第6話 「出撃!ギガンティック・ミキ」

 長いこと雌伏のときを過ごしてきた僕たちだったが、それももうじき終わりを告げる。
何しろ僕たちには、これ異常ないほどの頼もしい仲間が加わったんだから。
ついに反撃の狼煙を上げるときがやってきたんだ!
見ているがいい、僕、野沢毅が発掘した学生プロレス界のリーサルウェポン、
思い知るがいい、我ら新東都大学プロレス研究会が誇る超大型美少女最終兵器、ギガンティック・ミキの強さを!!

「んもぅ、人のことをアニメのロボットみたいに言わないでくださいよぉ」
 約束どおり控え室にやってきてくれた美樹ちゃんが、ちょっとふくれたような顔を見せた。
外見こそ人間の常識を超えた女傑でありながら、中身はどこにでもいる普通の女子高生な美樹ちゃん。
こうして表情も豊かで愛嬌のあるところが美樹ちゃんのチャームポイントだと思う。
「それだけ頼りにしてるんだよ、美樹ちゃん。もう君だけが最後の望みなんだ。
何せ今日の試合は、5人を相手に僕と美樹ちゃんの2人だけで戦い抜かなければならないんだから。
頼む。僕たちには後がないんだ」
 そう、この試合を前に、僕たちには更なる試練が襲い掛かったんだ。
美樹ちゃんのデビューに備えた練習で、僕たち5人の部員は誰一人として彼女の技をまともに受けることはできなかった。
いや、まともに美樹ちゃんのそれこそ巨大ロボットのようなパワーを浴びてしまったために、
僕以外の4人のメンバーは皆病院送りとなり、今日の試合には参加できない事態に追い込まれた。
我々のサークルの存否をかけた大事な試合で、2対5というとんでもないハンデを負わされてしまったんだ…

「…私のせいであの人たちが…ごめんなさい」
「き、君が謝るようなことは何もないよ!!もうこうなってしまった以上は僕たちでベストを尽くすしかない!
落ち込んでる暇はないぞ!彼らを戦闘不能にした勢いを、そのまま今日の相手にぶつけるんだ!
そうすれば自ずと勝ちは見えてくる…そしてそれが何より、仲間たちへの最大のお返しになるんだ!」
「はっ…はいっ!」
 僕のその言葉で、申し訳なさそうに曇っていた美樹ちゃんの表情が一気に明るさを取り戻した。
こんなにも大きくて、しかも何人もの男を一度になぎ倒して沈黙させてしまうぐらい強い美樹ちゃんだけど…
その笑顔は普通の女子高生と変わらず、いやそれ以上に眩しくて…かわいい!

 あれは何ヶ月前だっただろうか。いつものようにジムで汗を流していたある日のこと…
「おい!!お前さっきから何分マシン独占してんだよ!どけチビ」
「弱い奴が体鍛えてんじゃねえよ。帰れ」
 後から入ってきた大柄な男2人が、ウェイトトレーニングしていた僕に因縁をつけてきたんだ。
人相の悪く、見るからに強そうな筋肉質の2人組に僕は早くも気圧されていた。
プロレスラーを目指している男がそんなことでは何にもならないのはわかっていたけど…
「ぼ、僕は…」
「うるせえんだよ。お前みたいなひ弱チビが使っていい機械だと思ってんのか!?」
「ガリガリの虫ケラは俺たちの鍛錬の邪魔なんだよ!おとなしく空けねえと痛い目にあわせるぞ」
「で、でも僕は順番を守って使ってるだけで…」
「なんだぁ、文句たれようってのか!」
「殺すぞ、もやし野郎が!!」
 180cmは軽くある男に胸倉をつかまれて、僕は軽く宙吊りにされた。
…な、殴られる!!僕が危険を察知して目をまともに開けなくなった瞬間、
「いい加減にしてください!その人はルールを守ってるんです!」
 思い切って目を開けると、そこにはトレーニングウェアに身を包んだとても大きな女の子がいた。
それまで、こんなレベルにまで巨大な人間が存在するとは思っても見なかった。
それは2人の男たちも同じだったらしく、動揺のあまりつかみあげていた僕をズルリと床に落とした。
「な、なんだてめえは!?デカ女!」
「お、お前に関係ねえだろ!」
 首を高く曲げて怒鳴りつける男たちだったが、その声は明らかにうわずっていた。
そして…
 グギッ…グニャアァァァ……
「ひっ、ひいいいい!!」
 男たちは裏返った声で合唱してその場にへたり込んだ。
その背の高すぎる女の子は無言のまま、そこにあった最も大きなバーベルを片手で取り出して僕たちの前にかざすと、
その太いシャフトをみるみるうちに磁石のようなUの字に折り曲げていったんだ!
バーベルの重りには100という数字が刻まれていた。つまり、合計200kgのとてつもなく重いバーベルを!!
いや、そんな重量を支えるシャフトは何もついていない状態でもかなりの強固さを持つはずだ。
それを、この子は…
「一部の人がルールを守らないと、周りの人みんなが迷惑するんです。少しは考えてくれませんか?」
 女の子がその巨体と怪力からは想像もできないおとなしく静かな口調で諭すように言うと、
「ひっ、ぁゎゎ…はひぃぃぃぃ!!」
「ご、ごめんなさい!!ごめんなさいいっっ!!」
 男たちは腰が抜けたまま這いずるようにして全速力でジムから消え失せた。
「あっあの…ありがとう。助けてくれて…」
 僕はやっとのことでそれだけお礼を口にした。
「ふふっ、気にしないでください。よくあることですから。
私、暴力とか嫌いだし…ああいう人たちにはああやって驚いてもらうのが一番平和にすんでいいんです」
「で、でも、どうするの?そのバーベル…」
「あ、これですか?こうしておけば大丈夫ですよ」
 ゴギギギ…グググウゥッッッ!!
「…ね?」
「はっ…あうっ……」
 僕は何も口に出せなかった。
女の子は、もう一度山のような力こぶを豪快に隆起させて、二つに折れ曲がったシャフトを再び元の形に再生させた。

 …それが、僕と美樹ちゃんのファーストコンタクトだった。
それ以来、僕はいつしか彼女の姿を目に焼き付けるのがジムに通う第二の目的と化し、
美樹ちゃんもなかなかトレーニングの成果が上がらない僕を目いっぱい気遣ってくれた。
今や美樹ちゃんという存在が、プロレスラーを目指す僕の最大の励みになっているんだ…

 …なので、僕が愛するサークルの存亡の危機を打開しようと彼女に力添えを頼んだのは必然だった。
そして今、僕は美樹ちゃんに対して、ただの心強い助っ人としてだけではない、特別な感情を抱き始めていた。
こんなことはいけない!彼女はただ縁があって無理にアルバイトを引き受けてもらっただけの仲にしか過ぎないんだ!
しかも彼女は妹のクラスメイト、女子高校生なんだ!大学生の僕が想いを抱くようなことはあってはならない…
それに、小さくてひ弱な男から大きくて逞しい女の子に恋してしまうなんて、周りに知られるのは…!
そんな葛藤を必死に心の中に押し込みながら、僕は最近いつも悶々としつつ美樹ちゃんと接しているんだ。
「さ、さあ、試合の準備をするんだ!着替えてきてくれ、美樹ちゃん」
「はいっ」

 今日の相手は、優秀院大学プロレス愛好会。
関東学生プロレスリーグの中ではそれほどランクの高いサークルではないが、我々よりは明らかに上に位置している。
何より今日は頭数の面で圧倒的に不利。
すでに入場を済ませた優秀院の5人を見据えながら、僕はまず1人でリングへと向かった。
「おい、お前1人かよ。あと4人はどうした?」
「ビビって逃げちまったんじゃねえか?」
「これじゃ試合は成立しねえな…試合放棄とみなしてお前らは負け、解散決定だな!」
「それじゃ客が納得しねえだろ…俺たち5人でこのチビボコボコにリンチっつうのはどうだ?」
「公開処刑ってわけか。そりゃおもしれえな。こいつらの惨めな幕切れにはこれ以上ないシチュエーションだ」
「ヒャハハハハハハハハ!!」

「今のうちにそうやって減らず口を叩いていればいい…じきにシュンと黙るはずだ」
「はぁ?何言ってんだこいつ」
「頭でもおかしくなっちまったんだろ」
「僕たちがお前たち程度を相手にするならこのぐらいの差はつけてあげなきゃな!
さぁ出番だぞ!ギガンティック・ミキ!!」
「なにっ…ギガ……なんだって??」
「!!」
「な、なんだあいつは!?」
 僕の隠し玉がゲートをくぐってその巨体を現した瞬間、優秀院の奴らも観客一同も一様にして目をまん丸にして言葉を失う。
その光景が、僕にいまだかつてない快感を与えた。

「で、でかい…」
「なんだあれは!ほ、ほんとに人間なのか…」
「ていうかあれ、女じゃないか?」
「うわぁマジかよ…あんなでけえ女の子見たことない…」
「すっごぉい…脚なが~い…あたしの身長より絶対あるよぉ」
「太さも半端じゃないぞ…あの脚、俺の胸囲より太いんじゃないか??」
「超巨大セーラームーンだ……」
「でかいだけじゃなくて、なんかよく見たらめっちゃかわいい!」
「あの体に、あの顔に、あのコス…たまらん!!」
「いい!!ギガンティック・ミキ最高!!ファンになっちゃったぞ!」

 客席から広がる津波のようなどよめきをバックに、ギガンティック・ミキはリングに向かって歩んでくる。
やはり美樹ちゃんの、一度目にすれば絶対に忘れられない究極のビッグボディにこの場の全員が釘付けのようだ。
そして僕のデザインした美少女戦士コスチュームが素晴らしい相乗効果をもたらしている。
伸縮性に富んだ素材で体にピッタリフィットし、筋肉の凹凸と威嚇するように前に突き出たバストのラインが
くっきりと浮かぶセーラー服。へその下までしか丈がないのは僕のアレンジ。
見えそうで見えないギリギリの丈で男の視線を奪い去る、紺色のミニプリーツスカート。
スカートの中に注意力を集中させられている間に、美樹ちゃんのバズーカ砲のようなキックが炸裂するってわけだ。
そして肘までを覆うホワイトのロンググローブと、太腿の下半分まで迫る編み上げロングブーツ式リングシューズ。
スカートとブーツの間の、厚い筋肉の上に女の子らしい脂肪がむっちりと乗った白く輝く太腿がたまらない!
…我ながら完璧だ。
美樹ちゃんに着させて、見て楽しむためにそんなデザインしたんだろうといわれると反論する余地がないが…
しかし、美樹ちゃんほどコスチュームをばっちり着こなせる女性など、他にどこを探しても存在しないはず!
ほら、花道を歩く美樹ちゃんを眺め続ける男たちの目はどうだ!見事に垂れ下がっているだろう!

 リングへと足を踏み入れるギガンティック・ミキ。
大柄なプロレスラーの中にはトップロープを股越して豪快にリングインするシーンで人気を集める選手も多いが
277cmの美樹ちゃんの前にはそんなものは大きいうちに入らない。
スカートがめくれあがらないように、恥ずかしそうに脚の動きを最小限にとどめて、
膝から下だけを曲げて本当に女の子っぽくリングへと入ってきた。
そう、それだけで一番上のロープを跨いでしまえるんだ!超人的な股下の美樹ちゃんにしかこんなことはできない。
こうして間近で目にするこのコスチュームの美樹ちゃん…すごすぎる。
僕は理性を保つのに懸命だ。ショートタイツ一枚の姿でまさか大きくしてしまうわけにはいかない。
そんな衝撃の入場シーンを見せつけられて、そして至近距離であらためて277cmの超長身を目の当たりにした
優秀院大学プロレス愛好会のメンバー一同は真上を見つめたまま動けない。
奴らの動揺する姿を見て、僕は初めて対戦相手に優越感を抱いたのだった。
ジムで大きな柄の悪い男2人に絡まれて泣かされそうだった僕を助けてくれた彼女の姿に心を奪われた瞬間から、
いや、始めて彼女を見かけた瞬間から、僕はこの瞬間を渇望していたのかもしれない…

「毅さん…やっぱりこの格好、すっごい恥ずかしいです。
普通に競泳用の水着とかじゃダメだったんですかぁ?」
 美樹ちゃんは真っ赤になって、しきりにプリーツスカートの裾を手で下に引っ張りながら僕に小声でささやいた。
「美樹ちゃん、そんな内気なことじゃダメだよ。君はこれから、男が何人束になろうが手も足も出させない
巨女アマゾネス旋風を巻き起こしてこの学生プロレス界を大波乱に導く可能性を秘めた
スーパー美少女戦士なんだ。そのコスで男たちを思う存分おしおきして、その存在を知らしめるんだ」
「そ、そんなのわけわかんないです…」
「それから、僕が練習のときに教えたアピール、ちゃんとやってくれなきゃダメじゃないか」
「えぇ~?あんなのやるんですか~?この服装でただ立ってるだけでも恥ずかしいのに」
「…まぁいいさ。闘いが盛り上がってくればほぐれてくるだろう。
フィニッシュの前には、絶対にあのポーズ、決めてくれよ。約束だ」
「うぅ~、どうしよう…だって恥ずかしいしぃ…」

「お、おい、お前らとにかく落ち着け。冷静になるんだ。
考えてもみろ、あれだけでかいったって女であることに変わりはねえんだ。男にかなうわけがねえ。
しかも今日の試合はトルネードマッチ(タッチの必要がなく、全員に試合の権利がある試合)だぞ。
俺たちは5人、あいつらたったの2人じゃねえか。一気に片付けるぞ」
「言われてみりゃそうだな…それに、あの女よく見るとたまんねえ体つきしてるよな」
「あのコスチュームにムチピチのナイスバディ…俺、立ってきちまったぜ」
「俺は断然、あの胸をいただきだな。あの弾力、味わいまくってみてえよ」
「あっ!きたねえぞ、あの女のおっぱいは俺のものって決めてたんだよ!」
「俺は尻!あのヒラヒラスカートめくってむしゃぶりついてやるんだ」
「じゃ俺は太腿予約ね!なめまわして、こすりつけちまおうっと」

 円陣を組んで内緒話をしているつもりの優秀院だが、こっちにはしっかり聞こえてきている。
優秀院とは名ばかりの、けだもの同然の下品な男たちの会話は当然、美樹ちゃんの耳にも…
「毅さん、あの人たち、最低ですね…」
 ますます顔を赤らめながら、僕だけに聞こえるようにそっとつぶやいた美樹ちゃん。
「よし、ならその軽蔑の気持ちをそのままあいつらに全力でぶつけてやるんだ。
大丈夫、美樹ちゃんの力ならあんな奴らは取るに足らないはずだ。自信を持って」
「はい!私、がんばります!」
「行くぞ、美樹ちゃん」

 カーン!
 ついに試合開始を告げるゴングが打ち鳴らされた。
と、奴らは何の迷いもなく5人で一斉に僕のほうへと躍りかかってきた。
事前に立てたシミュレーションから外れた奴らの行動に僕はなすすべなく吹き飛ばされ、
雪崩に巻き込まれるようにロープ際でダウンさせられた。
どうやら、邪魔な僕を真っ先に仕留めてしまってから後でゆっくり美樹ちゃんを蹂躙する作戦だったんだろう。
5人の男から間断なく降り注がれるストンピングの雨に、僕は試合開始早々大ピンチに追い込まれた。
踏み潰されるような激痛に、腹部を代わる代わる蹴られ呼吸ができない苦しみ。
さすがに多勢に無勢だったか…無謀な挑戦と後悔の念が芽生え始めたその瞬間、

「ヤァッ!!」
 ドゴンッッ!!
「ぐわああああああっ!!」

 美樹ちゃんの声が聞こえたと思ったときには、僕をリンチにかけていた5人の男たちは視界から残らず消えていた。
見ると、外からトップロープを跨いで片足だけをリングに踏み入れている美樹ちゃんの姿が。
そして反対側のロープ際には、折り重なるようにして団子になっている5人の男たちがうめき声を上げている。
「大丈夫ですか?毅さん。よかった…」
 僕を遥か高い場所から見下ろしてほっとしたような笑顔を浮かべる美樹ちゃん。
やはり美樹ちゃんが救出してくれたのか。
…し、しかし、そうだとするなら美樹ちゃんは僕の想像をさらに上回るパワーを持ち合わせているということだ。
この6m四方のリングの、ロープからロープへと大の男5人を一蹴りでまとめて飛ばしてしまうなんて…
味方ながら、僕は、震えた。

 美樹ちゃんはもう片方の足もリング内に踏み入れると、痛む体を引きずる僕に優しく言葉をかけてきた。
「安心してください、毅さん。もうこれからは、毅さんには近寄らせません」
 その言葉の後、美樹ちゃんは優秀院の奴らのほうに目を向けると途端に表情を引き締めた。

「くっ…一体何だったんだ今のは…」
「冷静になれ、所詮は1人の女だ。5人でまとめてかかるぞ」
「どうやらあのチビよりも先にかわいがってもらいたいみたいだからよ…お望みどおりいただいてやろうぜ」
「おう!!」

 体勢を立て直した彼らは再びこっちに向かって突進してくる。今度は全員美樹ちゃんをめがけて。
「まずは寝かせろ!!」
 ガッ!
 うち2人が、それぞれ美樹ちゃんの右脚と左脚を捕らえた。
自分たちの胴体の辺りにまで達する白いオーバーニーリングシューズにしがみついて。
さらにもう1人が、自らの全体重をかけて美樹ちゃんのバストに突進。
「キャッ!!」
 バランスを崩し、ついに美樹ちゃんは男3人がかりの攻撃の前に押し倒された。
「よし、一斉にかかれ!!」
 スケベ丸出しの顔で美樹ちゃんの胸元のリボンにうずまりながら、主将らしき男が残りのメンバーたちに指示する。
美樹ちゃんの両脚を刈り取った男2人もそれを受けて、リングシューズとスカートの間の生太腿に頬擦りしながら
ミニプリーツスカートを捲り上げようと手を伸ばしていく。
なんて羨まし…いや、破廉恥な奴らだ。
客席からも無責任というか、男たちの攻撃に興奮した煽りの声援が響いてくる。

「こ、このっ!!」
 真っ赤になった美樹ちゃんが、男たちの恥を知らない陵辱に声を荒げた。
しかし男たちは彼女を立ち上がらせまいと、全体重を押し付けながら彼女のボディを味わいつつへばりついている。
…だが、そのうちの男2人が次第に上昇していく。彼らの顔に焦りが見えた。
美樹ちゃんが弾みをつけて立ち上がろうと、両脚を持ち上げ始めたんだ。
7~80kg台の男が1人ずつ掴まっている脚を、高く掲げていく!
そしてその脚を振り下ろしながら、上体を起こして美樹ちゃんは一気に立ち上がった。
「最低!!許さないんだから!!」
 セーラー服型レオタード越しに粘着してバストの感触に酔い痴れていた男を美樹ちゃんは腕力で強引に引き剥がし、
頭上高く抱え上げてからのボディスラムでリングを大きく揺らした。
「ぎええ!!」
 277cmの美樹ちゃんにリフトアップされると、その高さは3mを超えるわけだ。
そこからのボディスラムだから、普通の民家の2階から思い切り投げ落とされるのと同じ。
そこに、怒りの込もった美樹ちゃんのパワーがプラスされる…これを喰らって平気な奴なんて絶対いない。
ほら、今投げ飛ばされた主将の男だって…背中から腰にかけての衝撃で立ち上がれないまま半泣きだ。

「いつまでつかまってるんですか、変態!!」
 バッシイイイン!!
「ウギャー!!」
 続いて、いまだ美樹ちゃんの両脚を離していなかった2人の背中にそれぞれ美樹ちゃんの張り手が炸裂する。
2発同時で合わさった打撃音と2人同時の絶叫がハーモニーとなって空にエコーを奏で、
2人のスケベ男は高圧電流で処刑されたかのようにその体をまっすぐにピンと伸ばしたまま悶絶し、ゆっくりと崩れ落ちた。
めいめい背中に、大きく真っ赤な手形を刻まれて。

「うおおお!!」
 その隙を突くように、もう1人の男が美樹ちゃんをバックから襲い、ミニスカにもぐりこみながらヒップにかぶりついていく。
こいつらは事前に丸聞こえだった内緒話どおり、欲望丸出しの下品な連中なんだ。
「いい加減にしてください!!」
 それにますます怒った美樹ちゃんが勢いよくお尻を真後ろに突き出す。
 ドン!!
お尻の一突きだけで、その男は大型車との衝突のごとく吹き飛んでマットに仰向けにスライディングしていく。
凄まじい力…体型の違いから実際には無理だけど、もし僕と美樹ちゃんが尻相撲をしたとしたら…
おそらく僕は丸めた紙くず同様にはるか遠く飛んでいってしまうだろう。
やはり、うちのプロレス研究会で僕以外のメンバーを全員戦闘不能にしてしまった圧倒的な力に間違いはなかった。

 相手の彼らは決して小さい男の集まりではないが、こうして美樹ちゃんに蹴散らされている姿を見ていると
実に小さくて非力な集団に見えてくる。
まるで、5人の小人が白雪姫にぶちのめされているような光景だ。
もう僕の中で、これが最後の試合かもしれないという悲壮感は消えていた。
こんな男5人程度が、美樹ちゃんにかなうはずがないと確信を持ったんだ。
いつの間にか僕はすっかり相手を見下ろした気持ちで、5人の男をまとめてやっつける美樹ちゃんの姿を眺めていた。

「こっ、このデカ女!これでも喰らえ!!」
 奴らの中の1人が乱戦に紛れて美樹ちゃんの背後のコーナーポストに登り、飛びかかろうとしている!
「危ない、美樹ちゃん!」
 僕のその言葉に振り向いて危機を察知した美樹ちゃんは咄嗟の判断で、
今まさにコーナーを蹴り出さんとしていた男めがけてその長い脚を振り抜いた。

 バシーン!!

 世界中でも美樹ちゃん以外には絶対不可能だと思われる、コーナー上の相手を立ったまま蹴り落とすハイキック!
その、砲撃とでも呼ぶべき思いキックに吹っ飛ばされた男はリングのはるか遠く、花道のコンクリートに墜落し
もうのた打ち回ることさえできない様子だ。
背中から全身を強打した鈍い音がここまで聞こえるほどだったから、その衝撃は推して知るべしだろう。
その恐ろしい一撃を目の当たりにした残りの4人も、さすがに動きが止まった。
あれを見せ付けられて、それでもなお彼女を押し倒してエッチなことでもしようなんて考えを引き続き持てるほうがおかしい。

 とても自分たちが手を出せる器じゃなかったことを今さらにして思い知らされた4人の男たちだったが、
この衆人環視の中女の子1人相手に逃げ出すわけにもいかず、ただまごまごしているところを美樹ちゃんに捕まる。
「えぇーいっ!!」
 ちぎっては投げ、の言葉はまさしく彼女のために贈られるべき表現だと思えた。
4人は1人ずつ美樹ちゃんの大きな手に上方から捕らわれ、あの3mボディスラムでマットに叩き伸ばされる。
さっき場外の路面に落下した男の喰らった衝撃ほどではないものの、その怪力と落差が合わさった
本職のプロレスラーでさえ出せないであろう破壊力のボディスラムに、男たちは立ち上がることができない。
しかもよく見ると、美樹ちゃんは男たちをまっすぐ横一列に寝かせるようにして叩きつけたようだ。
何をするつもりなのかと思っているうちに、美樹ちゃんはその巨体からは信じられない俊敏な動きで
近くのコーナー最上段に駆け上がった。いや、ほとんど一跨ぎだったが。
美樹ちゃんは一瞬だけ僕のほうに目を向けてから、川の字より1本線が多い状態で並んでダウンしたままの男たちに
目線を向けなおすと、コーナーの上で…僕が見せてくれと頼んでいた、あのポーズを!
「月に代わって…おっしおきよ!!」
 つ、ついに…本当にやってくれた!!恥ずかしいと言いながら、僕の教えたとおりに!
僕が彼女のリングコスチュームを考えた瞬間からずっと思い描いていた、まさに夢の瞬間だ!
そのアピールに場内全体からも歓声が沸き起こる中、美樹ちゃんはコーナーから勢いよく飛び立った。
風圧でミニをたなびかせながら宙を舞い落下してくる美樹ちゃんの姿に、男たちの表情が引きつる様子が
なぜかスローモーションのように僕の目に映った。

 ズゴオオオオッッ!!

 277cm、160kgのギガンティック・ミキの繰り出した重爆ギロチンドロップが…優秀院の男たち4人をまとめて!!
男たちの、リングシューズの下敷きにならなかった部分が衝撃で4人そろって数十cm浮き上がる。
小男など跨いで通過できてしまう美樹ちゃんの長い脚だからこそ可能な恐ろしい技だった。
発達した筋肉に覆われて太さもあるため、首どころか顔面や上半身の一部まで踏み潰してしまう、
本来の技の趣旨とは異なる一面はあるものの、その威力の前には誰も文句は言えないはず。
立ち上がった美樹ちゃんの下に残された男たちは、誰一人として意識を保っていない。…終わりだ。
カンカンカンカンカン!!
 客席のどよめきの中、ゴングが打ち鳴らされた。
美樹ちゃんはたった1人で、優秀院大学プロレス愛好会を撃退したんだ。
何もできず、実に格好の付かない僕だったけど、とりあえずコーナーに上がり美樹ちゃんの手を高々と掲げた。
それを受けて、半ば狂乱的な美樹コールが客席のいたるところから発生して渦を巻く。


「美樹ちゃん、今日はありがとう…本当に」
 試合を終えた帰り道、僕は普段着姿の巨大な美樹ちゃんを見上げながら感謝の気持ちを伝えた。
「あ、いえ…どういたしまして」
 僕の礼に応えながら、美樹ちゃんは赤らんだ頬に両手を当てている。
戦いが終わって気持ちが冷静になってきたことで、あの観衆の中あのコスチュームで大暴れしたことを思い起こし
改めて恥ずかしい気持ちが戻ってきたのだろうか。
僕も今にしてみれば、年頃の女の子にやや配慮が足りなかっただろうかと申し訳ない気持ちになってきた。
でも、試合中あれだけの圧倒的強さを見せ付けながら、今こうして顔を赤くして照れている女の子っぽさ…
その同居に、僕はますます美樹ちゃんに惹かれていく。

「ごめんね、美樹ちゃん。僕の勝手で恥ずかしい思いをさせちゃって」
「ううん、いいんです。…過ぎたことですから」
 表情を落ち着かせ、僕を気遣い返すように笑顔を見せながら美樹ちゃんは言った。
そんな美樹ちゃんの思いやりのある態度に感謝しながら、もう一方で僕は不安も感じていた。
『過ぎたこと』…やはり美樹ちゃんは、僕たちに手を貸すのはこれっきりと考えているみたいだ。
確かに僕たちは、次がプロレス研究会の存亡をかけた一戦だから力を貸して欲しいとバイトを頼んだんだけど…
しかしこれを最後にするなんて惜しい、惜しすぎる。
何せ美樹ちゃんは僕たちプロレス研究会を廃部どころかトップ取りにまで導けるかもしれない大器なんだ。
このチャンスを、逃すわけにはいかない…
それに僕個人が誰よりも、美樹ちゃんのことを…
あの強いギガンティック・ミキの勇姿を、もっと目に焼き付けたい。
美樹ちゃんと、一緒にいたい。

 だがどうすればいいんだ、これ以上どうやって彼女に頼めばいい。
恥ずかしいところを無理して付き合ってくれて、実際に試合で欲望むき出しの男に群がられるという目に遭った女の子に
もっと試合に出てくれなんて…
どうする、どうすれば…
僕は帰り道が美樹ちゃんと別れた後も、小さくなっていく彼女を延々見送りながら思案を続けていた。