「私に何か用ですか?」
目の前に立つ人物を見た俺は、ただただ立ち尽くすことしか出来なかった。
ユニコーンとか龍とかの幻獣でも出そうな山奥にあった、廃屋一歩手前の古小屋の前。
俺はそこでついに目当ての人物と対面していた。
成る程、確かにとんでもない格闘家だ。俺は初対面でここまでとんでもないと感じた格闘家は初めてだ。
「いや、凄い格闘家がここにいるって聞いたから、探しに来たんだけどね…」
そう言って俺は目の前の女性に苦笑を向けた。
そう、その格闘家は女性だった。
ちなみに俺が探しているのは男の格闘家である。もちろん手紙を送りつけてきた悪友もそのことは知っている。それなのに奴ときたら………とりあえず帰ったら死ぬほどぶん殴ってやる。
ただ、今の俺にとってそれは小さなことでしかなかった。
俺は再び彼女をじっと見た。
可愛らしい顔。今は少し眉を吊り上げていてちょっとキツメな印象を受けるが、それでもかなりの美少女だ。年齢は16歳ぐらいだろうか。
身長は俺より少し高くて180cm程。女性格闘家としてもかなり大柄な部類だ。
また、動き易そうな胴衣からのぞく腕や脚は無理やりに鍛えた筋肉ではなく、バランスの取れた格闘家らしい筋肉を身に纏っていて、なかなかの迫力がある。
しかし、そんなものが全て吹っ飛んでしまうようなインパクトを与えるとんでもない物を、彼女は持っていた。
「…やっぱりあなたもこれが目当てですか」
俺の視線が向けられていることに気が付いたのか、溜息のような疲れた声でそう言って、彼女は胴衣の生地をギリギリにまで引っ張り上げている巨大な胸をブルンと揺すった。
彼女は巨乳だった。ただ、そんじょそこらの巨乳ではない。巨乳が売りのグラビアアイドルの胸が子供に、いや赤子に見えるほどの巨大さだ。メロンやスイカどころではなく、空気をパンパンに詰め込んだ子供の遊戯用ビーチボール並の双球が、今にも胴衣を突き破らんばかりに俺に向かってズンッと突き出されている。
ただ、そんな超巨乳格闘家も、ただ今不機嫌セール真っ最中らしい。
「いや、俺は本当に格闘家を探しにきたんだ。本当に凄い格闘家がここにいるっていう噂を聞いたから、この山奥まで来たんだよ!本当、本当に!」
滅茶苦茶不機嫌そうな視線を俺に向けている彼女に、俺は自分でも不自然だと思うぐらい必死になって本当、本当と繰り返す。
「………」
無言のまま、彼女は俺を見下ろした。そんな彼女の目を、俺は逃げちゃ駄目だと負けじに見返す。
睨みあってから30秒ほどたった頃だろうか。
「………本当ですか?本当に格闘家としての私に会いに来たんですか?」
さっきよりも不機嫌さの無くなった、それでもまだ少し不審そうな目をしながら、彼女は口を開いた。
チャンスだ。この険悪な雰囲気の漂う空間から逃げ出すためには、この機会を逃してはならない。
「ももももちろん!お、俺は強い格闘家を探して世界中を回っている流浪のスカウトなのさ!よかったら今度、君の強さをズバッと見せてもらえないかな!?」
ビシッと右手を差し出しながら、俺は答えた。
ちょっと待て俺。噛んでるわ声裏返ってるわで不自然さ大爆発じゃないか。さすがにこんな言い方じゃ、普通は誰も信じないだろう。
心臓をバクバクさせつつ、ポーズを決めたままの状態で頭をフルスピードで働かせる。これから怒りだすに違いない彼女から、いかにして逃げるかの算段だ。まぁ、目の怪我で引退してしまったが、これでも俺は元ボクサーだ。彼女は子供一人分ぐらいの重さはありそうな爆乳というハンデを持っているわけだし、普通に走れば逃げ切れるだろう。
だが、この後彼女の取った行動で、俺の綿密な計画は一気にぶち壊された。
「ありがとうございます…」
震えるような声でそう答えると、彼女は両手で僕の右手をギュッと握り締め、包み込むかのように巨大な胸に押し当てた。
「え!?」
俺、大混乱中。
しかし彼女はそんなことを気にせずに、言葉を続けた。
「ここに来る人達は、みんな私の胸だけが目当てで誰も格闘家として見てくれませんでした。脱いでテレビに出ないかとか、写真集を出そうとか…。私、胸を見世物にして注目されたくなかったんです。世界で一番強い格闘家になるのが夢だったから…」
間違いなく泣いていた。泣きながら、彼女は俺に心のうちをぶちまけてくれた。
「だから、初めて格闘家として私を見てくれたあなたを信じます!早速修行場で私の強さを披露してみせますね!」
彼女はそう言い切ってから、最後に見惚れてしまうほど明るく、可愛らしい笑顔を見せてくれた。
いや、ちょっと待て。俺は女性格闘家を探しているわけではないから、また後日~てな感じでこの場はお茶を濁す気満々だったわけだが。
しかし俺の右手はルパンだって脱出不可能だとばかりにガッチリと掴まれ、女とは思えない程の力でズルズルと引っ張られていく。
結局俺は、そこから10キロも離れている彼女の練習場へと引き摺られていったのだった。
修行場へ向かう途中、彼女は色々と身の上を話してくれた。
まず名前。失礼なことに俺は彼女の名前を知らなかった。まぁ、知っていたら女性と分かってこんな場所まで来ることは無かったわけだが。
名前を知らないことを正直に伝えた俺に、彼女―-李秋澪(り・しゅうれい【16歳・女】)―は、とっても優しい笑顔を向けてくれた。
「それはつまり、俊哉さんが純粋に強い格闘家という噂だけを信じて私のことを訪ねてくれたということですね。私はそれが嬉しいんです」
秋澪は甘えるようにさらに強く俺の手を胸に押し当てた。まぁ、確かにその通りではあるのだが。
でもこれはもしかして…その、恋愛フラグが立ってないか?ほら、ゲームなんかで音が鳴るようなやつ。
16歳という犯罪的な年齢ながら俺よりも大きくて筋肉質で、でも笑顔が滅茶苦茶可愛らしい超巨乳美少女格闘家に甘えられる…ついさっき出会ったばかりの彼女による、きっと喜んでいいはずのシチュエーションに、俺の顔もついついほころんでしまう。
その後も、秋澪は色々と話をしてくれた。
「うちは代々格闘家だったんです。お父さんもお母さんも…二人とももう死んじゃったけど、やっぱり格闘家でした」
(なるほど、だから秋澪は世界一の格闘家を目指してるのか)
「昔はふもとの街に住んでたんですよ。でも、小さい時から私の胸って大きくて…それで周りの男の人達が変な目で見てくるから、お父さんとお母さん、私のためにこの山に住むようにしたんです」
(昔から胸はでかかったのか。そりゃ、周りからジロジロ見られて生活するのはキツイよなぁ)
「だから昔はこの胸大嫌いでしたけど…お母さんはいつも褒めてくれました。大きい胸は女の武器だから、もっと自信を持ちなさいって。だから私、今はこの胸大好きです。今ではお母さんの言う通り、私にとって一番の武器になりましたし」
(まぁ、確かに大きな胸が好きな男は沢山いるから、強力な武器にはなるだろうが…)
「………俊哉さんはどう思いますか、私の胸。今336cmあって、重さは二つで50キロもあるんですよ。それに、まだまだ成長途中なんですから…」
(え!?そりゃ巨乳は好きだけど…って、その発言にたいして、俺は一体どう答えればいいんだ?おい!)
最後の言葉の時なんか、彼女は恋する乙女が告白してますとばかりに、こっちが恥ずかしくなるほど真っ赤に頬を赤らめていた。
なんていうか…これはやっぱり、俺に好意を持ってくれているってことだよな?でなきゃ聞いても無いのに自分から胸の大きさなんて言ってくれないだろうし…っていうか、336cmってなんだ!?100cmぐらいで『チャームポイントは大きな胸です!』なんて言ってるグラビアアイドルとかが、すげー可哀想に感じてくるぞ、それ。
そんな落ち着いてられない彼女の爆弾発言を聞きながら、俺達はようやく修行場へ着いた。
修行場と言っても場所は川原で、簡単に言えば川沿いにある砂利の敷き詰められた200mトラックぐらいの広さの空間だった。そこはまさに自然そのもので、砂利以外には大きな岩や幹の太い大木などがあるぐらいで、別に変わった所は無い。
「ここが修行場?」
「はい。私は毎日5時間、このあたりで修行しているんですよ」
問いかけに答えると、秋澪は爆乳に押し当てられていた俺の右手をようやく開放してくれた。
しかし…こうなったらもう逃げることは出来ない。俺だってスカウトの端くれだ、こうなったら彼女の強さってやつをこの目で完璧に見極めてやる!
「ところで秋澪は、どんな戦い方が得意なんだ?キックやパンチ主体の打撃系?それとも組み合って極めたりする絞め技か?」
「ええっと…まぁ、どちらもこなせますけど…しいて言えば打撃でしょうか?」
でも、多分俊哉さんが考えてるようなものとはちょっと違いますよ、と、小悪魔のように可愛らしく微笑んで見せた。
「とりあえず、それは見てのお楽しみということで。それじゃ準備しますから、ちょっと後ろを向いていて下さい」
さぁさぁさぁと、なんだかとても楽しそうに急かしながら、秋澪は俺の肩を掴んで後ろを向かせた。
端から見れば、仲のいいカップルのように見えたかもしれない。少なくても、このやり取りが格闘家とスカウトのやり取りとは思わないだろう。
「まだこっち向いちゃ駄目ですよ~♪」
その声には、間違いなく♪マークがついていた。初対面時の不機嫌さはどこへやら、今や秋澪は天下無敵のルンルン気分らしい。
仕方なく、俺はその場で胡坐をかいて座り込んだ。
それから1分後。
「はい、お待たせしました」
秋澪の声を聞いて、俺はよっこらしょと立ち上がった。
大体、胴衣は初めから着ていたのだから、それ以外に一体どんな準備が必要だったのだろうか?
「準備っていったって何があったんだよ…って、おい…」
立ち上がったばかりだというのに、俺はすぐにその場にへたり込んでしまった。だって秋澪は…その、上の胴衣を脱いでいたのだから。いわゆるトップレス姿というやつだ。
336cmという化け物級のバストが、胴衣という封印から解き放たれて俺の眼前に突き出されていた。
でかい、とにかくでかい。しかも50キロという子供一人分はある重量感を感じさせないほど、その胸は支えが無くても全く垂れず丸々とした形を保っている。
「秋澪…その姿は…」
エサを待つ鯉のように情けなくパクパクと口を動かしている俺に、秋澪は一度悪戯っぽく微笑むとその自慢の爆乳を重たそうに両手でゆさゆさと揺らして見せた。
「ですからさっき言ったじゃないですか、この胸は今私の一番の武器ですって。こう見えても結構凄いんですよ、私の胸の破壊力」
………確かにそれは聞いた。いや、しかし、まさか文字通りの意味だったとは…
俺は動揺隠せずに周囲を見わたして、オロオロすることしか出来なかった。
だって真っ直ぐ正面を向いたら、秋澪の圧倒的な巨大さを誇るその胸が視界に入ってきてしまうのだ。
まぁ俺も、これまで何人かの女と付き合ったことはあるから、何も実物の女の胸を見たことがないわけじゃない。だが、なんというか…ここまで圧倒的なものを突きつけられたら、凝視するなんてこと恥ずかしくて出来やしない。
すると突然、秋澪は俺の頭を正面に向けさせると、その巨大な胸で挟み込んだ。
そして挟み込んだ瞬間、頭蓋骨が悲鳴を上げるぐらいの強烈な力で俺の頭を締めつける。
『zrzqえwswぇdヴぁcfrvtgb!!』
俺は言葉にならない悲鳴を上げた。
死ぬ、絶対死ぬ。もしこれ以上力を込められたら、俺の頭は熟れたトマトのように真っ赤な脳漿をぶちまけて完膚なきまでに潰されてしまう。
自然と、短い一生を走馬灯のように振り返りだした。やばい、まさかあの時立ったフラグは、恋愛フラグではなく死亡フラグだったのか。
しかしいよいよ死を覚悟した瞬間、ふっと頭にかかる圧力が弱まった。秋澪が開放してくれたのだ。
頭を抱え込んでいた爆乳が俺から少し離れると、代わりに可愛い秋澪の笑顔が俺の目の前に現われた。
「これから今までの修行の成果をみせますから、最後まで見ていてくださいね。私、全力でがんばります!」
俺は頭が取れるんじゃないかというぐらい、ブンブンと首を縦に振った。
正直に言う、彼女の笑顔が怖かった。彼女からすればほんのちょっと力を込めてじゃれついたに過ぎないのだろう。それなのにあの威力…まだ16歳で成長途中という彼女のこの爆乳には、一体どれほどの力があるのだろうか。
俺はへたり込んだまま、呆然としていた。
すると突然、俺の目の前にあった秋澪の顔が高く離れていった。彼女が立ち上がったのだ。
「それじゃ俊哉さん、今から始めますね」
可愛らしく顔の横で小さく手を振ってから、彼女は後ろを向いた。
俺も自然と、彼女が向いている方向に目がいく。
視線の先、50mほどの距離に、大きな岩があった。
高さは5m、横幅は3mぐらいあるだろうか。正面から見ているため奥行きまでは分からないが、横幅と同じぐらいはあるんじゃないかと思う。
一体秋澪は何をする気なのか。俺は固唾を呑んで見守っていると、彼女はチラリと俺の方を振り向いて、可愛くウインクを飛ばしてきた。そしてまた 岩に向きなおると…
バシュッ
乾いた爆発音のようなものがあたりに響いたかと思えば、信じられない加速で砂利の上を秋澪が走り出していた。
速い、しかも恐ろしいぐらいに。足場の悪いこの場所を、人間はこんなにも速く走れるのかという速度で秋澪は駆け抜ける。
向かう先にあるのは、巨大な岩。秋澪はそんな岩に、スピードを緩めず向かっていく。
そして岩にぶつかる寸前、
「ハァ!」
ズガガガガッ!
裂帛の気合と共に大岩に打ちつけられた双球が、とてつもない破壊音を生んだ。そして、
「岩が粉々に…」
俺の言葉通り、爆乳をぶち当てられた大岩は秋澪のその一撃により、まるで大きな鉄球クレーンで破壊されたかのように呆気なく四散した。信じられない破壊力。人間が、しかも胸であの大岩を粉々にするなんて…
だが、彼女の動きはそれだけでは終わらなかった。
その巨大すぎる胸を持つというハンデを背負いながら、秋澪はまるで忍者のような素早さ(実物見たことないけど)で右に跳んでいた。
俺は慌てて秋澪の向かう先に目をやる。
そこにあるのは、一本の木。一体樹齢何年経っているのか想像出来ない、大人十人ぐらいで手を繋いでやっと抱えられそうなほどの太い幹を持つ巨木。
秋澪は巨木に向かい一気に間合いを詰めると、恐ろしいほどの破壊力を秘めた爆乳を無造作に横に振り回した。
「セイッ!」
先程に続き気合を込めた一撃が、巨木に向かって振り抜かれる。
バキィィィィィィッ!
巨木は、まるで実は豆腐でしたとでも言いたいかのようにあっさりと幹を抉られ、爆乳をぶつけられた場所は木っ端微塵に砕け散った。
支えを失った巨木は、隣に生えていた木を巻き込んでゆっくりと倒れていく。
次々と目の前で繰り広げられる異次元の出来事に、俺の思考は停止寸前だった。
だからだろう、巨木が完全に倒れ、周囲に響いていた破壊音が完全に収まるまで、このたった10秒ほどのデモンストレーションを終えた秋澪が自分の前に立っているのに気がつかなかったのは。
「秋澪…」
「どうでしたか俊哉さん!私はまだまだ未熟な格闘家ですけど、この胸で、いつかきっと世界一の格闘家になって見せます!」
秋澪は座り込んでいる俺と目線を合わせるためにわざわざ正座をすると、今この世の物とは思えない破壊力を見せつけた爆乳を、俺の目の前に突き出した。
汗一つかいていないその胸は今のデモンストレーションをやる前と何も変わらず、他の肌と同じく日に焼けて少し浅黒く、そしてカスリ傷一つ付いていない。
………長く山に篭っていた彼女は気が付いていないのだ、自分がいかに強すぎるのかということに。このみっしりと筋肉の詰まった、全てを破壊しつくす悪魔の双球の威力に。いや、それだけではなく、人間の限界を軽く超越している超人的な身体能力に。
気が付けば、俺は無意識のうちに彼女に寄り掛かり、首に手を回して抱きついていた。そして本当に無意識のまま、彼女に軽くキスをした。
どうやら俺は、あどけない笑顔を見せるこの16歳の地上最強の爆乳格闘家を、心の底から惚れてしまったようだ。
「と、と、と、俊哉さん!?」
秋澪は顔を真っ赤にしながら動揺するが、そんなことは全く気にしない。俺は昔から、惚れてしまったら命がけなんだ。それに秋澪が本当に嫌だったら、この大きく突き出された胸を軽く振り回すだけで、俺なんて紙くずのように吹っ飛ばせるはずだ。
「………秋澪、今の君にかなう格闘家なんて誰もいない。俺は断言できる、君こそ世界一の格闘家だよ」
「え…」
「でも、君が世界で一番強いということは、きっと俺以外誰も知らない。だから…俺に任せてくれないか?もっともっと沢山のやつに、君が世界で一番強いってことを知ってもらえるようにするから。だから…俺と一緒に来てくれないか」
全く用意してなかった言葉が、淀みなく俺の口から続いた。もちろん今言っている言葉に嘘はない。俺は心の底から、秋澪が最強の格闘家だということを一人でも多くの人間に知らせてやりたい。でもそれ以上に、秋澪と一緒にいたかった。
「俊哉さん…」
落ち着いた秋澪の声が、目の前から聞こえる。
「なんだ?」
「あの、本当に私、世界で一番強いんですか?」
「ああ、さっきの岩を砕いたような胸の一撃を喰らって、立ってられるような格闘家は多分いないよ。それに君の大きな胸に押さえつけられて、逃げ出せる奴もきっといない」
「………」
少しの間沈黙が続いた。俺は考え込んでいる秋澪の邪魔をしては悪いと、彼女の首に回していた手を解いてゆっくりと彼女から離れた。
秋澪は目を閉じて、そして自分の巨大な胸に手を当てて考え込んでいた。 俺はただひたすらに、彼女が口を開くのを待っていた。
どれくらい待っただろうか。
「………俊哉さん」
「おう」
意を決した秋澪が目を開けて、じっと俺を見つめた。穢れのない澄んだ黒い瞳が、真っ直ぐに俺に向けられる。
「俊哉さん、私のことを、沢山の人に伝えてください。私、頑張りますから。俊哉さんにずっと付いていきますから」
「それじゃ…」
「はい、私はこの胸と一緒に、もっと成長します。どんな相手も問題にならないぐらい、圧倒的な強さを持つ格闘家に。だから、だから…だから私を、一緒に連れて行ってください!」
そう言い切った途端、秋澪は俺に飛び掛ってきた。これまでの動きを見ていれば分かるように、本気の彼女の動きを、元ボクサーでしかない俺が避けきれるわけがない。
巨大すぎる爆乳が俺の顔を覆いつくし、完全に組み伏せられた。
「さっき俊哉さんが言ってくれましたよね、私の胸から逃げ出せる人はいないって」
…確かに言った。
「だから、俊哉さんは私の胸から逃げれませんよ。俊哉さんはこの胸に囚われた、一番初めの人なんですから」
嬉しそうな声が胸の向うから聞こえてきた。
ああ、もしかして俺は、とんでもない怪物を世に放とうとしているのではないだろうか?というか、とんでもない女の子に惚れてしまったのではないだろうか?
そんなほんの少しの恐怖と、これから始まるであろう彼女との楽しい生活に、俺は胸を躍らせた。
すると、俺の顔を塞いでいた爆乳がゆっくりと持ち上げられた。そして秋澪は両手で自分の胸を左右に広げて、顔を覗かせた。そしてコホンと小さく咳きをしてから、
「大好きですからね、俊哉さん。だから、ずっと一緒にいて下さいね」
顔を真っ赤にしながら、改めてそう言ってきやがった。
ああ、駄目だ。俺はきっと秋澪を手放せない。こんな可愛い女にここまで惚れられて、こっちから手放せるわけないじゃないか。
だから俺は彼女の顔を見上げながら、こう言い返してやった。
「俺だってお前のこと手放さないからな。覚悟しとけよ」
自分でもちょっとキザかなと思って言った言葉への秋澪の反応は、本当に嬉しそうな笑顔での爆乳プレスだった。
1年後、秋澪はとある地下リングにいた。
もちろん俺はリングサイドで、セコンドとして彼女を応援している。
ただ、結局俺は彼女を普通の総合格闘技のリングに立たせることは出来なかった。
彼女が女性だというのもあったが、何より問題だったのがトップレス状態で戦う彼女のファイトスタイルだった。まぁ、さすがにテレビ放送とか出来ないだろうからなぁ、冷静に考えればいくら秋澪が強くても契約してもらえるわけなかったんだよな…
で、何で今彼女がリングに立っているのかと言うと…実はこれ、一般には知られていない裏の格闘技ってやつだ。
俺が秋澪に会うきっかけになった手紙をよこした悪友が、実はこっちの関係者だったりする。
こっちの格闘技は公にはされない。ただ、その分色々と危険な選手が沢山いるから戦いのレベルは半端じゃなく高い。それこそ普通の総合格闘技が子供の遊戯に見えるぐらいに。
しかも全ての戦いがギャンブルの対象になっているため、一夜にして数百億の金が動くという噂もある。
だが全てにおいて規格外のこの戦いの場においても、秋澪はその巨大な胸で圧倒的な強さを誇っていた。
そして今日、過去3年間チャンピオンとして君臨する、皇帝と呼ばれる大男との戦いだったのだが…
試合開始から30秒後、過去3年間一度もダウンすることなく無敗のチャンプとしてこのリングに立ち続けていた男は、ロープを超えて10m離れた客席へと吹っ飛んでいった。
「俊哉さんどうしよう、私軽くバストアッパー打っただけなのに…」
17歳の少女らしい可愛らしい顔に困惑の表情を浮かべながら、秋澪は助けを求めるように俺の方を向いた。
秋澪からすれば、本当に軽く放った一撃だったのだろう。ただ、この一年で身長が2mを超え、バストに至っては400cmを超える超乳に成長した彼女の一撃を喰らって、無事ですむ人間がいるわけがない。例えそれがこの裏の格闘技のチャンピオンでも。
元チャンピオンが場外に沈んでから数秒後、静まり返っていた会場はたった一撃で新たなチャンピオンとなった秋澪を称えるかのように一気に沸き上がった。
「ほら秋澪、観客に向かってお礼しとけ。みんなお前がチャンピオンになったこと喜んでくれてるんだから」
「う、うん」
秋澪はぎこちない動きで、リングの四方に向けてペコペコと頭を下げている。
俺はそんな、名実共に地上最強になった秋澪の姿を、目を細めて見続けていたのだった。