小柄で170cm程しかない隆介と比べると、優に頭2つ分は高い身長。
隆介の1.5倍、いや2倍はある広い肩幅。
その肩幅に合わせるかのように大量の筋肉で隆起する、巨大な背中。
ソフトボール大の筋肉で暴力的なまでに盛り上がり、一目見て人並み外れたパワーを秘めていることが分かる逞しい腕。
丈の短いカジュアルシャツから覗く、みっちりと8つに割れていながらも、まるでモデルのように括れている腹筋。
パイプイスぐらいなら易々と押し潰してしまえそうなぐらいどっしりとしていながら、女性らしさも兼ね揃える丸みのある巨大なヒップ。
樹齢数百年の巨木を連想させる、鍛え抜かれた筋肉の鎧によって幾層にも覆われた足。
そして一番目を引く、バスケットボールを無理やり詰め込んでいるかのような、カジュアルシャツのボタンを今にも弾き飛ばしてしまいそうなほどの桁違いなサイズを誇るモンスターバスト。
まるでトップクラスの男性ボディービルダーの筋肉にスーパーモデルの色気を持ち合わせた、信じられないような肉体だった。
(…で、こんな凄い身体してんのに…この性格か…)
助手席に座ってオドオドするクリスの姿を見て、隆介はため息をついた。
この肉体でどんなプレーをするかは分からないが、少なくても性格についてはとても選手向きとは思えない。
(とりあえず少し話して、緊張解かないとな…)
『しっかしクリス、お前凄い身体してるな。210cmで160kgなんて、契約出来たら日本一の巨漢選手になるぞ?』
『え?…あ、あの…すみません、それ、間違ってます…』
『ん?』
とりあえず隆介が振ってみた話の内容に、クリスは俯きながら小さな声で答えた。
『それ…去年の入団する前のサイズです。今はもう少し、成長してます…』
『………ちなみにいくつだ?』
『…に、225㎝で…205kg…です…』
『………』
『こんな身体で、すみません…』
常識を易々と打ち破るクリスの途方もないサイズに、隆介はまた言葉を失ってしまった。
(どこまで馬鹿げた身体してるか分からんが…羨ましいことだな、本当)
あっけにとられるのとは別に、ピークも過ぎ、怪我を負い、ポンコツ寸前の自分の身体とのあまりの違いに、またため息が漏れてしまう。
『…なぁクリス、これは一応何年かプロ野球選手としてやってきた俺の目から見てなんだが』
『ふぇ?』
『いいか、活躍できるかどうか分からんが、その身体なら、パワーはきっと一流のはずだ。お前だってパワーには自信あるんだろう』
『は、はい!パワーならメジャーの人にだって、負けない自信があります!』
そう言ってクリスは見せつけるかのように腕を曲げて見せると、ただでさえ太かった腕にモリモリと力瘤が盛り上がった。
隆介と比べても2倍、いや、3倍はありそうな、信じられない太さの腕。
その筋肉の隆起に耐え切れず、シャツの袖口はビリビリと裂け始める。
『そ、そうだろう。だからもっと自信を持て。せっかくの凄い身体なんだ、そんな前屈みに縮こまってちゃテストに受からないぞ』
『はい!!』
隆介の言葉に、クリスは落ち込み気味だった表情を明るく可愛らしいものに変え、それまで猫背気味だった姿勢からグイッと背筋を伸ばした。
その途端、ただでさえクリスの肉体に耐久度の限界まできていたシャツは、勢いよくボタンを弾き飛ばした。
「うお!?」
隆介が驚きの声を上げた。
プチプチと音をたて弾け飛んだボタンがフロントガラスで跳ね返り、隆介目掛けて飛んできたからだ。
『わわわ…ご、ごめんなさい、リュウスケさん!怪我はありませんか!?』
「大丈夫だ!だ、だから、心配しないでいいから身体を寄せてくるな!運転が!」
『ふぇ!?わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
クリスが隆介を心配して身を寄せたことで、いま服を易々と突き破った巨大な胸が、再び隆介の顔面を襲う。
胸だけでなく、桁違いの筋肉巨大美少女の肉体全身が、隆介を包み込もうとする。
必然、それは視界を覆い隠すわけで…
奇跡的に事故にならなかったのは、いい人である隆介の日頃の行いが良かったからかもしれない。