三角関係 序章

夫の佐藤幸次はテレビを見ながら朝食を取っていました。
妻の小枝子もまた同じ番組を黙って見ています。
結婚して1年が経とうとしています。
結婚当初からごく普通の新婚生活を送っていました。

とても幸せでした。
あの出来事さえなければ・・・・

1-プロローグ

「小枝子」
「なに?」
「僕たちも引っ越さないか?」
「えっなんで?」
爽やかな朝の食卓で幸次の言葉に不思議そうな顔をする小枝子
「なんでじゃないだろう。この大きさでこの町に残ってるのは僕たちだけなんだよ」
「だから何?」
「何って危険だとは思わないのか?あんな巨大女たちに囲まれてるんだぞ」
ちょっと声を荒げた幸次に小枝子は
「危険なんて無いわよ。私達は親友が守ってくれてるのよ」
自慢そうに話す小枝子だが
「親友って綾子の事か?」
「えぇーそうよ。分かってるじゃないの」
小枝子は幸次に答えるが
「何を言ってるんだ、この家の土地を欲しそうな目で見てるぞ」
「まぁー幸次の考え過ぎよ。」
小枝子は笑いを抑えながら
「大体、綾子がまだ5mくらいの時に私にこう言ってくれたのよ
『小枝子が巨大化しなくても私が小枝子と幸次さんを守ってあげるから安心して』
そんな綾子がこの家の土地を欲しいだなんて・・・」
幸次に笑みはなかった。

「その時から綾子は変わってるんだ・・・・」


日本で開発された豊胸剤は今までの豊胸剤に比べると効果が非常に高く話題になりました。
しかし副作用がありました。
ある程度の胸が大きくなると女性は巨大化していきました。
わずか1年で50倍近く大きくなるのです。
それ以外は人体に何も影響はありませんでした。
男には全く効果がありませんでした。


幸次は仕事に行くため少し離れたトラックの駐車場に向かいました。
小枝子は既に仕事に出掛けてました。
歩いて行く道の向かいは綾子の家の敷地です。
幸次はいつも駐車場まで行く、この時間が一番憂鬱でした。

「幸次おはよう。」
いつも決まりきった言葉が上空から降り注ぎます。
幸次は立ち止まるとその声がした方へ顔を向けると
森のような庭の向こうから綾子が巨大なホースで庭に散水しています。
「やぁー綾子おはよう。」
大声で叫んで大きく手を振ります。
そうしないと無視したと言って機嫌が悪くなります。

綾子は水を撒きながらこちらにやって来る。
巨大なホースから出る凄まじい水量は凄まじく、
「おい、出勤前にベタベタになってしまうよ」
綾子に叫びます。
滝のように地面を叩き付ける水からは何とか逃げたが地面から跳ね返る泥水でベルト付近まで汚れてしまいました。
「あら、ごめんなさい。」
綾子は水を止めると庭から大股でゆっくりと幸次の方へ歩いてきました。

白い大きめのTシャツとホットパンツのどう見ても寝巻き姿です。
綾子と目を合わせて話そうとするだけで幸次には疲労が溜まってしまいます。
今の綾子は85mを越える巨人です。
トラックの前にいる幸次と道路を挟んで向こうにいる仁王立ちの綾子ですが、
それでも首を精一杯曲げ見上げないと目線が合いません。
しかも豊胸剤のおかげで突き出た胸は山のようでした。

そんな胸が視野に入ると恥ずかしくて目線を外してしまいます。

「幸次、濡れてないかしら?」
小枝子と綾子は同い年の親友で、幸次の一つ年下でした。
昔は「鈴木さん」とか「幸次さん」とさん付で読んでいましたが、巨大化してからは呼び捨てになりました。
「心配してくれてありがとう全然問題ないよ」
「よかったわ。これから仕事なの?」
「そうだよ。」
すると綾子はクスクスと笑いました。
「何が可笑しいんだい?」
「もし、私と結婚してたら今頃仕事なんて行かなくても遊んで暮らせてたと思うとね」
幸次はやれやれと言う表情でトラックのドアノブに手を掛ける。
「僕は働くことが大好きだから毎日が楽しいよ」
「でも今の仕事も私たちに取られちゃうわよ。」
小枝子の言うとおりトラックでの運送業も巨大女にとっては、朝飯前である。
しかも一度に運べる量も幸次が乗っているトラック15台分にも相当するので
出来高制の給料では完全に巨大女に負けてしまう。

「そうしたらまた新しい仕事探すまでさ」
「そんな小さな体で力仕事なんて無理よ。私たちがやちゃうから、直ぐに失業しちゃうわよ」
確かに力仕事では全く敵わない
「まぁー仕事なんて色々あるから、何か見つかるよ」

「幸次と私が結婚してたらどうなっていたのかな?」
冗談っぽく笑顔で話す綾子が更に近づきトラックの前に足を下しました。
大型免許でしか運転できないトラックが綾子のサンダルよりも小さい。

「相手が小枝子だから、あの時は仕方ないと思ったけど・・・」
綾子はトラックの前で幸次との目線を外さず屈み込み
「でも今の私って小枝子よりも魅力的だと思わない?」

「何が言いたいんだ!!」

幸次は嫌な予感に体を強張らせながら叫びました。
「何なら今から奪っちゃおうかな・・・」
「どういう意味だ?」

「簡単よ。幸次を摘まみあげてこの中に入れれば・・・」
摘まんだ格好をした右手をTシャツの胸元を左手で広げて
露わになった大きな胸の谷間に右手で入れる素振りをしながら
「あとはそのまま家の中に入るだけよ・・・簡単なもんよ」

真顔な幸次を見て綾子は笑ってました。
胸を反らし笑うので白いTシャツの中で大きな山が躍動しています。
「そんな事したら逮捕されるぞ!!」
笑いを遮るように幸次は叫びます。
「んっ?誰に逮捕されるのかな?小さな男性警察官に私を逮捕できると思うの?」
再び綾子が吹き出しそうな顔になります。

「じゃ綾子と同じ大きさの婦人警官が逮捕してくれるさ」
もう綾子は我慢できず再び大笑いを始めた。
お腹を手で押さえ抱え込む様に大笑いをする為、さらにTシャツの中で山が大きく揺れています。

「何がそんなに可笑しいんだ!!」
その状況に幸次は理解できず聞き返す頃には綾子も落ち着いていた
「可笑しわよ。大きな婦人警官がちっぽけな男なんて助けないわ。むしろ私たちの味方よ」
理解できない様子の幸次に綾子は
「だいたい法律なんて今私たちの大きな人の生活が良くなる様に変わってるのよ。
これだけの世界が変化があるのに、変わろうとしないのがダメなのよ。小枝子みたいに・・・」

全くその通りでした。始まりは豊胸剤だったので小枝子には必要なかったのです。
それが周りの女性が巨大化していく中で小枝子は
「あんな大きな胸なんていらないわ」
まだ胸の事を気にしていました。

幸次は巨大な庭の向こうに見える綾子の家を眺めていました。
その家は実際のところは、1LDKの簡素な家ですが独身の綾子には十分でした。
ただし綾子が住めるほど巨大です。隣にある幸次と小枝子の家は西洋の様式を取り入れた
8LDKで、この辺では豪華な作りを30年ローンで建てましたが綾子の家と比較するとあまりにも小さすぎます。
綾子の言うとおり、あの家に連れ込まれたら脱出する事は不可能でしょう。

「先月、お隣の吉田さんと佐々木さんの土地を買ったの。
その向かいの岡本さんと佐藤さんにお願いするんだけど多分夜逃げして誰もいないから貰うことになるわ。
そうなるとこの区画全体が私の土地なの。もちろん幸次の家を除いてね。そろそろ私に土地を譲ってくれないかしら?」

「それが小枝子が引っ越したくないって言うから」
「そうなの・・・・私には計画があって幸次の家の前をテラスにするの」

「だったら家は関係ないじゃないか?」

「そうなんだけどテラスの前にドアを付けようとするとちょうど幸次の家の前なの
そうすると遊びに来た女友達が誤ってあなた達の家を踏み潰してしまいそうで・・・」

綾子は幸次のトラックよりも大きなサンダルを上下に動かし地面をずしんずしんと打ち付けると
その振動で大型のトラックは大きく揺れ幸次も倒れないようにトラックにしがみつきました。
綾子の微笑みと明るい声は幸次には脅迫にしか聞こえませんでした。


「綾子、悪いが仕事に遅刻してしまう!!」
幸次はトラックに乗り込みエンジンを掛けました。前方には綾子の大きな脚がトラック進行を
ふさいでいました。
トラックを少し動かし脚にあたる寸前まで移動して綾子が動いてくれるのを待っていましたが
綾子はそのままの姿勢で佇んだままでトラックを見下ろしていました。

窓を開けて顔を出すと
「綾子どいてくれないか?本当に仕事に間に合わなくなる」
「あら、ごめんなさい。」

それでも綾子は屈んだ体制から足を少しずつずらし両脚のサンダルの間に隙間を作って
「どうぞ幸次、気を付けてね。」
どうやらこの隙間を通り、仕事に行けと言ってるようです。

幸次は大きくため息をついた。こうやって綾子と話をして、もどうしようもない事は分かっていました。
それよりも綾子は、自分の大きさを小さな人間に誇示しようとするのです。
それが楽しくて仕方ないのです。

トラックがギリギリすり抜けれる位の大きなサンダルの壁に接触する事は許されません。
接触すると綾子が嬉しそうな笑みを浮かべて何を言ってくるか分かりません。

トラックはサンダルの壁を潜り抜けて道路を加速していきました。
「それじゃ、お仕事頑張ってね。1ヶ月精々働いても私の1日の給料にもならないけどね。。」

トラックは道路を疾走するがエンジン音よりも大きな
綾子笑い声が静寂な街の中を響き渡っていました。